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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第三章 第一節 落日の時

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捕縛

 流石に王都内では騎士も大きく行動に出ることはできない。

 その予想通り王都内の追っ手はまだ手薄だった。


 おそらくこのまま時間が経てば王都の中での騎士も増え、街を囲う壁にもより戦力が集まり脱出が困難になる。


 そう考えたライトたちは民家の屋根から屋根へと飛び移りながら一直線に壁へと向かった。


 しかし、そうなることはすでに予想通りだったようで上からは騎士や魔導師たちの怒声に似た声が聞こえている。


 彼らを目に捉えウィンリィが真っ先に叫んだ。


「デフェ! 私を投げろ!!」


「了解した!」


 そう答えると同時にデフェットはウィンリィを放り投げた。

 身を宙に舞わせたウィンリィは体を捻りながら剣の腹で騎士の頭を殴りつけた。


 ガンッと重い音を響かせたかと思うとそれを受けた騎士は倒れた。

 彼女はそれを一瞥することもなく次の敵へ。


 ウィンリィの振るった剣と彼女に狙われた騎士の弓が打つかる。

 その状態で騎士は矢を番えようとしたがそれを許すほど彼女も甘くはない。


 一瞬だけ両腕の力を緩ませ騎士を前のめりにさせる。

 体と共に前へと出た頭を掴むと躊躇なく地面に叩きつけた。


 石道と騎士兜との間に鈍い音が響かせその騎士は意識を失った。


 そんな大立ち回りを繰り広げ、立ち上がろうとするウィンリィへと1人の騎士が矢を放つ。

 

 まだ中途半端に立ち上がろうとしている中でその一撃をかわせるわけもない。


 しかし、かわす必要ない。


 ウィンリィを狙って飛んだ矢は間に入ったライトのソラスにより弾かれた。


 ライトはクラウを投げ飛ばし矢を放った騎士の足首に絡み付けると引っ張った。


「うお!?」


 驚きの声を上げながら尻餅をついた騎士が引かれた先にはインフェルノガントレットを構えたライトがいた。


 ヒッと小さく息を飲むのと同時、腹へと強烈な一撃が落ち、騎士は意識を失った。


 とりあえずひとかたまりとなっていた騎士たちを片付けたが、他の騎士たちも続々と壁に登り、ライトたちへと向かっている。


「主人殿! 魔術が来る!」


創造(クリエイション)、グランド・ウォール」


 デフェットの言葉を受けたライトは咄嗟に唱える。

 瞬間、彼らへの通路を塞ぐように厚さ3メートルの土の壁ができた。

 ライトが作った壁にいくつもの光弾が当たる音を聞きながら彼ら壁の外側、王都の外へと飛び降りた。


 走り去る彼らの背中を見てとある部隊の隊長である騎士の1人がすぐさま指示を飛ばす。


「王都の外に出られた! 誰でもいい! 至急、追撃部隊の編成をするように報告をーー」


「隊長!」


 しかしその言葉が全て出る直前、部下の1人が慌てた様子で呼びかけ、言葉を続ける。


「聖王騎士団から報告! せ、聖歌騎士団が彼らの捕縛に向かったとのこと。

 追撃は中止、“彼”に全て任せろと」


「ッ!? いや、魔王を捕らえることを考えれば当然か」


 騎士隊長は合点がいったように呟くと小さくなったライトたちの背中を見つめた。


◇◇◇


 王都を駆け抜けたライトたちが向かっていたのは南だった。


 本来ならば家があり、ワイハント商会の影響力も強い東に向かうつもりだったのだが、王都側もそれを理解しているはずだ。

 そのため、まずは東並みに人の出入りが激しい南へ進み、そこを経由して東へ向かう。


 そうするはずだった。


 目の前に1人の男がいた。

 見るからに綺麗に整えられている金髪の長髪、女性のような美しい顔立ちにある黄緑色の瞳でライトたちを見つめている。


 放たれる雰囲気からただの通りすがりの人間ではない。

 どこか小洒落た服を着て武器らしい武器を持っていない彼だが、追手だ。


 その確信を後押しするようにミーツェがライトたちへと伝える。


「ミュース・レイヴィ。聖歌騎士団の団長です」


 そもそも聖歌騎士団とはなにかを問いたいところだったが、今その説明を求める時間もなければ受ける時間もない。


 ともかく先回りされていたという事実はたしかだ。

 それに歯噛みしたライトだったがすぐに言葉を投げかける。


「そこを退け」


「そうしたいのは山々ですが……私も一応は騎士を名乗っていますので、王の命令に逆らうわけにはいかないのです」


「たった1人で4人を相手にする、と?」


 ウィンリィの言葉を受けたミュースは首を縦に振った。

 迷いのない肯定にライトたちが眉をひそめる中、彼は続ける。


「他の者を向かわせるより、私が行く方が確実ですから。

 それに私たちも手一杯なところがあるのでーー」


 言うと懐から1本の棒を取り出した。

 ただの棒ではない。綺麗に形を整えられた指揮棒だ。


「ーーすぐに終わらせます」


 そう言うと同時に指揮棒が振るわれた。


 それに呼応するように無から現れたのは腕を胸元で交差させ、足は布でグルグルに巻き、目には目隠しがされた不思議な光の像10体だ。

 所々が崩れているようにも見えるが口だけはしっかりと形を残しているのが妙に印象に残る。


 そして、ミュースはその像の方を向くと指揮棒を振るいながら小さく唱える。


「ロンド」


 その指示に従うように像たちは綺麗な声で歌い始めた。

 辛うじて声であることはわかるが、もはや楽器の音色で例えた方が良いほどに綺麗な音だ。


 その歌に呼応するように現れたのは20体の土人形。

 それぞれ手には同じく土で形作られた斧やスコップ、鎌に鍬などを持っている。

 それらは標的であるライトたちを囲むと何か合図するでもなく飛びかかった。


 しかし、ライトもそれを許す気はない。


「エアカッター・ストラトス!」


 即座に放たれた無数の風の刃は向かい来る土人形たちを切り刻み、元の土塊へと戻った。


「よし! 今のうちにーー」


「ーーいや待て!」


 走り出そうとしたライトだったがそれをデフェットが止める。

 その理由を問おうと口を開きかけたところでライトもその理由を知った。


「これは、やばいな」


 ウィンリィが冷や汗を浮かべて後ずさる。


 彼らの目の前では土塊たちが勝手に動き出し、勝手にくっ付き合い、元の人型へと戻っていた。


 なぜか数体、腕が多くなっていたり、逆に少なくなっていたりしている個体があるが、それがより不気味さを際立たせていた。


「くそっ、まるでシリアルキラーだな」


 悪態をつきながら呟いたライトの後ろにいたミーツェがならば、と弓矢を構える。

 狙いはただ1つ、ミュースだ。


「ミーツェ!」


「今狙わなければ我々は捕まります!」


 止めようとしたライトへ語気を強めながら答えたミーツェは矢を放つ。

 しかし、放たれた矢は間に割り込んだ土人形が防いだ。


 崩れた土人形はすぐさまその傷を埋め、何事もなかったかのように立ち上がるとライトたちの包囲に戻った。


 別の土人形を切り捨て、さらに別の個体の胸に剣を突き刺し、蹴飛ばしながらウィンリィが叫ぶ。


「ライト! このままだとすり潰される!」


 それに続いたのはレイピアで2体の土人形を貫いたデフェット。


「ああ! ゴブリン共とは大違いだ。まともに隙が見えん!」


「わかっている!」


 そうは言うが案がない。

 創造(クリエイション)を使っても不意を突くのがせいぜいでこの状況を完全に打破することはできない。


 ガラディーンを使おうにも展開を許してくれそうにもない。


(……なら!)


 それを決めたライトはミーツェへと言葉をかける。


「ミーツェ、俺たちが時間を稼ぐからミーツェだけでも逃げてくれ」


「なっ!? ま、待ってください! まだ私たちに手はあります」


「ダメだ! もう俺たちは囲まれてる!

 全員は抜け出せない。でも、ミーツェなら可能性はあるんだ」


 言いながらマントからワイハント商会の記章を渡した。


 ミーツェはそれを突き返そうとしたがその手はライトは微笑みながら押し返す。


「ダメです! 逃げるならライト様が逃げてください」


「それこそダメだ。俺だけだと別の追手を差し向けられた時点で詰む。

 でも、ミーツェはまだ見逃される可能性があるんだ」


「で、ですが! 私はライト様の従者でーー」


「なら命令だ。

 ワイハントさんにこのことを伝えろ」


 ミーツェの言葉を遮り発せられたそれはライトがミーツェに下す初めての命令であった。


 彼女は再び何か言おうとしたが、それを首元で押さえつけ、小さく頷いた。


「……ありがとう」


 小さく礼を言ったライトはミーツェを抱えると土人形の壁の外へと放り出した。


 難なく着地した彼女を追おうと数体の土人形が向かおうとしたが、その足をライトの放ったエアカッターに切り落とされ、防がれた。


 包囲の外に見えるミーツェの背中を見たライトは小さく息を吐き、ウィンリィたちに背中を預けながら言う。


「2人とも、ごめん。

 さすがに1人しか逃がせそうにないや」


「充分だ。あいつならどうにか上手くやるさ」


「うむ。今はミーツェ殿に賭けるとしよう」


 3人は自分たちを取り囲むそれらへと武器を構えた。


◇◇◇


 それから約30分後のこと。


「……意外と時間はかかりましたね」


 地面に倒れたライトたちをみてミュースはそう呟いた。


 しかし、それを見ても喜ぶことはなく、重いため息をつき再び言葉を漏らす。


「はてさて、1人取り逃がした言い訳、なんとしましょうか」

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