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想いと願いと

 地上に戻ってきたライトたちは応接室に案内され、そこで魔導師長に遺跡で起きた全てのことを話していた。


 やはりマナが貯まっているというのは珍しいようで一瞬、目が輝いたが咳払いを一度して深々と頭を下げて口を開いた。


「本当にありがとうございます。ハルーフもよくやりましたね」


「は、はい!」


 ハルーフは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 それを横目で見たライトも小さく笑みを浮かべたが咳払いをして魔導師長へと言葉を向ける。


「それでは、報酬についてですがーー」


 少し言い出しにくい話題であるためおずおずとした様子で聞こうとしたが、彼が全てを言い切る前に魔導師長が満面の笑みを浮かべて遮った。


「ええ! もちろんお支払い致します。

 今すぐ……は少々難しいですが、用意ができたらハルーフを通じてお知らせいたします。

 まぁ、可能であれば空間をコピーするロストも見たかったものですが……それは欲張りすぎ、というものでしょう」


 何度も頷く彼女を見てライトたちもかける言葉を失った。

 ウィンリィが「今ならなんでもふっかけられそうだな」と小さく呟いたのは気のせいだろう。


 ライトは無理やりそう思い込み、話を続ける。


「では、本日はこれで」


「はい! また後日」


 そうして、日が半分以上沈んだ頃、彼らはパシパエ学舎から出た。


◇◇◇


 ようやく外の空気を満足に吸える。

 それを表すように、酷使した体をほぐすようにライトたちは体を伸ばしていた。


 もうかなり薄暗くなっているため、帰路を急ぐ者や家族や恋人共にレストランへと向かう者たちがちょこちょこ視界に映る。


「あの……皆さんはこれからどうするんですか?」


 ハルーフの質問に答えたのは肩や首を回していたウィンリィだ。


「そうだなぁ。なんだかんだで大きい仕事だったし飲みに行くかなぁ。

 ライト、お前も来るだろ?」


「もちろん。こう、味が濃ゆいものが食べたいよなぁ」


「従者の立場としてはあまり食べて欲しくはないのですが……」


「まぁ、少しくらいは良いのではないか?

 縛り過ぎては心が滅入るぞ」


 デフェットの言葉にミーツェは少々不服そうに、そして溜息混じりに「それもそうですね」と言った。


 そう、彼らにとってはこの流れはいつものことだ。

 少し大きめの仕事を終えた後は酒場に行って少し派手に飲み食いをしながら適当な話をして笑って次への英気を養う。


 ただ、今回は少し違った。


「あの! 私も一緒に行っていいですか?」


 それはいつもはいないハルーフという存在が入ることだ。


 彼らとしては別に困ることではない。

 お金に関しては報酬額がある程度大きいため気にする必要はない。

 酒場での同席などよくあることで、今更1人増えることに気を止めることはない。


 ただ、ハルーフ自身にとってはどうだろうか。

 少し失礼なことだが、あまりそういう場所に行き慣れているようには見えない。


 それはその場にいた4人全員が思ったことだった。


 だが、本人が来るというのならば断る必要はない。

 もし辛そうであれば家に帰せばそれで済む話だ。


「わかりました。なら、一緒に行きましょう。

 俺たちとしては増える方が楽しいですから」


「い、いいんですか!?」


 ハルーフはライトの承諾の言葉を受けると表情を明るくさせ、笑みを浮かべた。

 遺跡を抜けた後、マナの湖を発見した時と同じレベルの満面の笑みだ。


 純粋で小躍りしそうな笑顔を見せられたライトは照れ隠しのために話題をそらすように口を開く。


「でも、気を付けてくださいね。ウィン、見た目どおり酒癖が悪いので」


「は!? おいライトお前今なんて言った!」


「事実だろ? 初めてあった頃のこと、忘れてないからな。俺」


「あ、あれはもう水に流すって言ってただろ!?」


「水に流しはするけど忘れるとは言ってないぜ?」


「なっ!? くっ……」


 ライトがおちょくり、ウィンリィが噛み付く。

 度々見るようになった微笑ましい光景だ。


 それを見たハルーフが一瞬、むっとしたがすぐに何かを閃いたのかライトと肩が触れ合うほどの距離にまで近づき言う。


「ライトさんってお酒強いんですか?」


「うーん。どうだろう……ゆっくり飲むようにしてるからなぁ」


「今回ではっきりさせます?」


「あー、それいいかも! 限界を知っておくのはいいぞ」


「え!? う、うーん……」


 そんな話をしながらライトたちが飲み屋へと歩いていく背中を見ながらデフェットがミーツェへと問いかける。


「あれをどう見る?」


「どう見るも何も……わかりますでしょう?」


 改めてデフェットは前を歩く3人を見つめる。


 雰囲気としては悪くはない。

 友人同士といえばそうだが、やはりハルーフからライトへと向かう視線には少し甘いものを感じた。


「まぁ、露骨ではあるな。主人殿は気付いているのだろうか?」


「どうでしょう。あまりそういったものは感じませんが


「まぁ、険悪ではないから気にする必要はないのだろうが……な」


 そこで区切ったデフェットの言葉尻に何かの含みを感じたミーツェは眉を潜めながら問いかける。


「だろうが、なんですか?」


「うむ。いや、少し思い出したのだ。

 少し前に話しただろう? ミードという男性の話だ」


 南副都で出会った男性。

 もしかするとこのメンバーの中にも居たかもしれない男性だ。


 彼は友人たちと旅をしていたが、その友人たちが結婚をし、副都に止まるのを機に1人で旅をすることを決めた。

 そして、そこでライトたちと出会ったのだ。


「彼は、1人で旅をすると言っていた。楽しいからと……」


「なるほど。

 ウィンリィ様がそのミードという男性と同じことをするのでは、と懸念しているのですね」


「ああ。別れることで折れるようなことはない。

 そう断言できるが、心に妙な……魚の小骨が刺さったような突っかかりがあってな」


 別れることでどうこうなるとは思わない。それは確信がある。


 だが、問題ないで納得することができない。

 これはデフェットの「2人には並んでいてほしいという」個人的な感情。


 言い換えれば、それはこの4人で過ごし続けたいという願いかもしれない。


「……まぁ、あのお2人は付き合いが長いですからね」


 もう1年近く旅をしていれば自ずとちょうどいい距離になる。2人がまさにそれだ。

 デフェットと似たようなことを感じていたミーツェもそれを否定することなく頷き、続ける。


「ずっとこのままであれば、とも私も思いますが……。

 人の関係とは変わるものです。私たちの関係もこれから先、おそらく変わるのでしょうね。

 そして、それをどう受け止めるか、それはその時にならなければわかりません」


「ああ、ゆえに思うな。このまま共にあればと……」


「ええ……そうですね」


 2人が頷きあったところでライトが声を飛ばした。


「おーい! 2人とも早く!! ウィンが飲み比べするって聞かないから早く来てくれー!」


「はぁ!? ふっかけたのはお前だろうが!」


「ふふっ、また賭けでもしますか? 私はライトさんに賭けますよ」


「よっし!」


「ちょっ、それズルくないか!? あっ、そもそも昼間の賭け忘れてないだろうな?」


「ならそれを賭けて賭けですね!」


「「いや、流石にそれは……」」


 2人の困惑の言葉と表情を受けたハルーフは「あれぇ!?」と驚いたように眉をあげた。


 そんな仲睦まじい3人を見てからデフェットとミーツェは顔を見合わせ肩をすくめる。


 少なくとも彼らは心配などまるでしていないらしい。

 変に空回ってるように感じた彼女たちは返事をしながら3人の元へと駆け寄る。


 心配しすぎているだけなのかもしれない。

 そう心の中で結論を付けることにした彼女たちは少し前を歩くライトたちに続いて飲み屋へと向かった。


次回の更新は木曜日を予定しています。

時期も時期ですのでお手洗い等は忘れずに、暇つぶしに楽しんでいただければ幸いです。

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