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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第三章 第一節 落日の時

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上書き

 聖王騎士団は元は王や王族を守るために作られた組織だ。


 中央騎士団と呼ばれる別組織があるのだが、各副都や街にある騎士団の統括組織。

 そのため、戦力らしい戦力をあまり持たず、聖王騎士団が王都やその周辺の守りを固めている。


 そんな聖王騎士団にも大きく分けて3つの組織がある。


 ゼナイドたちが所属する聖騎士団、ミュースが団長を務める聖歌騎士団、そしてブルートが団長を務める飛竜騎士団だ。


(そして、私の今の主人は……)


 デフェットは思考を現実に戻しながら前を歩く線の細い男性の背中を見つめる。


 ミュース・レイヴィ。

 聖歌騎士団の団長でありながらも優秀な魔導師。

 例えば、ライトたちの捕縛に使った指揮棒。あれは彼が作ったエクステッドだ。


 研究家気質かと思えば戦闘に関しても充分以上の実力を持ち、デフェットは噂を聞いた程度だが音楽の才能もあるという。


 本来であれば一矢報いたいところだが、それを思い留まらせていることが1つある。


 それは自分が彼の奴隷になっている、ということだ。


 奴隷だからではなく“所有者がミュースに変わっている”という事実がデフェットを踏み留まらせている。


 本来譲渡には元の所有者の許可がなければならないのに加えて同じ魔術陣の上で行う術だ。

 そんな脱出の絶好の機会をあのライトがみすみす逃すだろうか。


 失敗した可能性もあるにはある。

 しかし、所有者がミュースになった際に彼はこう言った。


「私の説得に彼が応じて快く君を差し出した」


(信じられるわけがない。そんなもの)


 もちろんライトが自分を差し出すことで何か得ることができたというのであれば異論はない。

 あろうともそれを押し殺す。


 しかし、現実はどうだろうか。


 デフェットは奴隷用の個室に押し込められ続けていたため詳しくは知らないが、処刑されかけたということだけはミュースから聞いている。


 つまるところライトが得たものなどなにもないのだ。


 ほぼ確実にミュースはライトから無理やり自分の所有権を奪った。

 だとすればなぜそれを隠すのか。


 デフェットにはその理由が浮かばなかった。

 そのせいで「本当に彼は所有権を自分の意思で渡したのでは?」と思うようになった。


 それがデフェットがミュースへと命を賭けた一撃を向けない理由である。


 もしそうであるとすれば自分の行いはライトの意思に反するものになってしまうのではないのか。

 その考えがデフェットの行動を押し留めている。


 デフェットはミュースに続いて通路を歩きながら横目で窓の景色を見る。


 どんよりとした黒い雲。

 それはまさに今のデフェットの心情そのもので、そこから降り注ぐ白い雪もまた彼女の不安を表しているようだった。


「おや、もう3月だというのにまだ雪が降るのですね」


「ッ!?」


 突然、前から声がしてデフェットは慌ててその方向へと向き直るとミュースが視線を向けていた。

 目が合うやいなや彼女はすぐさま頭を下げた。


「も、申し訳ありません。よそ見などーー」


「いえいえ、構いませんよ。

 あなたたちは北副都(ノズ)に来たことはないのでしょう?

 であれば雪も珍しいもの。見てしまうのは仕方のないことです。

 失態でもありませんし、咎めませんよ」


「お心遣い感謝いたします。主人」


「ええ。感謝されるついでにあなたに1つ、お仕事です」


「はい」


 表面上は冷静に。

 そう思っていたが、彼の口から出た言葉を聞いたデフェットは目を見開いた。


(目の前にいる男は一体、なにを言っているんだ?)


 そう思ったデフェットへとミュースは変わらぬ声音と表情で続ける。


「これは飛竜騎士団に恩を押し付ける機会です。

 きちんと遂行するように。

 ……まぁ、奴隷であるあなたに拒否権などありませんが」


 奴隷が逆らおうとすれば契約の魔術陣から全身に激痛が走しらせることが可能だ。

 それでも従わなければ体だけを無理やり動かす命令を行使することさえもできてしまう。


 ライトは決してそれを使わなかったが、奴隷は所持者には逆らえない。


「……っ、はい」


 ゆえにデフェットはそう頷くしかなかった。


◇◇◇


 ウィンリィがいるのは北副都ノズ。そこの王城にある従者用の一室だ。


 ゼナイドの介入により牢から出ることはできた。

 城の中だけ、監視を複数付けるという条件はあるが自由に歩くこともできるようになった。


 しかし、当然ながらウィンリィの目的はここからの脱出とライトとの合流。デフェット、ミーツェの発見だ。


 最優先であるこの場所からの脱出だが、どうにもその機会は訪れない。

 他にどうにか策はないかと頭を捻るウィンリィ。


(あー、くそ。頭が重い)


 頭に妙な痛みが走る。

 記憶も飛び飛びになることが多いことから考えるに、おそらく洗脳か催眠でも受けているのだろう。


 だとすれば時間がない。


 まだここから出ることが念頭にあったり、魔王の同行者という扱いを受けているあたり完全に掛かっているわけではないのだろう。

 だが、それもいつまで持つかわからない。

 

(ここは強行突破でもして……武器、せめて手頃な棒があれば)


 そんな時、部屋の扉が開かれた。

 入ってきたのはもはや見飽きた男だった。


 名前はブルート・ドラング。

 飛竜騎士団の団長であり、剣の腕であれば指折りの実力者の男だ。


 なにが目的かまるでわからないが、北副都に来てからずっと飛竜騎士団に入るように誘い続けている。


 今回もそのことだろうとウィンリィは思い、ぶっきらぼうに言い捨てた。


「何回言えばいいんだ? 私は騎士団になんて入らない。

 わかったらさっさと帰れ」


「……変わらないのか? その意思は」


 予想外の言葉に眉をひそめた。

 いつもならここで何かしら説得の言葉を投げかけてくるはずだ。


 しかし、今回は確認の言葉だった。

 さらによく考えればいつもはいる彼の護衛のような者たちがいない。


 嫌な予感がした。


 ウィンリィがさらに言葉を投げようとしたところで彼の後ろから見慣れた人物が現れる。


「デフェ……?」


 デフェットはウィンリィを見て何も言わない。

 それどころか目すら合わせようとしない。


「お前、なんでそっちにい、ッ!?」


 そのことを問おうとした瞬間、頭の中に何かが差し込まれた。


(なんだ……なんだ、これ!?)


 視界が揺れ、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回す感覚に襲われたウィンリィは膝を折り、頭を抑えた。


 気持ち悪い。


 ただ不快だった。

 自分の大切なものを無理やり踏み込まれているようで、踏み荒らされているようで、笑われているようで。


「ぐっ……!? なん、だ? なにをし……た」


 吐き気を抑えつけながら見上げた瞬間、自分がわからなくなった。


 デフェットに対しては変わらない。

 だが、ブルートは違った。


 まるで今まで旅をしていたのはライトではなく、ブルートであったかのような安心感や信頼感を覚えたのだ。


(なんだこれ……!)


 今まで話し合い、背中を任せあったのがライトではなく、ブルートであったかのような感覚。


「やめろ……」


 共に歩いていたのはブルートで、笑い合いながらも時々ぶつかり合っていたり、色々な場所を巡り、人に出会って自分の不安を打ち明けたのも。


 自分が抱いていたある感情を向けていた相手もーー。


「違うっ!!

 お前じゃない! お前なんかじゃーー」


「ウィン殿」


「デ、フェ! お前の主人は誰だ? 私たちが一緒に旅をしていたのは!?」


 縋るような目だった。

 ウィンリィは自分の中に突如として湧いてきたこの違和感を認める存在を求めている。


 もちろんそれはデフェットもわかっていた。


 だが、彼女は伸ばされたその手を振り払った。


「私の主人は、ブルート。旅をしてきたのも彼だ」


 瞬間、ウィンリィの記憶の中からライトという存在は消えた。

 それと同時に頭の中を掻き回す不快な感覚も消え去った。


「あ……れ?」


 戸惑いながら自分の両手を見つめるウィンリィ。


 ブルートはそんな彼女と視線を合わせるためにしゃがみながら声をかける。


「大丈夫か? ウィンリィ」


「は? え、あ、ブルートか……いや、なんでもない」


「そうか。急に座り込んだから驚いたぞ。

 疲れてたんじゃないのか?」


「疲れ……?

 あ、ああ。そう、かもな」


 ウィンリィはそう言うと少し恥ずかしそうに笑う。


 その目に涙を浮かべながら彼女はただいつもと同じように笑っていた。


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