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太陽の剣

 ライトの小さな油断が原因でライトはオーガの鉄槌で空へと打ち上げられた。


 彼にとっては不意に起きたこと。

 当然、受け止めるどころかまともに受身を取ることができず、地面に叩きつけられるしかない。


「あっ、ぐっ!?」


「ライト!!」


 地面に叩きつけられ、動けないライトへと駆け寄ろうとウィンリィは動くが、それを邪魔するようにオーガが進路を阻むように斧を振るった。


 それを後ろに飛び退くことでかわしたが、彼とは大きな距離が開いてしまう。


 ライトを吹き飛ばしたオーガは「それを続けろ」と言わんばかりの視線をもう1体に送ると全身を激痛が走り、立てずにいるライトに悠然と近づく。


 そして、持っている鉄槌と斧を高く掲げた。


(死……ぬ?)


 脳裏に浮かぶのは2人の男の最後、小部屋にいた女性たちの姿。


 そして、自分に親しくしてくれた者たちの死ぬ姿と自分が無残に殺される姿。


 それを想像すると全身が震える。

 その震えから歯がカチカチとあたり音がする。


(俺は、まだ、死にたくない。俺は、まだ!!)


 だが、この状況を打開する手段はない。


 魔術は無効化される。

 強力なものをぶつければもしかしたら突破できるかもしれないが、洞窟の方が保たずに崩落する可能性もある。


 そうなってしまったらウィンリィにまで被害が及ぶ。


 明確な打開策がない。


(まだだ! まだ!)


 その言葉が浮かぶがそれをすぐさま否定する。

 そして、震えを食い殺すように歯を強く噛みしめた。


(見苦しくてもいい。こんなところでただ死ねるか!

 こんなところで死ぬために転生したんじゃない!

 考えろ、考えろ!!)


 諦めること、逃げることなどライトの頭にはすでになかった。

 とにかく何が何でも生き残る、それだけの想いだけで思考を加速させ、策を練る。


 その時だった。


『しょうがない人ねぇ。ね? 黒鉄』


『うん。そうだね。

 でも、この人ぐらいしか僕たちを使うことはできないよ。白銀』


 唐突に2人の少女のどこか無邪気な声が頭に響いた。

 耳ではなく頭の中に直接伝えられているような妙にクリアな声。

 それに戸惑うライトへと2人は続ける。


『ねぇねぇ。私たちがあなたに力を貸してあげる』


『だけど条件がある。私たちの本当の名前を当てること。それができたら』


『『あなたに太陽の力を、貸してあげる』』


 2人の少女のような声が重なって響く。


 ライトにはその声の正体がなんなのか分からない。

 だが、その本当の名前が分かればこの状況を打開できるかもしれない。


 かすかな希望に縋り彼は考える。

 しかし、その思考を断ち切るように鉄槌と斧が振り下ろされ、ライトに迫る。


 目の前に明確な形となって存在する死。

 それを見てからの脳裏によぎる走馬灯を打ち消すようにライトは思考を加速させ、巡らせる。


 声たちは太陽の力、と言った。


 それだけでは該当するものがいくつも頭に浮かび、絞りきれない。

 そんな時にまた声が頭に響く。


『ヒントだよ。形は剣。お姉ちゃんはかなり有名だよ』


『たぶん。知らない人はいない』


 形は剣、っということは聖剣か魔剣。

 どちらでもいい。とにかく剣であることは間違いはない。


 そして、お姉ちゃんということは姉妹剣がある。

 さらに、その剣はかなり有名。姉妹剣で有名なもの、そして太陽関連。


 ライトはその答えに行き着くとが正しいかどうかなど逡巡することもなく、ただそうであってくれという希望に縋り叫ぶ。


「ガラディーン!」


 その名前が響いた瞬間、洞窟内を眩い光が満たした。


「くっ、なんだ!?」


 ウィンリィは強烈な光に目を閉じる。


 それと同時、唐突に何か重いものが吹き飛ばされる音と何かにぶつかる衝撃音が耳に届いた。


 先ほどよりは幾分か光は落ち着いていてきたのを感じ、ウィンリィは薄眼を開いて状況を確認する。


 真っ先に視線を向けたのは衝撃音が聞こえた方向。


 そこにはライトを押し潰さんとしていたオーガが壁に吹き飛ばされた姿があった。

 近くには衝撃で吹き飛ばされたのだろう大斧と鉄槌が落ちている。


 唖然としながらすぐさま吹き飛ばした方に視線を移す。


 その先には立ち上がろうとしているライトがいた。

 彼のその前には一振りの剣が浮かんでいる。


 刃の長さは普通の剣とさして変わらない。

 だが、その刃の色は金。鍔は太陽を模したような造形が施されていた。


 ライトはゆっくりと立ち上がると柄を両手でしっかりと握り、切っ先を洞窟の壁に叩きつけられているオーガに向ける。


 その刹那、金色の刃は炎を纏い始めた。


 その炎は次第に大きく、強く変化。

 それが最大までになると壁に叩きつけられているオーガの頭をめがけて炎が伸びた。


 それは簡単にオーガの頭を貫く。

 剣はそのまま振り下ろされ、先に伸びた炎はそれに追従。オーガを真っ二つにした。


 炎を放出しきった剣は纏っていた炎を完全に失い、金色の剣を露わにしている。


 だが、そこには力を放出した後の弱々しい印象は受けない。

 むしろ洗練された力強さがより如実に表れている。


 真っ二つにされたオーガの切断面から血が溢れることはない。

 すでにその切断部は炎で完全に焼かれ炭化しているからだ。


 洞窟内を肉が焼け焦げたような匂いが充満する。


「ライト?その剣は……」


 ウィンリィがライトに声をかけようとしたが、目の前にいるオーガが急に雄叫びを上げた。

 そのままライトに接近。


 それに答えるようにライトもオーガに向かい走り始めた。


 それぞれの攻撃範囲に入った瞬間、より速く攻撃態勢に入ったのはオーガの方だった。

 オーガはライトを斧で叩き切ろうと高く構え、勢いを殺すことなく力任せに振り下ろす。


 しかし、オーガの重い攻撃は虚しく地面をえぐるだけだった。

 狙っていたライトはすでにオーガのその後ろに回っていた。


 オーガは振り返ろうとしたが力任せに振るわれた斧の刃が地面に深く刺さりとっさに動けずにいる。


 その隙に後ろを完全に取ったライトは剣でオーガの背中を斬り上げながら一気に洞窟の天井まで跳躍。


 空中で体勢を整えながら半回転、天井を蹴るとオーガを頭から綺麗に真っ二つにした。


 先ほどのオーガと同じように斬られた部分は斬られた瞬間に焼かれ血が出ることを許さない。


 その力は圧倒的だった。

 ただただ、圧倒した。それだけの戦いだった。


 ライトの握っている剣は戦いが終わったことを認識したらしい。元の二本の剣に戻った。

 それと同時にライトは意識を失い、倒れた。


 ただ、意識を失う直前にーー


『お疲れ様。新しいご主人様』


『これから、よろしく』


 そんな少女たちの言葉が頭に響いていた

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