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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第三章 第一節 落日の時

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力の覚悟

 ゼナイドはある人物に呼ばれ王城を訪れていた。


 ライト救出から3日。

 警戒は続けているが自分たちをどうこうするという話は聞いていない。


 バレてはいるだろうが証拠がない。もしくは、勇者派のテリトリーということで手をこまねいているかのどちらか、もしかすると両方という可能性もある。


 後者であれば図らずしもあまり頼りたくない者たちのおかげで今があるのは少々癪な話だ。

 しかし、今は気にする余裕はない。


 今日が終わりの日かもしれないとも思ったが、ゼナイドを呼んだのはポーラだ。

 彼女もまたライトの件で思うところがある人物の1人。

 そして、実質的な軟禁から解かれてすぐに呼び出されたことに理由はあるはずだ。


(少なくとも捕まるようなことはない、と信じたいところだが……)


 ともかくそれは実際に会ってみてわかることだ。


 ゼナイドは談話室の前に立つと扉をノックして告げる。


「ゼナイド・ミリアス。到着しました」


「どうぞ。入ってください」


 扉の向こうから聞こえたポーラの声、それに従ってゼナイドは扉を開き、その部屋に足を踏み入れた。


◇◇◇


 ベランダに置かれた椅子。そこに座ったゼナイドの前にあるテーブルにメイドが紅茶を淹れたカップを置いた。

 それに軽く礼を言った彼女は向かい合う位置で一足先にカップに口をつけていたポーラへと視線を向ける。


 ポーラはその視線を受けながら一息つくとそれを置きながら口を開いた。


「まず、お忙しいところでの突然の申し立てへの謝罪と応えて頂いた感謝を」


「い、いえ……私は騎士として当然の仕事をしたまでですので」


「騎士として当然、ですか……」


 ポツリと呟いたかと思うとポーラは自虐的な笑みを浮かべると、誰かを責めるような少し冷たい口調で言う。


「では、貴族、王族の仕事とはなんでしょう?」


 ゼナイドはその問いに答えるべきか迷い、膝に乗せた手を握った。

 少し視線を泳がせると恐る恐ると言った様子で正直に答える。


「民を導くこと、です」


「ふふっ、正直ですね。ゼナイド様は。

 ああ、いえ! 責めてるわけではないのです」


 そう言うポーラの笑顔はとても痛々しかった。

 それを間近で見たゼナイドはその顔を見ていられなくなり、咄嗟に俯いた。


(責めているわけではない……か)


 たしかに彼女はゼナイドを責めてはいない。

 責めているとすればそれは他ならぬポーラ自身だ。


 民を導くはずの自分は何をした?


 答えは簡単だ。何もしていない。


 ただライトを殺せと言う民の声に「間違いだ」と「勘違いだ」と叫ぶことすら出来ず、部屋に押し込まれ続けていただけだ。


 誰かが彼を助けてくれるように祈り続けていただけ。

 そんな王族としての仕事を何1つできなかった自分をポーラは責め続けているのだ。


「ライト様は……どうなりましたか?」


「……わかりません。何者かが手引きしたようですが、私はその場におりませんでしたので」


「そうですか」


 どこか胸をなでおろすように言ったポーラは外の景色、より正確には青い空を見つめる。


「今、ライト様はこの空を見ているのでしょうか?」


「私個人としてはそうであってほしいとは思います」


 その答えがポーラの決意の決め手となった。

 彼女は綺麗にお辞儀をした。


「ゼナイド様、お願いがございます。

 私に、戦うための術を、剣を教えていただきたいのです」


「なっ!?」


 それを聞いたゼナイドはテーブルを叩くと椅子を蹴飛ばしながら立ち上がり、声を荒げる。


「な、なりません! ポーラ様はセントリア王国の第三王女。何かあれば民たちが」


「ええ、民たちは悲しむでしょう。

 ですが、此度の一件で私は思いました。

 力が欲しい、と……」


 ポーラは紅茶の液面を見つめる。

 そこに映った自分を睨みつけてから両手へと視線を落とした。


 そこにあるのは華奢な指と綺麗な手のひらだ。


 誰も導けず、誰も救えず、好きな者を守ることも出来なかった小さな手だ。


 ゼナイドも彼女の気持ちは痛いほどにわかる。

 今回の件はとにかく自分の無力さを痛感させられることだった。


 自分もたしかに思っている。

 もっと力があれば、と。


 だが、それでもゼナイドは首を横に振りながら答える。


「やはり、ポーラ様に剣を与えるわけには参りません」


 それを聞き、ゼナイドに劣らない勢いで立ち上がったポーラは言葉を荒げた。


「っ、なぜですか!

 私は嫌なのです。無力な自分が、力のない自分が! 憎いとすら感じるのです!

 そんな自分を変えることすらダメだと言うのですか!?」


「では問います。

 ポーラ様は得た力を民へと向けることが出来ますか?」


「な!?」


 冷や水を浴びせられたような感覚だった。

 予想外の単語が出たことにより、返す言葉を失ったポーラへとゼナイドは話を続ける。


「力を望むということはそういうことなのです。ポーラ様。

 大きな力を持てばより多くの者を守ることが出来ます。ですが同時により多くの者を切り捨てることにもなるのです。

 それでもなお、ポーラ様は力を望みますか?」


「私が多くを切り捨てる……」


「力には常に切り捨てたものを背負う覚悟が必要なのです。

 覚悟のない力などただの暴力に過ぎませんから」


 救う力は同時に奪う力でもある。


 力そのものに善悪はないのだから当然だ。

 違いがあるとすればそこに覚悟があるかないかというところだけだろう。


 ゼナイドからしてみれば今のポーラは自分を殺すため、奪うために力を欲している状態であり、そこに覚悟はない。


「私の、覚悟……」


 呟きながらポーラは自分を落ち着かせるように息をついて椅子に深く腰をかけた。


 しばらく考え込んでいたポーラはふっと表情を和らげ、頭を下げた。


「申し訳ありません。ゼナイド様。

 少し焦り過ぎましたわ」


「い、いえ、頭をあげてくださいポーラ様。

 その、そういう考えに行き着くのは仕方のないことですし……」


 先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか。ゼナイドは慌てた様子で言葉を紡いでいる。

 そんな彼女を見てポーラは再び自分の手を見つめた。


 ポーラはその手を愛おしそうに握りしめるとゼナイドへと言葉を向ける。


「ゼナイド様、改めて私に剣の術を教えていただけませんか?」


「……ポーラ様の覚悟は?」


「この手を」


 ポーラが差し出したのは綺麗な手だ。

 いつ見ても小さくて華奢で柔らかそうな手だ。


 しかし、彼女が求めている答えがそれでないのはゼナイドでもわかる。

 わかりはするが、では何を求めているのか。


 視線で問いかけるゼナイドにポーラは微笑んだ。


「この小さな手。この手で誰かを守りたい、救いたい」


「その手から溢れたものは?」


「……切り捨てましょう。他の誰でもない私が判断し、私が下し、私が背負いましょう。

 それは覚悟になりませんか?」


 力で守れるものがあるのは間違いない。自分がその証人だ。

 南副都で見た太陽のような光はまさに守るための光、力だった。


 しかし、それでも救えないものはある。

 切り捨てなければならないものはある。


 だが、生きているのだ。守られたものはこうして生きているのだ。

 守れたものを抱えながら、切り捨てたものは切り捨てたものとして背負い続ける。


 ポーラが行き着いたその答えは、まさにライトが約1年の旅で得た1つの答えそのものであった。


 それを聞いたゼナイドは満足気に頷いた。


「充分すぎる覚悟でございます。

 不肖ゼナイド・ミリアス。ポーラ様に戦うための術の1つをお教えしましょう」


「……っ、はい! よろしくお願いしますね」


 ポーラは決意を新たにした瞳でゼナイドに言葉を返した。


前回言いそびれていましたが、しばらくライトから視点が外れます。

また、次回は少し短めになるかもしれません。

共にご了承のほどよろしくお願いいたします。

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