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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第三章 第一節 落日の時

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少女の不安

「……!! 美味しいですっ!」


 ポーラはイノシシ肉のシチューを一口食べて目を輝かせた。

 ちなみに今の服装は濃い緑のワンピース。村に住む少女がよく着るタイプのものだ。


 一般的な服装で、食事を進める彼女は少なくとも公女には到底見えない。


「お気に入りいただけたようでなによりです。

 少し余裕がありますので、またおかわりもして構いませーー」


「おかわりをお願いします!」


 全て言い切る前にポーラはずいっと空いた木皿を差し出した。

 綺麗に空になった木皿をどこか誇らしげに差し出す彼女は年相応どころかもっと小さな少女のように見えた。


 そんなポーラを見て驚いたようにミーツェは目を見開き、数度瞬きをした。

 ふっと我に返ったミーツェは慌てて「かしこまりました」と返事をして立ち上がった。


 ポーラの清々しいほどの食べっぷりを見たウィンリィが小声で言う。


「な、なぁ、すごい食ってないか?」


「ああ、しかも食べ方は丁寧だ」


 2人が若干引き気味に見ていることなど知らないポーラはデフェットと会話をしていた。


「いつもこのような食事をなされているんですか?」


「いつも……ではありませんが、大体は」


「楽しそうですわね。皆様で食事を取るのは」


 本当に楽しそうに笑ったポーラはミーツェに差し出されたおかわりのシチューを食べ、顔を綻ばせる。


 数口食べたところで彼から向けられている視線にようやく気がついた彼女は「あっ」とした表情を見せてスプーンを置いた。


「す、すみません……。皆様よりも食べてしまってて」


 どうやらポーラはライトから向けられる視線を食べ過ぎなのを咎めていると感じたようだ。

 その顔には申し訳なさと恥ずかしさが入り混じっている。


 あらぬ誤解を与えてしまったライトは慌てて言葉を紡いだ。


「い、いえ、違います。

 俺としては美味しそうに食べているポーラ様を見るのは好きですから」


「あ、ありがとうございます……。

 ははっ、なんか恥ずかしいですね。そう言われると」


 恥ずかしそうに笑みを浮かべたポーラを見てライトも少し恥ずかしくなり、自分のシチューを食べ始めた。


「見合いかよ」


「見合いですね」


「見合いだな」


 それらが初々しい2人の反応を見たウィンリィたちの言葉だった。


◇◇◇


 食事を終え、体も拭き終わった彼らが次にやることは眠ることだ。


 特にポーラは慣れないことが立て続けに起き、精神的な消耗が激しい。

 それらを回復させるには食事を取り、眠るのが一番だ。


 しかし、そうゆっくりとはしていられない。

 もともとゼナイドに呼ばれてた上にポーラのこともある。


(明日の朝にはここを出て少しでも先に行くか……可能な限り休憩は取るけど、村は避けたほうが無難か?)


 そんなことを考えながらライトは小屋で見張りをしていた。

 ちなみに外はミーツェがしている。


 思考を休ませるために浮かぶ三日月を眺めていたライトは視界の隅で何かが動くのを見た。

 その方へと視線を送るとポーラが寝袋から手を出し、手招きしていた。


 ライトは足音を立てないようにゆっくりと歩み寄り、小声で言う。


「ポーラ様、どうかしましたか?」


「お忙しいところ、申し訳ありません。

 その、お恥ずかしながら少し寂しくて……手を握っていただけますか?」


 おずおずと差し出されたポーラの左手。

 ライトは二つ返事で了承すると背中を向けて

腰を下ろし、左手を乗せた。


 彼女は感覚を確かめるように置かれたライトの手を強く握りしめた。

 その手は不安からか微かに震えている。


(まぁ、そりゃ、怖いよな)


 誘拐されたというのは事実で、先が見えない現状で「不安になるな」という方が無理がある。


「大丈夫ですよ。ポーラ様」


 ライトはそう言いその手を優しく握り返す。

 今のライトには寄り添って、言葉をかけるのが精一杯だ。


「……っはい。ありがとうございます」


 だが、ポーラにとってはそれだけで充分な安心材料になったらしく、にっこりと微笑んだ。


「ライト様は変わっていませんね。初めてお会いしてから。

 陽の光のように暖かくて優しくて……」


「あまりそう褒めないでください。かなり照れます」


 ライトのその反応を見たポーラは少し笑った。

 なんとなくからかわれた様に感じたライトがそのことを問いかけようとしたところで彼女が口を開く。


「ふふっ、いえ、愚弄しているわけではないのです。

 自分のことを認められる様になったのだと思っただけですわ」


 少なくとも彼女と出会った時のライトであればその褒め言葉を否定しただろう。もしくは、聞き返したことだろう「ほんとうですか?」と。


 だが、今のライトは違った。

 自分の力を素直に認め、他人の評価を受け入れた。


 その些細な変化がポーラにとっては嬉しかったのだ。


「ライト様が心から羨ましいです。気が許せる友人がいて」


「それはポーラ様もでしょう?」


 ポーラは物腰が柔らかく、接しやすいとセントリア王国の国民に人気だ。


 一種のアイドルの様な羨望を受けているのをライトも聞いたことがある。

 さぞや彼女の周りには人が絶えぬことなど想像に難くない。


 しかし、彼女は苦笑いを浮かべながら首を横に振ることで否定、言葉を続ける。


「いえ、大切な民であれ、仲間であれども友人ではありませんわ。

 皆が見ているのは私ではなく、第三王女であるポーラですから」


 ポーラの周りに集まる者は彼女に集まっているのではない。

 第三王女というフィルターに通して見ている。


 だが、それは当然のことだ。

 そうなる様に行動し、発言してきた。


 むしろその様に見られなければ王族失格という烙印が押されることだろう。


「でも、それでもやはり友人が欲しいと思うことがあるのです。

 ただ、たった1人でもいい。私を私として接してくれる友人が欲しいのです」


「……できますよ。いつか。その意思があるのなら」


「自分がなる、とは言ってくださらないのですね」


「言うだけならばできます。でも、ポーラ様はそれを望んではいないでしょう?」


 ライトの言葉にポーラは数度瞬きをしたかと思えば、ぷっと吹き出す様に笑い出した。

 その笑いが落ち着いてからポーラはどこか胸を張る様にしながら言う。


「ええ、取り繕う言葉など不要ですわ。さすがライト様ですわね」


「まぁ、ポーラ様の言いたいことは察せましたから」


「あら? それは私の考えが単純と言いたいのでしょうか?」


「ははっ、まさか」


 2人は目を合わせて一緒に笑い出した。

 その雰囲気はまさに友人同士がじゃれ合っている様なものだったのだが、それを彼らが自覚することはない。


 なぜか?


 単純なことだ。2人にとってはそれが自然で意識することではないからだ。


「さぁ、ポーラ様。目を閉じてください。眠らなければ明日が辛くなりますよ」


「ええ。そうします。

 ライト様、東副都までの護衛、改めてお願いしますわ」


「はい。お任せを」


 安心したポーラは目を閉じた。

 やはり相当疲れていた様ですぐに寝息が聞こえてきた。


 安らかな寝顔を見下ろしたライトはその場から離れようと動こうとしたところで声がかけられる。


「モテモテだな」


「ウィン……起きてたのか」


「ああ、そろそろ交代だろ?

 にしても、また随分と仲が良いみたいじゃないか」


 からかう様な笑みを浮かべているあたりウィンリィは先ほどまでの会話を聞いていた様だ。

 ライトはそれに慌てることもなくいつもと同じ口調で答える。


「不安なんだよ。命の危機に晒されたんだ。今は安心したいんだよ」


「ま、そりゃだな」


「ああ」


 会話はそこで途切れ2人の間には沈黙が訪れた。

 嫌な空気ではないが、なんとなく気恥ずかしくなったライトが口を開きかけたところでウィンリィが先に言葉を小さく響かせた。


「なんか、安心したよ。いつも通りのお前で。

 正直な。お前がフラーバで旅をやめると思ってた」


「なんで……そんなこと」


「ハルーフだよ。お前らはお似合いだった。

 たぶんあの場所に残ればそこで幸せになれる。少なくとも旅をするよりはマシな人生が続くだろうってな」


「そう、だろうな」


 ハルーフの想いを知った。

 あの想いに応えていれば、あの体を抱きしめていれば、おそらくライトはここにはいなかっただろう。


「なんとなく私を選んでくれた様に思ってしまったんだよ。

 お前に街に残るより旅をしたいって思わせられたんだなってさ……」


 そう言った顔はオーガ群討伐戦を終えた日の夜、その時に見た顔だ。

 母親のようにも、姉のようにも、友人にも見える寄り添うような優しい微笑み。


 それを見たライトは一瞬、心の中に何かが走った。

 静電気のようなバチッとした一瞬の感覚。


 世界を見る。

 それは自分の目標だ。自分がこの世界で為すことだ。


 そして、それを行う自分の隣にいるのはーー


 核心に触れかけたライトの思考を続くウィンリィの言葉が現実に引き戻した。


「でも、それじゃダメなんだよ。私が縛り付けるんじゃダメだ。

 だからさ。お前は旅をやめたくなったらいつでもやめていいんだぞ。

 私と違ってお前には色々な生き方があるんだからな」


 ウィンリィはそう言ってまた笑った。

 だが、ライトは見落とすことができなかった。

 いつもと同じような笑みの中にあった寂しい色を。

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