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再開は突然に

 昼下がり。食事も終え、頭も少し気を抜くとき。


 東副都へと向かっていたライトたちは食事休憩を取ることになった。


 昼食の食材を探すため、ライトとデフェットは近くの雑木林に入る。

 今までの旅で何度もしたことで慣れたことだ。


 しかし、その日はいつもとは大きく違っていた。


「なんだよこれ……」


 そこでライトたちが見つけたのは明らかにただ事ではない惨状だ。


 荷馬車に積まれていたであろう荷物は辺りに散乱し、それを引いていた馬は無残にも腹が切り裂かれて息絶えている。

 近くには御者であろう男性も同じように死んでいた。


 おそらくその馬車を護衛していたのだろう軽装の男性4人と女性2人の計6人は首を切られているか、心臓、肺を刺し抜かれているかで即死。


 それらを見たライトは顔を険しいものにさせ、近くにあった女性の死体へと近づき、腰を落とす。

 軽く黙祷してからそれの首に手を置いた。


「まだ、固くなってないし少し温かいな。死んでまだ時間はそこまで経ってない」


「主人殿。こっちの男性もだ。

 それに、血が新しいし獣も寄ってきていない辺り、1時間も経っていない」


 おそらく襲ったのは盗賊だろう。

 散らばった荷物が放置されている辺り、物ではなく、人を狙ったのだろうことが推測できる。


 そう判断したライトはデフェットへと指示を下す。


「デフェ。ウィンとミーツェにこのことを言って呼んでくれ。たぶん人攫いだ」


「わかった。すぐに呼んでくる」


 デフェットが答え、離れてから数分、ウィンリィとミーツェがライトの下に現れ、その惨状を見た。


 顔をしかめるウィンリィだが、すぐにスイッチを切り替え、ライトへと問いかける。


「これは……たしかに盗賊の人攫いだな」


「ああ、馬を使ってるかもしれないけど今ならまだ追いかけられる」


「わかった。捕まえられるなら捕まえたいところだな。だが、どこに逃げたかわかるか?」


 その問いかけにライトは首を横に振る。

 2人が来る間に少し辺りを探索したがこれといった手がかりはなかった。

 不意打ちか何かで手際よく殺し、連れ去ったのだろう。


「なら、追いかけるより先回りして罠を張った方がいいな」


「とは言うが、ウィン殿。その目星は付いているのか?」


 デフェットの問いに対し首を横に振ろうとしたウィンリィを遮り、ミーツェが口を開いた。


「いえ、少し離れた場所に林があるはずです。

 この辺りで盗賊が隠れ住む場所としてはそこしかないでしょう」


「よし、そこに罠を張る。みんな、行こう」


 そうと決まれば話は早い。すぐに話がまとまりライトたちは行動を始めた。


◇◇◇


 馬を操り、草原を駆け抜ける男性がいた。


 着ているものは騎士甲冑だが、かなりボロボロで至る所に傷がある。


 彼は膝辺りで気絶し力なく馬に担がれている少女を見ると反射的に口にいやらしい笑みを浮かべた。


 彼女はどのような声で鳴くのだろう。

 どのような柔肌なのだろう。

 感触はどのようなものだろう。


 今か今かとその時を想像しながら馬を駆っている。


 そんな彼と同じような騎士甲冑を着ているもう1人の男が顔に嫌悪を色濃く浮かべ、オブラートに包むこともなく言う。


「お前気持ち悪いな」


「うるせぇ! 当たり前だろうが! 何せこいつはあのーー」


 しかし、全てを言い切る前に地面がキラリと光った。

 本能的なものに従い、彼は馬を止める。それに続いてもう1人の男性も馬を止めた。


「おい、どうした。さっさと帰るんじゃなかったのか?」


 目的はとっくに達している。

 誘拐した少女を使って脅し、金をせしめれば終わり。

 付け加えるなら、脅迫をかける前にちょっと遊ぶ程度だ。


 護衛は間違いなく全員殺した。

 誰かがその惨状に気がつき追ってくる可能性もなくはないが、生き残りがいない以上真っ直ぐに追いかけることは不可能。


 だが、安心するにはアジトの小屋に帰ってからだ。

 どう考えてもこんな草原のど真ん中で立ち止まる理由はない。


 首をかしげる男へと真っ先にそれを見つけた男が答える。


「いや、今なんか光るやつを見つけてな」


「はぁ? 光るやつだぁ? お前は鳥かなんかかよ」


 呆れたようにそう吐き捨てながらも彼は辺りを軽く見回し、誰もいないことを確認すると頭を掻きながら言葉を雑に投げる。


「早く戻ってこいよ」


「おう。わかってるわかってる」


 それを見つけた男は馬から降り、光を反射した場所へと向かった。

 少し長い雑草が生い茂る中にあったのは1本の短剣だった。


 彼はそれを手に取ると連れの男性へと報告する。


「ただの剣だ」


「はぁ? ならんなもん捨ててさっさと行くぞ」


「いや待て。でもこんなの見たことねぇな。

 もしかすると高く売れるかもしれねぇぞ!」


 改めて男はまじまじと剣を見るが、やはりかなり変わった形状をしている。


 カトラスのように見えるがグリップガードがあり、柄は群青。

 柄の下部には装飾がありそこからは銀の糸が伸びていた。


「あん? なんだこーー」


 糸がどこにつながっているのかと思い、手を伸ばした瞬間、男性の頭が突如動き出した短剣により切り落とされた。


 もう1人の男性はもちろんそれを見ていた。

 見ていたゆえに何が起こったのか理解できないでいた。


 だが、たった1つわかっていることはある。


(追っ手!? バカな!? 早すぎる!)


 間違いなく追っ手だ。


 なぜこんなに早く駆け付けられたのかわからないが、罠を張っていたということは先回りをしていたということだ。

 しかもそれはアジトの場所もわかっているか目星がついているということも意味している。


 とにかく逃げなければならない。動かなければどうしようもない。


 そう思い、馬を走らせようとしたが、その足をどこからか飛んできた矢に撃ち抜かれた。

 馬が鳴き、痛みに悶えて暴れ始める。


「なっ!? くっ!」


 どうにか踏ん張ろうと手綱を握り締めるが馬の力に人があらがえるわけもなく、その男は振り落とされた。


 地面に打ち付けられた痛みを堪えるように歯を食いしばりながら、うつ伏せになり上がろうと力を込める。

 だが、横合いから跳んできた赤髪の女性に腕を掴まれ、体を押さえつけられた。


 そして、短剣が視界の端に写ると同時に声もかけられる。


「動くなよ。動けばとりあえずその手を切り落とす」


 左手は掴まれ、背中にられているため動かせない。

 右手はフリーだが、それだけで争うのは不可能だ。


 早々にその判断にたどり着いた男は呻くように「わかった」と口にした。


 それを聞いた赤髪の女性、ウィンリィは他に控えていた3人に言葉を投げる。


「よーし! 終わったぞ!」


 その言葉に答える代わりに草むらに潜んでいたライトたちが立ち上がる。


「読みが当たったな」


「当然です。私は向こうにいる馬を追います。

 あのまま放置するわけにはいきませんからね」


「ああ、あの程度であれば主人殿の力で治せるだろうからな」


 デフェット、ミーツェが言葉を掛け合い、少し離れた位置にいたライトが残っていた馬へと駆け寄る。

 その馬の頭を撫でながら言葉をかけた。


「おーしおし、お前大人しいな」


 すぐに終わったとはいえ戦闘が起こっても鳴きもしないとは気丈夫な馬だ。


 感心しながらライトはその馬に担がれた少女を見る。

 見たところ息はあるし怪我らしい怪我もない。


「やっぱり人攫いか……」


「のようだな。装備は騎士甲冑……おそらくあの格好で近づいて護衛を油断させたのだろう」


「元騎士、か。所属は?」


「おそらく北だろうな」


 騎士が盗賊になるのはさして珍しいことではない。


 どんな理由であれ戦場から逃げ出した者は極刑が常だ。

 そんな者がギルドで仕事を受けるわけもなく、盗賊として日銭を稼ぐという方法に至るしかないからだ。


 北は魔王との戦争の最前線。

 この2人の盗賊はそこにいた騎士でどさくさに紛れて逃亡。ここまで流れてきたのだろう。


「おーい。デフェ、こっちきて縛るの手伝ってくれー」


「わかった」


 デフェットは答えながらウィンリィと生き残りの盗賊の元へと向かう。


 それを見たライトは最後に馬を撫でると人質となっていた少女を降ろし、地面に寝かせた。


 服装はドレス。フリルをふんだんにあしらい、胸元のリボンがワンポイントとして働いてる。

 デザインそのものは少女っぽいが、色は白と青で上品に仕上がっている。


 その流れで少女の顔を見て顔を驚愕で固めた。


「ライト様、馬を落ち着かせたので治療の方をお願いし……どうかなされましたか?」


 彼の表情の変化に真っ先に気がついたのはミーツェだ。


「……馬の治療をしてすぐに離れよう。ウィンリィとミーツェにもすぐに伝えて。

 彼らのアジトに行くのは後だ」


「ですが、それでは生き残りがいる場合、気付かれてしまう可能性がありますが」


「わかってる。でも、それよりもまずいことになった。

 さらわれてたこの子。セントリア王国の第三王女のポーラ・フォン・セントリアナだ」


 ミーツェはその名を拾った耳を疑いながらも、深く頷き、ウィンリィたちの方へと向かった。


 ライトは視線を眠っているポーラへと向ける。


「まさか、こんなところで再会するなんて」

今回から新章開始となります。

あくまでも予定ですが明日も更新します。

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