黒の映し身
ライトとウィンリィに似た黒い人形は不意打ちの失敗を悟ると作戦を変更。
それぞれに狙いを定めるように剣先を向けると走り出した。
ライトの黒人形はライトへ、ウィンリィの黒人形はウィンリィへと一直線に走る。
「ミーツェ! ハルーフさんを」
言い捨てたライトは黒人形の攻撃に防御を合わせた。
金属同士がぶつかり合い、甲高い音を一度立てたかと思うと今度は擦れ合う音が続いて響く。
その間にミーツェは矢を構えながらハルーフの斜め前に躍り出た。
「ハルーフ様、少し下がります。
ゆっくり足を後ろへ動かしてください」
「は、はい。わかりました」
ライトが接敵する中、ウィンリィも剣戟をぶつけ合っていた。
ウィンリィの横薙ぎをかわし、黒人形は反撃の一撃。
切っ先を彼女へと向けて突きだす。
その攻撃は察していたようでウィンリィは危なげなく半身をずらすことで回避。
同時に切り抜けていた剣を斜め上へと向け、足を置きなおした彼女は振り下ろした。
後ろへと跳ぶことで攻撃はかわされたが、デフェットが追撃の一撃を放つ。
レイピアによる刺突。
寸前で頭が横に傾いたため、側頭部の表面を削ることには成功する。
しかし、まともなダメージにはなっていないのは明らか。
ならばまだ下がる必要はない。
デフェットは開けられた距離を即座に詰めるとレイピアによる鋭い刺突を繰り出した。
今度は脇腹を捉える。
手応えを感じ、レイピアを抜き取ろうと力を込めた瞬間、突き刺した刃を掴まれた。
「なに!?」
それに抗おうと力を込めるが見た目以上の力があるようでピクリとも動かない。
焦るデフェットへと黒人形は逆手に剣を持ち替えて切っ先を向けた。
「デフェ!!」
あわやその刃がデフェットを貫く寸前、ウィンリィが2人の間に入り込み、黒人形の脛を思い切り蹴った。
一瞬、姿勢が揺れたところを逃さず、デフェット共にレイピアを引き抜き後ろへと押し飛ばす。
それに続いてウィンリィも後ろへと跳んだ。
「とりあえず、動けるな?」
「無論だ。しかし、気をつけろ。やつの戦い方は!」
「わかってる。
ライト、ミーツェ! こいつら自爆覚悟の戦い方だ! 踏み込み過ぎるなよ!」
クラウ・ソラスで黒人形の連撃を弾き、受け止め、反撃を行うライトは隙を見てしゃがみタックルする事で姿勢を崩した。
反動を生かし、距離を取ろうと後ろへ跳ぶライト。
しかし、すぐさま姿勢を立て直した黒人形は攻撃を加えようと彼を追う。
その行動を遮ったのはミーツェの放った3本の矢だ。
その間に着地したライトは言葉を飛ばす。
「わかった!」
「了解! ライト様、新しい矢を!」
「創造、矢30!」
雑に言い捨てた瞬間、無から矢が30本生まれた。
それをソラスのシルバーナーヴでまとめるとハンマー投げのように回転し、ミーツェへと放り投げ渡す。
ライトは矢を渡し終えたソラスを手に戻すことなく、遠心力も乗せた一撃を黒人形へと向けた。
跳躍することでその一撃をかわした黒人形はそのままライトへと接近、右手に持つ長剣を振り下ろした。
クラウで受け止めるが黒人形の左手にはまだ短剣がある。
そして、ライトのソラスはまだ引き戻しているところで手元にはない。
大きな隙となっている彼の左肩を狙い、黒人形は刺突を繰り出す。
だが、それはミーツェが放った矢を応戦するために振るわれたため、ライトへと向かうことはなかった。
黒人形の腹を蹴飛ばし、反動で宙返りしながら戻ってきたソラスを掴んで着地。
再び構えを取る。
「強い……」
「はい。ハルーフ様を守る余裕は正直ありません。
申し訳ありません。ライト様」
「いや、仕方ないさ。とにかく抑え込んでハルーフさんに意識が向かないようにしよう」
「了解しました」
ライトとミーツェは頷きあうと黒人形との戦闘を再開した。
◇◇◇
ハルーフは4人が繰り広げる激戦を眺めるしかできていなかった。
ウィンリィの強化を続けてはいるが、まだ何かできるはずだ。
自分ができること。
それは観察し、考えることだ。
(考えて……考えるの。ハルーフ)
あの黒人形は番人の死体から生まれた。
それは間違いない。
真っ二つにされた死体がそれぞれに形を作り変えて生まれたのがあの2体の黒人形だ。
つまり、最初にライトたちが戦闘をした番人に関係している。
では、あの番人はなんだ?
(わからない。キメラだとは思うけど、聞いたことがない)
番人についてわからないのならば次は空間についてだ。
そもそもここはなんだ?
(ここは限定的な空間の時間操作ができるロストを保管している場所)
そう、ここはそんな無茶苦茶なロストを保管している遺跡だ。
かなり限定された範囲だが、時間操作を可能とするロストと“予想”した。
(もしかして……それが違う?
でも、同じ道なんて簡単に作れるわけが……)
そんな時、大理石が目に入った。
あまりにも綺麗に磨かれたそれには自分が映っている。
そう、それはまさに鏡のようにーー。
「あっ……そうか!
私たちの予想はズレていたんだ!!」
それに気がついたハルーフは大声で叫んだ。
「なに!?」
「ライト様、前を!!」
ミーツェの言葉に反射的に従い、ライトは頭を下げる。
すぐ真上を通り過ぎる刃に冷や汗を流しながらも反撃の刺突。
かわされたが距離が開いた。
それを確認したライトは即座に言葉を投げる。
「ズレてたってどういう!?」
「この遺跡にあるロストは空間の時間操作ができるロストじゃないんです!
空間のコピーをするロストなんです!!」
空間のコピーが本来のロストの力。
本来の役割は鏡に写った空間をコピーすること。
そして、あの黒い通路は分厚い鏡の中を歩いているようなもので、散々歩き続けた石レンガの道は黒い通路から映し出された虚像だったのだ。
「つまり! オリジナルの道をコピーして上書きし続けてたんですよ!」
「オリジナルの道って……あ、この部屋の前の道か!」
「んじゃ、あの道は!? 三又の道は!?」
ウィンリィの疑問の言葉にすぐに声をあげたのはデフェットだった。
「そうか、三面鏡だ!
分かれ道の先の黒い空間、そこから映し出された道が交わっていたんだ。
一本道だった場所と歩いている道自体は同じだったのだ!」
言外に「そうだろう?」と確認を取るようなデフェットの言葉にハルーフは頷いた。
ロストがしているのは限定空間内の時間の巻き戻しではなく、ある空間を別の空間に映し出すこと。
ライトたちは空間の状態が戻っているという予想は完全に外れているわけではないが、正解しているわけではない。
時間は全く戻っていない。ただ上書きされているのだ。
「んじゃ、もしかしてこの黒人形は!」
「道と同じ、鏡に写ったコピーされた像!」
そう、彼らが対峙しているのは今まで歩いていた道と同じものだ。
通路での鏡は黒い空間。
ということは黒人形たちにも対応する鏡がある。
そして、それがおそらくこの遺跡が保管しているロスト・エクストラだ。
「どこにある!?」
「ハルーフさん!!」
黒人形の攻撃を受け止めながらライトが叫んだ。
ハルーフも目星は付いていない。
だが、直感が告げる。
その方向、上へと視線を向けた瞬間、それを見つけた。
「上です!!」
彼女が指でその方向。そこは最初に戦った番人が佇んでいた場所の真上だ。
天井も大理石でできているが、よく目を凝らせばその場所だけ他の石のは少し違う輝きを持つ石があった。
ライトもそれを見つけ、叫んだ。
「デフェ!!」
「わかっている。ウィン殿、任せる!」
「任された」
デフェットが攻撃を弾いた瞬間、ウィンリィが間に入り、黒人形へと剣を振るう。
黒人形は当然のようにそれに対応、狙いをウィンリィへと変えた。
その間にデフェットはゲイ・ボルグの構えを取り、詠唱を始める。
「其は、冥界に咲く薔薇なり。
其は、冥界の棘なり。
其は、万物を穿ち、その命を狩る荊棘であるーー」
デフェットは最後の一節を唱えるのと同時、その狙いを見定める。
もともとこの空間はマナが豊富らしく紛れていたが、注視すれば他と違うマナが濃い場所特有の白さを持っていた。
「ーーゲイ・ボルグ!!」
作り出された赤い長槍。
全力で彼女はその場所へめがけて投げ飛ばした。
それは不自然なほどにまっすぐに飛び、そのロストに突き刺さる。
その瞬間、黒人形の動きがピタリと止まった。
「「「……」」」
全員がその黒人形の動きに注視。
また再び動き出すかもしれないことを警戒し、武器の構えは解かない。
しかし、それが杞憂であることを示すかのように黒人形はゆっくりとシルエットをぼかしていき、最終的には溶けるように消えてしまった。
「終わっ……たな」
ライトがポツリとそう呟いた。
投稿が遅れて申し訳ない……。
次回は来週投稿になります。
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