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少年転生(下)

 光はいつの間にか閉じていた目を開く。

 瞬間、眩しいぐらい真っ白な景色が目に飛び込んできた。


 無機質で何もない、何も感じられない薄気味悪いほど白い空間。


 不安になった光は自分の両手へと視線を落とす。

 白い世界の中にある手、体、そして足。それらの存在はこの世界ではどこか異物に思えてしまう。


「ここ、どこだ? 気味が悪いな」


「おいおい、他人の……いや、神の部屋を気味が悪いなどというもんじゃないよ」


 唐突に声がした方を見るとそこにはいつの間にか青い騎士甲冑を着けた者がいた。

 声からしておそらく男性、年は20歳前後だろう。


 不思議だったのはこの白い空間で形を持っているにもかかわらず妙に()()()()()こと。


 自分と同じはずなのになにかズレている。そんな気がした。


「誰だ?」


「おっと、これは失礼。私の名前はウスィク。

 それとこの空間は生と死の狭間、そうだね。君たちで言う所の……えーっと……なんだっけ?」


「んー、三途の川みたいなもんか?」


「ああ、そうだよ。それそれ」


「なんか……イメージと違って随分と殺風景なんだな」


 三途の川と言われてもどこまでも真っ白い景色が無限のように広がっているだけだ。

 連想される川やお花畑などは影も形もない。


「イメージとリアルなんてそんなものだよ。君たちが勝手に具現化したものだからね」


 光は興味が無さそうに「ふーん」と言うと、ウスィクは咳払いを1つして切り出した。


「さて、本題に入るけど、君、ちょっと転生してみない?」


 その表情は見えないが、それでも楽しんでいるような雰囲気は声から容易に感じ取ることが出来た。


「それって殺したお詫び、みたいなやつか?」


「ああ、そうだよ。物分りが早くて助かる」


 そう言うと、ウスィクはパチンと指を鳴らした。

 瞬間、ウスィクの前に拳サイズの立方体の箱が現れ、浮かんでいた。


「君の能力を決める箱だよ。こっちは私からの“個人的な”プレゼントさ」


 勧められるままに光は軽い気分で箱に触れた。


「おわっ!?」


 すると何かが急に頭の中に入ってきた、と表現するに値する妙な感覚に襲われた。


 反射的に手を離したが、拒否感すらをも押し流す勢いで入ってきた不思議な感覚は残っている。


(な、なんだ。頭の中に急に何かが入って……)


 まるで頭に元々あったかのようにその名前がふっと浮かんだ。

 そのままそれを確認するように口に出す。


「……創造(クリエイション)?」


「ほぉ、君はよほど運があるようだね」


「これ、なんだ?」


「君ならもう分かってる筈だよ。なんたってそれはもう君の能力なんだからね」


 確かにウスィクの言うとおりだった。


 不思議と分かる。

 まるで元々自分のものだったかのようにこの能力と使い方が––––


 【創造(クリエイション)


 自分の考えた道具、魔法などのあらゆる物を作ることが出来る()()

 ただし、生き物は作れず。自分の体を大きく変えることは出来ず他にもいくつかの制限がある。


 だが、それらを除いても充分に強力であることに変わりない。


「んで、こっちがお詫びのアイテムだよ」


 ウスィクがどこからか取り出したのは、フード付きのマントと小袋だ。


 それを受け取りまじまじとそれを見るがいまいちよくわからない。

 見た目通りのマントと小袋だ。


「なんだこれ?」


 フード付きのマントはこげ茶で派手な造形などは全く施されていないシンプルなものだ。

 見た目は地味だがシルクに似た手触りをしている。


 小袋の方は動物の皮でできているのかある程度の硬さと柔軟性があり、口の部分は紐で縛られている。


「無限収納付きのフード付きマント。おまけに財布もつけよう。

 まぁ、機能はおいおい確認してくれ」


「無限収納……何でもしまえるのか?」


「いや、そのマントに覆える物だけで生き物は受け付けないっていう制限はあるよ」


 しかし、それでも便利であることに変わりはない。

 光は早速そのマントを羽織り、小袋はすぐに取り出せるようにベルトに縛り付けた。


 全ての装備を付けた光を見て満足そうにウスィクは頷き、パンッと手を合わせ話題を切り替えた。


「文字通りの第二の人生をぜひ楽しんでくれ」


 ウスィクが明るい口調で言うと同時に––––


「は?」


 ––––バカッと床が開いた。かと思うと重力によって下に引っ張られる感覚。


「はぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


「うまく着地しないと死んじゃうよ~」


「ふ、ふざけんなぁぁぁあ!!」


 という叫び声を上げながら光は落ちていった。

 ウスィクはそれをどこか満足そうに見ながらうんうんと頷く。


「さてさて、彼はどんな物語を作ってくれるのかねぇ。いや~、楽しみ楽しみ」


 ウスィクは床に開いた正方形の穴を覗きながら続ける。


「きちんと最後まで生き残ってくれよ、少年」


 その声音はプレゼントを今か今かと待つ子供のようだった。


「じゃないと俺の物語が始まらないし面白くないからね」


 そして、そんなウスィクにいつからそこにいたのかジト目で話しかける女性が1人。


「何ニヤニヤしてるんですか? ちょっと、いや、すごく気持ち悪いのでやめてもらえます?」


 髪は長髪で色は美しい銀。目は青い女性がそこにはいた。体にはローブのようなものを身に纏っている。


 その姿は人のように見えるが発せられるオーラは明らかに人のものではない。


 それを気にすることもなく、どこかふざけた感じでそれにウスィクは答えた。


「いや~、さすがにあいつの右腕なだけはある。相変わらず辛辣だね~。ガブリエルさん」


 そんないつもの調子で答える様子に呆れながらガブリエルと呼ばれた女性は問いかける。


「さっき呟いていたことはなんですか?()()反逆ですか?飽きませんね」


「残念ながら飽きたよ。そうじゃなくても今はする気は無いよ」


「なぜ?」


「今はまだ、その時じゃないからさ」


 それはどこかおちゃらけた声ではなく、酷く冷たく、背筋が凍る声だった。


◇◇◇


「あー、びっくりした……」


(普通落とすか?っていうか、転生して数秒後にまた死亡とか笑えねぇって)


 ちなみにさっそく創造の能力を使って【フロース】と呼ばれる浮遊の力を作り、ゆっくりと地面に降下することが出来たため怪我はない。


「にしても、上から見て思ったが。見渡す限りの森だなぁ」


 ゆっくり降りて来る時に見たのだが周りには森がかなりの範囲で広がっていた。


 鬱蒼と広がる木々。


 そのどれもがライトの身長を軽く超えるものばかりだ。

 さらに枝葉が生い茂り、地面のほとんどを光から覆い隠している。

 そのためかどこかジメジメしている。


 彼はそんな中を浮遊しながらなんとか通れそうな穴を見つけてそこから地面に着地していた。


 場所を確認すると息を吐き、近くの木の根に座る。


「最初は、とりあえず現状確認かな?」


 現在分かっていること、持っているものは以下の通りだ。


 名前はライト。

 おそらくは元の名前から考えられたのだろう。安直な名前だが分かりやすくてあまり嫌いではなかった。


 能力は創造(クリエイション)というチート能力。


 しかし、それに対し装備はかなり地味だ。


 マントと小袋だけで鎧や剣の類は一切持っていない。

 そこで気が付いたが服もいつの間にか変わっている。

 白い空間では高校の制服を着ていたはずだが、今は群青のルーズズボン、上は黒い長袖のシャツ一枚でダークブラウンの差し色が入っているものを着ていた。


 突然放り出されたライトは頭を掻いたが、すぐに行動の方針を決めた。


「まずは、この森を出て村に行くべき、だよな」


 そう呟きライトは浮遊しているときに見た村があると思われる方向に歩き出そうとしたところで空を仰ぐ。


「そういや俺、もう奈々華たちに会えないんだよなぁ」


 上を向いても相変わらず葉が生い茂り、空が殆ど見えない。

 葉の隙間からかろうじて入る光が少し眩し程度だ。


(まぁ、あいつは元気だけが取り柄だからな。大丈夫だろ)


 ライトはゆっくりと深呼吸をして覚悟を決めたかのように前方を強く見据えると深い森の中を歩き出した。


 このころの彼は不安よりも期待の方で胸が一杯だった。

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