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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第二章 第四節 魔術都フラーバ

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魔術の副作用

 その日の夕方、フロッゲ狩りを終えたライトとウィンリィはギルドへの報告と報酬を受け取り、ハルーフたちに合流していた。


 合流してすぐに見せられた論文にあった名前を見てライトは反射的に読み上げた。


「アリシスって……」


「あ、ご存知ですか? 私、初めて聞いた名前で」


 ハルーフはライトが持っている羊皮紙を覗き込む。


 そこには「マナから魔力への変換効率とその際に術者が受ける影響」と長い題が振ってあり、その下には小さく「アリシス」と書かれていた。


「同じ名前の人には会ったことがあるんです。ただ同一人物かは」


「そうですか。

 まぁ、同じ名前の人も珍しくないですし、旅をしていればそうこともあるでしょうね。

 あ、ところで書いてあること、わかります?」


「書いてあること……?」


 題と著者名の下に並ぶ文言へとライトは視線を戻す。

 羊皮紙の束を数枚めくりながら真剣な面持ちで読み進めていたライトだったが、しばらくして顔を上げるやすぐに強くかつ端的に答えた。


「全っ然わからないです」


「あははっ……そう自信満々に答えられるとなんか清々しいですね。

 えっと、ちなみにみなさんは」


 ハルーフは視線を他のウィンリィたちへと向けた。


 それを向けられた彼女たちはライトから論文を受け取り、読み込んでいく。


 並んでいるのはよくわからない図式、小難しい専門用語の羅列、何かの計算式。

 そんなものを魔術に特別詳しいわけではない3人が理解できるわけもなく、全員が首を横に振った。


(そういえば、2人はわかるよな?)


『ええ……言ってることはわかるわよ。よくまとまっててわかりやすいわ』


『うん。人間かどうかはよくわからないけど、マナリアでもない身でよく調べたものだ』


 これでわかりやすいのか、とライトは再び視線を羊皮紙の論文へと向ける。


 それと同時に妙に濁すような言い方に違和感を覚え、再び意識を白銀と黒鉄へ向けようとしたところで腹の虫が鳴った。


 しかし、それはライトのものではない。


 その音がした方にいたのはウィンリィだ。

 しんと沈黙が続く中で照れ隠しの笑みを浮かべながら頭を掻く。


「あー、悪い。一仕事終わったから」


「ふむ。2人はフロッゲを狩っていたからな」


「ええ。ライト様もお疲れでしょう。よろしければ食事にいたしませんか?」


 たしかにライト自身も疲れているし、空腹を感じている。

 さらに、これから難しそうな話が始まる予感もある。

 何か食べておきたいところだ。


「そうだな。でも……どこで?」


「あっ、それならいいお店知ってますよ。値段もお手頃ですし、よろしければどうですか?」


 ライトたちは旅人。対してハルーフはフラーバに住んで長いように見える。

 この場合、彼女の話に乗らない理由はない。


「お願いします。ハルーフさん」


「はい! お任せを!」


 少しずれた眼鏡をかけ直しながら彼女は頷いた。


◇◇◇


 ハルーフの案内で訪れたのはお洒落な雰囲気が漂うレストランだった。

 しかし、堅苦しい感じはなく、印象としてはファミリーレストランのような感じだ。


 奴隷であるデフェット含めた全員がそれぞれに料理を注文、先に出された飲み物で喉を潤す。


 カップを置き、一息ついたところで口を開いたのはハルーフ。


「説明の前に前提知識の確認しますね。

 まず、みなさんは魔術がどのように使われているかわかりますか?」


 その質問を受け、真っ先に答えたのはウィンリィだ。


「マナを取り込んで魔力に作り変えて、なんかこう……やるんだよな?

 私でも知ってるぞ」


「なんかこう、とはまた曖昧だな」


「そこは言うなよ。デフェ。

 そもそもデフェは説明できるのか? その辺」


 指摘を受けるとは少し予想外だったようで、デフェットは腕を組み唸る。

 少しして眉を八の字にして申し訳なさそうな声音で「無理だ」と答えた。


 だが、ハルーフはそれを予想していたのかバカにすることもなく口を開く。


「はい。それで構いませんよ。

 なんかこう、のところはまた好きな人が調べることになりますので」


「あっ、話の途中だけど疑問」


「ん? なんですか? ライトさん」


「俺も普通にウィンの言った通りで覚えてるんだけど、マナから魔力って正確にどこで変えてるんだ?」


「あぁ、たしかに疑問ですね。

 呼吸は肺、心臓は血の循環と内臓にはそれぞれ仕事がありますね」


「そういやそうだな。でも、マナ関係の内臓なんてあったか?」


 ライト、ミーツェ、ウィンリィの視線が残りの2人へ向けられた。

 その視線を受け、少し唸りながらもハルーフが答える。


「一応、肺で変換してるっていうのが定説ですけど、その辺どうなんです?」


 それを受けたデフェットは首肯を挟み、口を開いた。


「うむ。完全に間違っているわけではない。

 正確には、肺に取り込み、一時的に貯め、心臓でマナから魔力に変換する。

 他にもいくつかの臓器が同じような働きをするがあくまでも補助。

 主だったものは先ほど上げた2つだ」


 聞いていた中で一番興味ありげに耳を傾けていたハルーフはハッとした表情を浮かべ、咳払いをした。


「え、えーっと、ここから論文の内容になるんですけど、ライトさんの質問はちょうど良かったです」


 質問した本人であるライトが頭に疑問符を浮かべる中、先に閃いたウィンリィがパンッと軽く手を叩く。


「あっ、そっか。マナの変換効率を上げるって話なら、当然どこが変換してるのかにも触れるから……」


「はい。論文の中でも肺だけですが、そこに触れられてました。

 そこを強化すればいい、っというのがまぁ、当然の考えです」


「強化、ですか」


「どうやって? そりゃ、運動し続ければ強化できるだろうけど……」


「でも、時間がかかりすぎるし、そもそも強化できる量なんてたかが知れてる。

 爆発的に強化するなんて無理じゃないのか?」


 ライトとウィンリィの言葉に身を乗り出し、少し食い気味にハルーフは答える。


「そう! そうなんです!

 アリシスって方もそこに行き着いて、代わりに考え出したのが補助を作る。

 ……あ、いえ、デフェットさんの説明の後だと増やすっていう方が正しいですね」


「なるほど……ちなみに具体的にはどのように?」


「全身にルーンを“刻む”んですよ!」


 ミーツェの質問にズバリっと人差し指をビシッと向け、宣言するようにハルーフは言った。

 それを聞いたライトは横目でデフェットを見つめながら問いかける。


「それって……デフェの奴隷のルーン見たいな?」


「いえ。文字通り刻むんです。こう、ナイフとかでガリガリと」


 要は、ルーンをタトゥーとして皮膚に入れることで、体そのものをマナから魔力への変換のための補助装置として扱おう、ということらしい。


 なんとなくそれを想像した面々は表情を苦くさせ、その気を紛らわせるように飲み物に口をつける。


 それぞれが一息をついたところでふと気がついたミーツェが口を開いた。


「その内容で研究がなされていないのは不思議ですね」


「そういやそうだ。

 私はあんまり想像できないけど、今よりもっと自由に色々できるようになるんだろ?

 なんでやらないんだ?」


 今まで楽しそうに答えていたハルーフはその質問には口籠った。

 ウィンリィ、ミーツェ、デフェットの3人が小首を傾げる中、ライトがポツリと呟く。


「……デメリットが大きすぎるから。例えば、体に障害が現れる、とか」


「「「!?」」」


 もちろん、触媒が必要であったり、手間がかかったりということはある。

 だが、魔術の使用で体になにかデメリットが生じるなど“聞いたことがない”からだ。


 3人の答えを求める視線とライトの「どうだ?」問いかけるような視線。

 それらを受け取ったハルーフはゆっくりと頷いた。


「はい。ライトさんの言った通りです。

 今わかっているのは、病気にかかりやすくなったり、体力が極端に落ちる。

 そして、それの原因は魔力に変換しきれなかったマナです」


「要は残りカスってことか?」


「はい。それが堆積することにより、悪影響が強く出るのではないか、と……。

 これは作者本人が実験したようです。

 ただ、これは内太ももと脇腹のみにして現れたようなので、全身となるとどうなるか」


 そこでライトとウィンリィは確信する。

 2人が出会ったアリシスがこの論文の製作者だ。

 ハルーフの説明の通りの影響がたしかに出ていた。それもまともに動けなくなるほど強くだ。


 さすがにルーンのタトゥーは見てないが名前が一致し、症状が同じともなればさすがにそうはいない。


「でも、効率を上げたなら変換残しのマナも減るんじゃないのか?」


「はい。そこがこの技術の大きな誤算だったんです」


「どういうことだ?」


 ウィンリィが首を傾げた横でデフェットがポンと手を叩いた。


「そうか。影響の出る場所が増えたんだ。

 マナの変換補助をしているといっても量自体は1割もない程度。

 しかし、この技術では全身で補助をし、効率を高めるというものだ」


「もしかして、体で補助をするようにしたからマナの変換残しが全身に残るようになるってことか!?」


 本来ならば体を余すことなく使うことで変換効率を高め、より複雑で強力な魔術を扱えるようにする画期的な技術になるはずだった。


 全身で変換を行うということは変換残しのマナも全身に残ることを意味する。

 変換残しをゼロにすることは実質的に不可能でそれは避けられないことだ。


「って、ちょっと待て! そもそもだが、変換残しがそんなものを誘発させるなんてどこにも書いてなかったぞ!」


「主人殿の言う通りだ。

 なぜマナリア達どころか人間ですら知らない?」


 それに答えたのはハルーフではなく、ミーツェ。

 焦りが浮かび始めた3人とは裏腹に至って冷静に答える。


「いえ、それは当然のことでしょう。

 この国の産業は魔術に依存しています。そこで魔術にデメリットがあると広まればーー」


「はい。確実に混乱が広がります。

 国はそれを絶対に避けるでしょう。

 実際、これほどのものが公になっていないというのがその証明かと」


「アリシス様はほぼ間違いなく、魔術師、魔導師の界隈から批判を受けたはずです。

 もし、ライト様達が出会ったアリシス様がこちらを書いた者と同一ならば、その批判から身を隠した、と予想ができます」


 空気が重く沈んだ。

 魔術にそのようなデメリットがあるなど今まで知るよりもなかったことだった。


 そんな沈痛な面持ちを浮かべる彼らを安心させるようにハルーフは少し柔らかい口調で言う。


「ただ、論文の中には通常の範囲ならば問題がなく、髪色や瞳、肌の色が変わる程度と結論付けられています」


「もしかして、悪影響が出る前に死ぬとか?」


「はい。あとは症状が衰弱や年の衰えと変わらないので混同されてるのかも……。

 この辺りは私も調べてみたいですけど、国からの支援は望めませんね」


 ハルーフは「残念です」と言ってジュースに口をつけた。


 そんな彼らの前に料理が出されたのはそれからすぐのことだった。

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