その後について
ゴブリン、オーク。そしてオーガ討伐戦。
オーガ群討伐戦と名付けられた戦闘から一週間ほどが過ぎた。
そのオーガ群が住処としていた洞窟内に数人の人間がいた。
彼らは今回の異常について調査をしている者たちである。
その中には関わった一人として、また調査団の護衛としてバウラーの姿もあった。
「……なるほど。そういうことか」
バウラーの呟きに側にいた一人が頷く。
「はい。間違いありません。
まだ調査が始まって一週間ほどなので詳しいことまではまだ……ですが––––」
調査団の一人はその洞窟の小部屋に広がる魔術陣を見る。
「––––これは、転移陣です。
いや、だった。の方が正しいですね。
今はもう塞がれており、何も意味を成していませんから」
彼らが今いる小部屋はオーガ群討伐戦の終結した次の日から始まった洞窟内調査で見つけた隠し部屋だ。
二体のオーガの死体があった大部屋のさらに奥に脆い壁を見つけ破壊した先にあったのがここだ。
その先にあったものがこの小部屋と床に刻まれた【転移陣】と呼ばれるものだった。
「私は魔術には疎くてな……やはり、すごいものか?」
「すごい、なんてものじゃないです。これを発動するだけでもどれほどの人がいるか……。
さらに維持まで安定してやってのけるなんて、並大抵の力じゃ出来ませんよ」
調査団の男性は興奮気味でまくしたてるように言った。
早口ではあったが、話を理解できた別の男性から声が上がる。
その男性はバウラーと共に調査団の護衛をしているものだ。
「ということは、だ。
指揮をしていたのはオーガではなく……」
「ああ、おそらく別の何か。魔王の手下かもしれんな」
指揮していたものが誰であれあの数を用意できた理由はわかった。
おそらく、あの大量のゴブリンやオークはここに住んでいたわけではなく、この転移陣から無数に送り込まれていたのだろう。
しかし、それにより大きな問題が明確な形となった。
「ということは、もしかしたら国内に魔王の手下が入っている可能性がある……ということか」
「まぁ、そうだな」
このオーガ群討伐戦が開始されるまでに混乱が生まれていたのは確かだ。
騎士団もほとんど来ないような場所ではその混乱に乗じ、国内に入り込むことなど造作もない事だろう。
いや、そもそも国内にはすでに魔王の手が浸透している可能性まである。
「……どうする?これはまずいことになるぞ」
「どうするもこうするも伝えられるわけがないだろ?
まだ未確定の予想だ」
そう、これはまだ予想の域を出ない。
もしかしたらゴブリン、オーク、オーガの大軍はその近辺にいる人間を駆逐するために送り出された先遣隊である可能性もある。
だとすれば手下自体はまだ入ってきていない可能性もありはする。
「しかし、誰にも伝えないのはまずい。
予想とはいえせめて各ギルドの管理者ぐらいには伝えておいた方がいい」
「……そうだな」
ひとまず予想とはいえ伝えておき何かあったときに対処できるように促す必要はある。
「調査団の皆さんはまだ?」
「ええ、そうですね。もう少し調べてみます。隠し部屋がまだあるかもしれませんゆえね」
「了解しました。
では、護衛には引き続き誰かをつかせましょう」
調査団のリーダーである男性はどこか申し訳なさそうに礼を言った。
顔を上げたところでふとそこでバウラーの言葉に違和感を感じ、問いかける。
「誰か、ということはあなた方は?」
「我々は別の町に向かいます。
他の場所でも似たようなことがあるかもしれませんからね」
そうして、バウラーとその仲間三人はライトから遅れること一週間で西村第四十二から旅立った。




