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転生への疑問

 この世界の魔術は周りにあるマナを体に取り込み、魔力へと変えて行う。


 魔力へと変える際に重要なのは肺と心臓。

 その2つを強化できれば、魔術の使用量も格段に増える。


 しかし、それにも限界があり、代わりに考案されたのが肌にタトゥーのようにルーンを刻むことで体そのものを変換の補助装置とすること。


 魔術が普及しているこの世界でならそれは革命とも言える技術だ。

 だが、それだけの可能性を秘めていながらを研究できない理由がある。


 それがマナから魔力への変換の際に生まれるマナの絞りカスだ。

 それは人間の体にとっては毒にしかならず、現状は取り除くすべがない。


 セントリア王国に魔術は必要不可欠なもの。

 現在まで普及し広がっているものに悪影響があると分かれば混乱するのは当然のことだ。


 そのため、魔術の副作用は世界に広まっていない。


 食事の前の内容があまりにも予想外で彼らは疲労困憊になっていたが、夕食を食べ、お茶を飲んでようやく落ち着いた。


 少し緩んだ雰囲気の中で口を開いたのはハルーフ。

 先ほどまでの空気を壊すように明るい口調で切り出す。


「そういえば、変換しきれなかったマナの影響で髪色とか変わるって言ったじゃないですか」


「あ、ああ、言ってたな」


 相槌を打つウィンリィ。

 その隣にいたライトの頭には守人、トラストの姿が浮かんでいた。


 彼は魔術を使用し、髪色や瞳の色が変わった人物だ。


「はい、ただマナリアだけは別なんです」


「そうなの?」


「そうなのか?」


「本当ですか?」


 ウィンリィ、ライト、ミーツェの疑問の言葉と共に視線が一斉にデフェットへと集まる。

 ハルーフも興味津々と言わんばかりの顔で彼女の顔を見ていた。


 慣れない視線を一身に受けたデフェット。

 紅茶のカップに口をつけていた彼女は目をパチパチとした後、カップをテーブルに置いた。


「わ、私はたしかにマナリアだが、知らんぞ?

 考えたこともない」


 デフェットに集まっていた視線が今度はハルーフへと向けられた。

 向けられた全員の目には「どういうこと?」という疑問の色が隠されることなく現れている。


「ほら、髪色が特徴的じゃないですか。綺麗なグラデーションで」


「あー、たしかに。デフェットの髪も綺麗だよな」


 ライトの同意の言葉とウィンリィ、ミーツェの首肯にデフェットは少し照れているようで顔を赤くさせ、カップを傾けた。


 それを見て微笑ましく思い、顔を綻ばせた後にハルーフは付け加えるように続ける。


「これは予想なんですけど、髪のグラデーションって変換残しそこねたマナを無毒化した結果なんじゃないのかな、って」


「つまり、マナリアは変換残しのマナを体の外に出す能力があるのか。


「マナに適応したんじゃなくて、変換残しの方に適応した、か……」


「では、マナが見える、というのもあくまでも副産物の特性、ということでしょうか?」


「その可能性はありそうだな。まぁ、自覚はないが」


 デフェットの答えにハルーフは「そりゃそうですよね」とおっとりした口調で呟き、背もたれに体重を預けた。


 会話が落ち着いたところでライトは白銀と黒鉄へと問いかける。


(ちなみに2人は?)


『あるわけないでしょ』


『だね。君はどうやって呼吸をしているのか説明できるかい?』


(ごもっともで……)


 苦笑いを隠すようにカップに口をつけながら答えたライト。

 そんな彼へと白銀は呆れたような口調で言う。


『私たちはたしかに古代マナリアよ?

 ロストを作った、ってところだけ見ればそりゃ、今生きてるあんた達とは違うでしょうね。

 けど、普通に両親はいたし、子供時代もあったわ』


『そう、今はこの姿だけど、一応僕たちはこの世界で生まれたし、この世界で育った』


『だから、この世界の全てを知ってるわけじゃないの。ロストを作れたからといってマナの全てを知ってるわけじゃないのよ』


 2人の言うことはおかしなことではない。

 事実、ライトが転生する前の世界でもそういうものはあったからだ。


 ただ、使えるから使う。作れるから作る。

 ある程度の原理は予測できても解明はできていない。


 古代マナリアにとってロスト・エクストラと呼ばれるものたちはそういう扱いなのだ。


『あんたにだって転生って言ってるぐらいだし、この世界の両親がいて、その人たちに育てられたんでしょ?』


(えっ? いや、いないけど……)


 沈黙が訪れた。

 ライトは突然2人が黙った間にウィンリィたちの様子を伺う。


 彼女たちは彼女たちで話に花が開いていた。

 この様子ならば多少意識を白銀たちに向けたとしても問題は少ない。


 それを確認したライトは2人へと問いかける。


(どうした? 2人とも)


『どうしたって、あんたそれ本気で聞いてる?』


(本気って、そりゃ本気? だけど)


 ライトの答えを聞いた白銀と黒鉄は小さく息を飲んだ。

 声しか聞こえなくとも2人が目を見開いているのがわかる。


 首を傾げ、答えを待つ彼にそれを出したのは黒鉄。

 彼女にしては珍しくゆっくりと確認を取るような口調だ。


『転生と転移の違い、これはわかるかい?』


(えっと、生まれ変わるか、そのまま来るか……?)


『ああ、そうだ。僕たちも同じ認識だ。

 改めて聞こう。君は転生したんだよね?』


(ああ、そうだ。転生した。

 少なくとも元の世界で死んで、生まれ直した)


 答えた言葉には「なぜ今更そんなことを?」という疑問の色が含まれている。


 そのことはライト自身でも自覚できるほど。

 おそらく2人もかなりはっきりとそれを感じ取ったはずだ。


 ゆえに、痺れを切らした白銀が単刀直入に質問を投げつける。


『誰の腹から生まれたのよ』


(……え?)


『そう、無から生命が生まれるはずがない。

 必ず親がいるんだ。人間にも、マナリアにも、動物にも、ゴブリンやオークにだっているんだ』


『あんたは今“無から生まれた”って言ってるのよ。

 自分でもありえないことってわかるでしょ?』


(それは、そうだな)


 だが、ウスィクは間違いなく「転生してみない?」と聞いて、それに頷いた結果今の自分がいる。


 胡散臭いところが全くなかったわけではないが、体験したことを考えれば神を自称されても信じるしかない。


『そもそも、その神とやらが本当にあんたが言う通りのやつなら、なんであんたを転生させるのよ』


(そりゃ、間違えて殺したからーー)


『なぜそれを君に教えるんだい?

 自分が間違えて殺されたなんて君の世界の人間は知ることができたのかい?』


 神のような存在が人を間違えて殺したところで実害を被るとは思えない。


 もし、わからないのであればそれを教えずに処理、ライトの場合は転生を勝手にしてしまえば済む話だ。

 能力を与えるのも、状況をわざわざご丁寧に説明する必要性もない。


『でも、そのウスィクとやらはあんたに丁寧に説明して、その後の世話までしてる』


『それには何か理由があるはずだ』


(俺を転生させて生き残らせる理由……)


 ウスィクが自分を転生させるに足る理由。

 予測ぐらいは立てようとしたがすぐに無駄でることをライトは悟る。


 神の思考などわかるわけがない。


(2人は何か予想できる?)


『できないわね。少なくともあんたの話からじゃ理由なんてこれっぽちもわからないわ』


『同じくだ。でも君でなければならない理由、それがあるのは間違いない』


 しかし、現状予想を立てるには情報があまりにもなさすぎる。


(直接話しができればまた変わるんだろうな。これ……。

 まぁ、できるわけもないか)


 ライトは表に出かけたため息を打ち消すように残った紅茶を飲み干した。

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