表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/282

追加目的

「いや〜、すまないねぇ。護衛もしてもらうなんて」


 荷馬車の御者席に座り、手綱を握りながら男性はニコニコとした笑顔で告げた。


 それに答えるのは隣に座るライトだ。


「いえ、こちらも食料を分けていただけるので、当然ですよ」


 男性はその答えを聞き、嬉しそうに「そうかそうか」と笑う。


 廃坑での一件の翌日には運良く東村第58へと向かう荷馬車があった。

 それが今彼らが同乗している荷馬車である。


 荷台には原石が入った箱が敷き詰めるかのように置かれ、その上にウィンリィたちが乗っている。


「ミーツェ! 今のところどう?」


 ライトの問いかけを受けたミーツェは風に耳をすませる。

 猫のような耳をピクピクと数度動かしてからそれに答えた。


「……特に異常はありませんね。潜んでいるような気配も感じられません」


「わかった。ありがとう」


 謙遜するように、礼を返すように軽く頭を下げたミーツェ。


 周りにそういう気配がないのならまだゆっくりしていていいだろう。


 緊張で少し固くなった体から力を抜くように息を吐いたライトは心の中でポツリと呟く。


(騎士の人たちには少し悪かったかなぁ)


『はぁ? なんで?』


 村ではライトたちの調査の結果、ゴブリンの存在が確認されたため、ようやく騎士が動けるようになった。


 早速、村では本来この荷馬車の護衛に就くはずだった騎士たちは村近辺の警戒にあたっていることだろう。


 しかし、それが彼の心残りであり、後悔となっていた。


(いや、なんか押し付けたみたいで)


『ははっ、まさか。彼らは仕事なんだ。それに、君よりも騎士の方があの仕事にはあっている』


 たしかに旅人よりも騎士の方が与えられる安心感は強い。

 だから、彼らが村の警戒を任せるのは間違っているどころか、本来の役割にもあるため正しいまで言える。


 適材適所としては今の形が良い。それはライトにもわかっている。

 だが、秘密を残している手前、どうにも心残りになってしまっているのだ。


 素直に吐露されたそのわずかな後悔に白銀が口を開く。


『まぁ、あんたの言ってること、感じてることもわからないでもないわ』


(意外だな。気にするなって言うかと思ってた)


『失礼ね。私もそれぐらいの良心はあるわよ』


(ごめんごめん)


 わかりやすくむすっとした様子で返された言葉にライトは小さく微笑みながら言葉を返した。


 天気同様にのどかな雰囲気だった。

 そんな中で黒鉄がおずおずと言葉を発する。


『少し、いいかな?

 腑に落ちないことがあるんだ。あのゴブリンたちについて』


(腑に落ちない? もしかして転移陣があった場所のことか?)


 ライトの問いを肯定し、黒鉄は続ける。


『物事には理由がある。必ずね。

 でも、その理由が見えないんだ』


(理由? そりゃ攻めやすくするためじゃ?

 剣を合わせるより背中から近づいた方がよくないか?」


『それならもっと別の方法があるよ。場所もここじゃなくていいし、むしろここは遠すぎる。

 君たちの予想通り、この国に魔王の手が入り込んでいるならなおさらだ』


『それもそうね……新しいゴブリンの実験?

 でもないわね。ここでやる必要はないし』


 戦術的な意味でも、ゴブリンそのものでもなく、それでいてあの場所でなければならなかった。


 物事には理由がある。

 黒鉄の言う通りなら「なんとなく」ということではなく、きちんとした目的があるはずだ。


 しかし、その目的が一切見えてこない。それが黒鉄にとって腑に落ちないことだ。


(目的……)


 その言葉を数度、繰り返したところでその答えが脳に浮かび、「あっ」と声を漏らしてしまった。


「ん? どうかしたかい?」


「い、いや、なんでもないです」


 はぐらかすような笑いと共にそう返したライト。

 御者の男性はその答えに特に疑問を抱くことなく「そうか」と、視線を前へと戻した。


 それと同じようにライトも白銀、黒鉄との会話に戻る。


(転移陣の実験、って線は考えられないか?)


『ふむ、なるほど。それは盲点だった』


 ライトからしてみれば転移など夢物語で普通のことではない、非常識なものだ。


 一方、この世界の人間にとってはあくまでも“すごいこと”や“大規模なこと”であり、不可能で考えられないことではなく、常識となっている。


 白銀や黒鉄もその常識を持っているため、そこまで考えが至らなかったのだ。


 しかし、そこまで至れば予測は立てられる。


『あー、あそこって人が通り過ぎる場所だったものね。

 魔術に使えそうな宝石とかの触媒も出るみたいだし、たしかに実験には適してるわね』


『あのゴブリンたちはそれに使ってたのか。

 転移実験のための特別製で調整もしてたならあの強さも頷ける』


(そう。んで、実験が終わったから放置してたんだ。

 人を襲わなかったのもそういう命令を受けてたからだろう)


 あの場所に転移陣があった理由、その目的はわかった。


 次に考えるのは転移陣の何を研究していたか、だ。


(2人はどう考える?)


『魔術陣の高効率化……って言いたいけど、正直昔見たものとあまり変わらないのよね』


『っと言うことは陣の外。術者に対する実験か』


(俺も黒鉄と同意見。

 って事でそういう魔術を2人は知らない?)


 記憶を探っているのか少しの間をおいて2人は揃って一言。


『『知らない』』


 それはライトもなんとなく察していた。

 最初から知っていれば2人は初めから何か言っていただろう。


 フラーバへは単純に興味だけで向かっていたが、これで1つ新たな目的が追加された。


(フラーバに行くんだ。その辺りのことを少し調べてみよう)


 身体強化の魔術はある。そこから発展した新しい魔術があっても何もおかしくはない。

 そして、今向かっているのは魔術の都とまで言われる場所だ。

 何か手がかりの1つはあるかもしれない。

 

 白銀と黒鉄はその意見に二つ返事で了承した。

おそらく今年最後の投稿です。

皆様よいお年を……


評価ポイントやブクマよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ