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誘拐の謎

 ライトはポーラを保護した後、即座にその場所を離れる予定だったのだが、向かっているのは彼らが休憩地として選んだ場所ではなく、盗賊が使っているという小屋だ。


 捉えた盗賊は両腕を縛られ、ウィンリィに引かれていた。

 その前をライトがポーラを背負いながら歩き、デフェットは集団の先頭にいる。


 1番後ろにはミーツェが2頭の馬の手綱を握っている。

 ちなみに、ポーラを担いでいた気丈夫な馬はウィンリィの荷物を載せていた。


「にしても、本当に2人だけなのか?」


 ライトが正面を歩くデフェットに問いかける。


 現在向かっている林の中には、彼らが予想していた通りに盗賊たちのアジトがあるようで、そこに住んでいるらしい。


 他にメンバーがいるか、という質問にも即座に否定したため安全と判断したため、そこへと移動している。


 というが盗賊から信じられる要素は何1つとしてない。


「間違いない、と思うしかあるまい。

 あの状況で嘘をつけるほどの気概があるとも考えられんしな」


「まぁ、そうかもしれないけど」


「なぁに、心配するな。私とこいつが先行する。

 何かあればこいつが盾になるさ」


 ウィンリィはそう笑い、引いている盗賊へと視線を送る。

 彼は逃亡を諦めているようで何も言わずに頷いた。


 そんな会話をしながら林に入って5分。

 彼らはひっそりと佇む木造の小屋を見つけた。


「む、小屋はあれか」


 規模的には木こりたちの休憩所だったのだろう。

 建て方は簡易的だが、意外と大きくちょっとしたロッジのようにも見える。


「よし、行くぞ」


 先ほどウィンリィが言った通り、捕らえた盗賊に先頭を歩かせながらその小屋へと向かった。


 残りの面々は近くの木陰に身を潜めながらその様子を観察する。

 ミーツェは弓矢を構え、デフェットもレイピアを抜き取りいつでも跳べるようにしていた。


 固唾を飲みその様子を見ていたが、結果は盗賊の言っていることが本当だったらしい。

 中から誰か現れることなく、すんなりと扉は開け放たれ、部屋の中を晒している。


 念のため盗賊を盾にしながら部屋の中へ侵入したウィンリィは今度こそ安全を確認してライトたちを呼んだ。


「みんな〜、来ていいぞ〜!」


 彼女の声に従い、彼らは続々と小屋の中へと入った。


 ワンルームで内装としてはテーブルと椅子2つ、寝袋も2つと本当に2人だけでいたのであろうことがうかがえる。

 広さは外から見た通りで5、6人ほどが使うにはちょうどいい大きさだ。


 ライトは創造(クリエイション)で寝袋を出し、その上にポーラを下ろした。

 一息ついて彼はウィンリィたちへと声をかける。


「これからどうする?」


「そうだな……とりあえず、こいつ(盗賊)はギルドにでも放り出すのは決定事項だろ?」


「はい。問題はポーラ様ですね」


 ミーツェは眠っているポーラを見つめながら顎に手をやり、考え込み始めた。


 そんな彼女へとデフェットが言う。


「そう深く考える必要はないだろう?

 近くの村なりの騎士に預ければそれで済むのではないか?」


 それはライトも同意見だった。

 盗賊もギルドに差し出せれば後は騎士たちでどうにかやってくれると思っていた。


 しかし、ミーツェは首を横に振る。


「いえ、事はそう単純ではありません」


 質問したデフェットとそれに同調していたライト、盗賊を床に転がしているウィンリィが首を傾けた。


 彼らの反応を見てミーツェが説明を始めた。


「今回の誘拐に関して私には疑問点があります。

 まず、なぜポーラ様を誘拐できたのか、ということです」


「そりゃ、騎士甲冑を着てたから、じゃないのか?」


「ああ、ライトの言う通りだ。

 それなら多少警戒はされるが話を聞いてはもらえる。

 話を聞くってのは様子を伺う事でもある。そして、それは先手を取られる意味する」


 おそらく護衛の者たちが武器を構える前に盗賊たちは彼らを殺した。

 現に、遺体近くの武器は全部が鞘から剣を抜かれていなかったし、争ったにしてはあまりにも惨状が綺麗すぎた。


 だが、それはミーツェの言いたい事ではなかったらしく、首を横に振った。


「いえ、方法ではありません。

 ポーラ様がどこにいるのかをなぜ知れたのか、です」


 その言葉を聞きライトとウィンリィは「あっ」と漏らした。


 そういえばそうだ。


 油断を誘うにしてはあまりにも迷いがなさすぎる。

 アジトからの位置関係とポーラたちが休憩場所として選んでいた場所、護衛の数や持っていた装備。


 まるでそれらを最初から知っていたかのような手際の良さだ。


 ウィンリィは視線を盗賊へと向ける。

 息を飲んだ彼はしどろもどろになりながらもそれに答えた。


「お、俺たちは情報屋から情報を買っただけだ!

 そいつがどこから知ったかまでは!!」


「では、その情報屋はあなた達がいつも使う者でしたか?」


「い、いや、知らない奴だ。

 実際、本当に見るまでは半信半疑だった。

 でも、聞いてた通りの装備と人数、休憩場所も言っていた通りだったから」


「なるほど、なぜ信じたのかを少々疑問でしたが……そういう理由ですか。

 ということは、やはりその情報屋はポーラ様の行動ルートを流すために配置された者で間違いありません」


 それに即座に反論の言葉を投げかけたのはデフェットだ。


「ま、待て待て。なぜそう言い切れる!

 ポーラ様が各地を視察をするのは有名な話だ。ルートや護衛の人数は訪れた場所からの推測で割れたのではないのか?」


「いえ、デフェット。それはありえません。

 単純に公女の護衛をたかだか見られた程度で把握させるような真似をしますか?」


「ミーツェの次の疑問は護衛の少なさ、か?」


 確認を取るように聞いたライトにミーツェは頷くことで答えた。


 極秘だから護衛を少なくした、ということも考えられたが、それでも別働隊すらないというのはおかしい。


 どんな理由であれ王族の護衛が6人だけというのはあまりにも手薄過ぎる。


「これはわざと手薄にしている節が感じられます」


「わざと護衛を手薄に……ね。理由は?」


「そこが最後の疑問点です。ウィンリィ様」


「どういうこと?」


「理由がわからないのです。そうまでする理由が」


 貴族の派閥争いかと思ったがそれに王族を引っ張り出すのはあとのことを考えれば愚行でしかない。


 もし、やるにしてもわざわざ外部に情報を流さなくとも顔のない暗殺者(ルヴィサージュ)のような組織を使う方が確実だ。


 そうされていては少なくともライトたちは気付くことはなかっただろう。


 しかしそうすることはなかった。


「なにが目的なんだ……?」


「わかりませんが、貴族や騎士たちに何らかの思惑を持った者がいる可能性があります。

 そのような者、組織に保護を頼むわけにはいきません」


 疑いがある以上そう単純に任せるわけにはいかない。

 まだ信用できるゼナイドたちに保護を頼む方が確実だ。


(ということは、東副都まで連れて行くしかない、な)


 ライトがそう結論付けたところでウィンリィは何かに気がついたようで「あっ」と声を上げた。


「ん? どうしーー」


「うっ……ぁ」


 それについてライトが問おうとしたところでポーラが小さくうめき声を上げる。


「この話はポーラ様には内密にしたほうがよろしいかと」


「うん。わかってる。ウィン、あとで聞かせてくれ」


「あ、ああ、わかった」


 その返事を聞いたライトは膝をつきポーラの肩を優しく揺らす。


「ポーラ様、ポーラ様!」


「んっ、んん……ここ、は?」


 目を覚ましたポーラはまだ朧気な視界で辺りを見回していた。

 そんな彼女を感心させるようにライトは顔を覗き込みながら優しく声をかける。


「ポーラ様、覚えていますか? ライトです」


 自分の口でライトの名前を言ったところで意識を現実に戻したポーラは手を叩き、花のような笑顔を浮かべた。


「あぁ、ライト様! お久しぶりでございます!」


「はい、お久しぶりです。おかわりないようでなによりです。

 どこか痛かったり、頭がボーッとしたりはありませんか?」


「んー、大丈夫ですわ」


 とりあえず怪我や失神による後遺症はないらしい。

 ライトはホッと息をついて問いかける。


「ところでポーラ様、気を失う前の状況は覚えていますか?」


「気を失う前……。

 たしか、守っていた村が盗賊の集団に襲われたという騎士の方をお2人保護して、お話をして、それから……」


 ポーラは唸りながら記憶を探る。

 少しして申し訳なさそうに眉を寄せて首を横に振った。


「申し訳ありません。そこから先は記憶がはっきりしておりませんわ」


 どうやら盗賊たちはポーラとの会話中にことに及んだようだ。


 彼女にとっては馬車にいたのに次に目を覚ませば小屋にいるのだ。混乱するのは当然だろう。

 現に今、ポーラは小屋を物珍しそうに見ている。


 ついでに言うなら、こんな状況なのに見回している時に目が合ったウィンリィたちへ丁寧にお辞儀をしているのはさすが王族とでも言えばいいのだろうか。


(とにかく自分が置かれた状況だけでも説明しなきゃだな……)


「詳しい話を今からしますから、よく聞いてください」


「は、はい……」


 真剣な面持ちのライトにポーラはたじろぎながらもはっきりと頷いた。

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