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戦闘終結

「おらぁ!!テメェら!!根性見せろ!」


 バウラーの檄が戦場に飛ぶ。

 その檄は同じ戦場にいる者たちに闘志の炎を激しく燃え上げさせる。


 数は圧倒的にバウラーたちの方が不利。

 分かっているがここで足止めをしておかなければ、洞窟の方にいるライトとウィンリィが挟み撃ちを受けてしまう。


 ハルバードを振るいながらバウラーはライトのあの時の目を思い出していた。


(少年は未だ迷い続けていながらも覚悟を決めた。

 我々大人がそれに遅れを取るわけにはいかん!)


 目の前にはゴブリンが一体。

 バウラーは激しく、そして大きな雄叫びと共にハルバードを高く掲げ、一息で振り下ろす。


 その一撃は肩から胸のあたりにまで深く入った。


 さらに切り殺したそれを奥にいる他のゴブリンやオークたちの方に投げ捨てた。


 その方向には大量のゴブリンやオークの群れがあった。

 その数は100を優に超えている。


(戦況は絶望的。

 いや、奴らの戦闘能力が今までのままだったのは幸運、か)


 どれほど数が多かろうと人間には多くの知恵と技がある。

 それは力がないゆえに長年磨き上げられたもの。

 いわば遺産のようなものだ。


 それが一朝一夕の知恵に負けるわけがない。


 いや、負けてはならない。それがプライドだ。


「地中からまた攻撃が来るかもしれん!

 警戒を怠るなよ!」


 了解を示す声が肉を斬り裂く音や潰す音、金属同士でぶつかり合う音共に多方より飛ぶ。

 バウラーは一つ頷くと次の標的の元へと向かった。


◇◇◇


 それからどれほどの時が経ったのか。自覚できている者など誰一人としていない。


 日はいつの間にか傾き、夕焼けが現れていた。


 ふと気がつけば、ゴブリンやオークの数はかなり減らしているように感じられた。


 おそらくこのまま押し切れば勝利も夢ではないだろう。

 だが、そんな状況に対し、バウラーの表情からは憂いが消えることはない。


 バウラーは周りを軽く見回す。


(まずいな。そろそろ限界か……)


 バウラーを含めその戦場にいる者のほとんどが肩で息をしている。


 攻撃の精度もかなり落ちてきており、ゴブリンやオークの攻撃すらもまともにかわすこともできなくなり、受け止める者が多い。


 バウラーの憂いの原因、それは体力と精神力だ。


 物量差で押される理由、それは絶え間なく向かってくる攻撃。


 一体一体がどれほど弱くとも、それが二つ、三つと増えていけばかわすだけで体力的にも精神的にも削られる。


 しかも相手はどれほど同族の死骸が築かれようともそれを乗り越えて向かってくる。


 絶え間なく、怯むことなく向かってくる大量のゴブリンやオークに対し、バウラーたちは優勢を取っているにも関わらず劣勢に陥っていた。


 おそらく、あと何か一押しされてしまえば、そのまま戦線は瓦解することだろう。


(向こうがまだ伏兵や細かい戦術を使ってこないのが救いではある。

 だが、このままではいつ押し込まれてもおかしくはないな)


 バウラーは新たな打開策を思考しながらもハルバードを振るい新たにゴブリンの屍を作る。


 そんな時だった––––


「あっ!?」


 声が聞こえた。


 方向は右。そこに視線を移すと青年がいた。


 シンプルな槍を持つ青年だった。

 そこには何の問題もない。問題はその足首だった。


「くっそ……!」


(まだ、来るのか)


 槍を持つ青年の足首には隆起した地面から伸びた緑色の手があった。

 隆起した地面には大きな穴が開き、青年をその中に飲み込まれた。


 中からは肉を斬り裂き潰す音が響く。


 そして、間髪入れずその穴からは続々とゴブリンやオークが現れた。


 さらに左側からも穴が開き、そこからゴブリンとオークの群れが現れる。

 このままでは包囲され、数にすり潰されることは間違いない。


「はぁ、はぁ、このタイミングで増援だと」


 戦場にいる者に絶望が広がり、全員が今にも逃げ出しそうになっていた。


(どうすればいい。この状況!

 どうすれば打開できる!)


 バウラーや戦場にいる者は新たに出てきたゴブリンやオークの一挙一動に対応できるように、より正確にはすぐさま逃げ出せるように視線を集中させる。


 その瞬間だった。


 一筋の光が東側にいたゴブリンとオークの群れの一部を斬り裂きながら通り過ぎた。


「「「え?」」」


 疑問の声が響いたのはほとんど同時。


 視線を一筋の光が通り過ぎた先に向けると一人の少年とその少年に抱きかかえられている女性の姿があった。


(((……なんだ?アレ)))


 その二人が現れた衝撃よりも疑問が浮かんだ。


 突然、地獄の戦場にお姫様だっこで一組の男女が現れたのだ。

 普通なら頭がおかしくなった者たちとしか思えない。


 しかし、そんな男女にバウラーは見覚えがあった。


「少年。ウィンリィ……」


 その男女はライトとウィンリィだった。

 ライトはウィンリィを地面に降ろし、バウラーに近づく。


「すまん。バウラー。遅れた」


「あ、ああ。お前たちが来たということは」


 ライトは笑顔を浮かべ頷きを返す。

 バウラーは目を見開くと口を吊り上げライトの肩に手を回すとバンバンと激しく数回叩いた。


「よくやった。少年」


 その言葉をライトに送ると今度は後ろを振り向き声を張り上げた。


「貴様ら!!よぉく聞け!

 この二人がオーガを片付けた。

 指揮官が消えたということだ。我々の勝利は近いぞ!!」


 バウラーの声は戦場にいる者に鼓舞する。


 それぞれが今にも逃げ出しそうだった足に力を込め、そらしそうになった目で戦場をきつく睨み、手放しそうになった自分の武器を力強く握りしめた。


 そして、恐怖を口にしそうだったその口で雄叫びをもってそれに答える。


 間髪入れず、バウラーが支持を飛ばす。


「東側から抜けるぞ!

 前衛は前に!後衛はそれの援護を維持しろ!必ず連携し、遅れている者の手は引け!

 その命で数十のゴブリンとオークを狩れることを忘れるな!!」


 その指示に従い彼らはすぐに行動を変え、陣形を変え、進み始めた。


 それからは士気が上がった人類が指揮官を失い指揮系統が完全に崩れたゴブリン、オークはなす術なく次々と数を減らした。


 その勢いは先ほどまでの劣勢に追い込まれようとしていた者たちと同じとは思えないほどのものだった。


◇◇◇


 そして、三十分後には陣形を整えた彼らの手により、ゴブリン、オークはその数を0にしていた。


「……終わった、のか?」


 ライトは地面に白銀と黒鉄を突き刺し、それらに体重を乗せ、辺りを見回す。


 目前に広がる景色は酷いものだった。


 いたるところに赤黒い血がこびりつき、綺麗な草原の面影はなくなってしまっている。


 さらに、ゴブリンとオークの死体と肉片が転がり、あたりには血の生臭い匂いが漂っていた。


 戦闘の終わりと勝利を実感できず、誰もが黙っている中で––––


「……ぉぉぉおおおおおお!!」


 誰か雄叫びを上げた。

 それに重なるように色々な方向から雄叫びが聞こえる。


 声を上げているものたちはそれぞれが己の武器を高く掲げ、表情には強い疲労が現れていたがそれ以上に喜びと達成感が浮かんでいた。


(……終わった、みたいだな)


 息を吐いた瞬間に全身の力が一気に抜け地面にペタリと座り込んでしまった。


 そのまま心臓のあたりに手を当てる。

 心臓の鼓動は早いがしっかりと脈打っていた。


(生きている。俺は、生き残った……)


 ライトは初めての感覚に驚きながらも当然のように思っていた。


 生きていることに強く感謝する。


 死を目前にしなければ気づくことがない感覚。

 鼓動を聞くだけでどこか安心する。


 胸に手を当て、目を閉じ心臓の鼓動に聞き入っていると肩に手を置かれた。


「大丈夫か?ライト」


 声をかけたのはウィンリィだ。

 激しい戦闘のせいで服は返り血で汚れているが、表情には優しさが浮かんでいた。


「いや、生きているんだなって思って……。

 にしても酷い有様だな」


「お前が言えることかよ。安心して腰が抜けたんだろ?」


「ははっ、恥ずかしながら」


 それを聞くとウィンリィは優しい笑みを浮かべ手を差し出す。


「ほら、帰ろうぜ。立てるか?」


「……ああ、ありがとう。大丈夫だ」


 ライトは差し出された手を握った。


 こうして、転生者ライトの初めての依頼は終わりを告げた。

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