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変わる関係

 決闘終了後、ゼナイドは正座をしていた。

 彼女の前にはその心情を表すかのように地面を何度も踏み締めながら腕組みをしたレーアがいる。


「それで、なぜ急に方針を変えたのですか?」


 ライトたちどころか共に過ごしていたナナカたちでさえあまり見ないその姿に驚いている中、ゼナイドが弁明する。


「その……だな、純粋に剣をぶつけている間に熱くなって」


 行動の理由、自分がライトへと向けている感情を本人の前で直接言うのを気恥ずかしく思ったゼナイドは少し言葉を濁した。


 だが、それを見落とすほどレーアの目は節穴でもなく、見過ごすほど甘くもない。

 さらに目を鋭くさせて問い詰める。


「彼女たちが言うには最初から本気だったようですが?」


 有無を言わせない視線を受けたウィンリィとデフェットは反射的に縦に首を振った。


 それを見たレーアは視線をゼナイドへと戻し、さらに1つ低くい声音で問いかける。


「と、言うことですが?」


「……き、騎士として手加減などできないからだ。

 あっ! それで打ち合っている間にさらに熱を増した結果だ!」


「今、あって言いましたよね?」


「うっ……」


 ジト目でさらに追求するレーア、それから逃げるように視線を逸らし、冷や汗を流すゼナイド。


 ウィスも気になっているようでそれを遮る様子はない。

 ナナカは興味もあるが、どちらかといえばどうするべきか迷っている感じだろう。


 彼女たちの仲間である2人がその様子なら、とも思ったライトだが、流石に見ていられなくなり、口を挟んだ。


「ま、まぁまぁ、結局は元々決めてた結果に行き着いたわけだし……な?」


 どうどう、と特にレーアを落ち着かせるように2人の間に入ることで、永遠に続くかと思われた言葉の応酬が止まった。


 瞬間、向けられた視線。

 小動物ならばそれだけで気絶させられそうなほどの鋭い視線で射抜かれたライトは息を飲んだ。


 どのような言葉が飛んでくるかと身構えたライトだが、それが向けられることはなく、代わりに大きなため息がレーアの口から漏れた。


「そうします。どうやら彼女は今話す気はないようですし……。

 あなたの言う通り、こちらとしては予定通りに収まったので」


 ライトはほっと胸をなでおろし、ゼナイドは安堵の表情でゆっくりと立ち上がった。


「よかったな。ゼナイド」


「ん、あ、ああ。そうだな」


 視線を逸らし、妙に歯切れが悪いゼナイドの返事に首を傾げたが、そんな彼の耳におっとりとした間延びした声が届いた。


「は〜い。じゃ〜、確認するわよ〜?」


 ライトとゼナイドの決闘は互いに武器を落としたことで引き分け。

 そのため、それぞれが飲む条件は2人の折衷(せっちゅう)案となる。


 その折衷案とは、ライトとゼナイドの個人間でほぼ対等な同盟関係を結ぶというものだ。


 見せかけとはいえ決闘を行い、その結果から結ばれる関係だ。

 貴族や騎士であればそれに口を出すことは易々とはできない。

 そのため、2人は気兼ねなく互いに関わることができる。


 ちなみに異議があれば再び決闘を行ったりもするが、今回は元々決めていたことであるためそれが上がることはない。


 ようやく話が落ち着いたことで緊張がほぐれたのかナナカは腕と背中を伸ばし、息を吐くように言葉を口にした。


「面倒だよね。こんなの話し合いだけで決められればいいのに」


「体裁とはそういうものです。面倒ですが整えなければならないのです」


「それに、決闘はこの国の文化だ。

 受け継がれた文化とそれを伝える人々、志があって初めて国は国になる。

 ゆえに、私が守るのは民だ。それが国を守る最善の道だ」


「うーん。それはなんとなく、わかるんだけど」


「あー、なんかモヤモヤするんだよな。もっと融通利かせてほしいよなぁ」


 ゼナイドの言葉が全くわからないわけではない。

 だが、ナナカとライトにはその辺りの感覚は曖昧であるため、素直に頷くことはできなかった。


 それを察してか、彼女は肩をすくめ、まとめるような口調で付け加える。


「まぁ、力があればそれを背負う責任がある。ということだ。

 私たち騎士だけではなく貴族たちにもな。

 体裁とは、それを容易に振るわれないようにする枷のような意味もある」


「ナナカって、勇者なんだろ? なんかその辺のゴタゴタってわからないのか?」


 ウィンリィのさらっと出された質問。

 しかし、答えによってはゼナイドたちは接し方を変えなければならない。


 今回の派閥争いでナナカが勇者派の錦の御旗になっているのを彼女は知らない。

 少なくともゼナイドたちは話していない。


 もしかすると気が付いているのか、ともゼナイドたちは思ったが返された答えはそれを杞憂にした。


「ううん。よくわからない。全部ゼナイドさんたちがやっててくれてたみたいだから」


「……まぁ、そりゃそうか」


「そうだろ? 奈々華がその辺上手くできるとは思えないからなぁ」


「む! 光ちゃんそれどういう意味!?」


「その通りの意味だよ」


「なにそれ! 光ちゃんだって!!」


 そうやってライトとナナカの間で口論が始まった。

 あーでもない、こーでもないと互いのことを言い合っている2人は見ていて微笑ましく思う。


 それを見ていたウィスがぽつりと小さく呟いた。


「守りたいわね〜。あの笑顔〜」


「ああ、だが、いずれは……」


 ナナカは彼女自身が望んでいないのに勇者になった。

 その立場上、いつかはその場所に立たされることになるだろう。


 果たしてその時に彼女は今のように笑えているのだろうか。


「ゼナイド、決闘の件について聞いてもいいですか?」


「そうそう、ゼナイドちゃん条件変えたでしょ〜?」


「む、聞こえていたのか?」


「予想よ〜。大方、全てをよこせ、とでも言ったんじゃないかって〜。

 もしかして、ライトくんに惚れちゃったのかしら〜?」


 オブラートもなにもない直接的なウィスの質問。


 最初に問い詰められた時の様子から動揺を表すかとも思ったが、ライトが聞いていないのを確認すると一度頷く。

 

「うむ。惚れた。私はライトが好きだ」


 直球の質問に負けず劣らずのはっきりとした答えにウィスはどこか嬉しそうに頬に手を添えて、より一層に嬉しそうな顔を浮かべた。


「あらあら〜。そのまま結婚しそうな勢いね〜」


「ん? この決闘で勝てばそのつもりだったが?」


 それを聞き変わらず微笑んでいたウィスだが、レーアは眉を潜め、ゼナイドへと聞き返した。


「本気ですか?

 彼は守るべき民だと言っていたではありませんか。本来なら関わるものではないとも」


「ああ、言っていたな。

 だが、彼と私は今やその関係は対等となった。もはや無関係な存在ではない。

 それに、本気の私と対峙して彼は引き分けにまで持ち込んだ。実力は十分だ」


「もう一度聞きます。本気ですか?」


「本気だとも」


「ナナカちゃん、ライトくんのこと好きみたいだけど〜?」


「彼女のことは守ろう。しかし、こればかりは勇者だからと言ってこれを譲る気はないな」


 胸を張り、言い切ったタイミングゼナイドへとナナカが大手を振りながら声をかける。


「ゼナイドさーん! 光ちゃんがねー!!」


「はぁ!? おまっ、それはずるいだろ!」


「ゼナイドさんは私の仲間だもん! 仲間を頼るのは悪いことじゃないもん!」


「ああ! わかった。わかったから。まずは落ち着け」


 ゼナイドは言葉をかけながらライトの方へと向かった。

 2人の話に混ざり、なだめるように言葉をかける彼女を見ながらウィスとレーアは言葉を交わす。


「……変わりましたね。ほんの数日で」


「ええ、素直になったわね〜。笑顔が増えて嬉しいわ〜」


「尻拭いする人が増えたようにしか思えないのですが?」


「……ふふっ、そうかもね〜」


 愚痴りながらもどこか嬉しそうに言ったレーアにウィスはほんの少し声を弾ませながら同意の言葉を返した。


「レーアちゃんはライトくんのこと、どう思ってるの〜?」


 レーアは最初、彼のことについては興味がないというニュアンスが含ませ「わからない」と答えていた。


 しかし、ライトと接し、ゼナイドたちとの関係もほんの少し変わった今はまた別の感想があるのかもしれない。


 そんな興味本位の質問だった。


「……わかりません。

 ですが、悪い人だとは思いません。多少の恩を感じているせいかもしれませんが」


「そうね〜。感謝しないとね〜」


 いつものように間延びした力が抜けるような語調でウィスは呟いた。


(どこかで分裂していたかもしれない私たちは彼に助けられた)


 直接どうこうしたわけではない。


 だが、彼からの刺激がなければ、どこかで取り返しがつかない衝突をした可能性が高かったのはたしか。


 そう思えるほどにナナカたちとの関係は歪であった。


「ありがとう。ライトくん。あなたに力を借りて正解だったわ」


 真剣な面持ちで誰にも聞こえないように呟いたウィスはふっと息を吐き、それと同時にふにゃりと表情を崩す。


「みんな〜、そろそろ村に戻りましょ〜!

 さ、レーアちゃんも行きましょ〜」


 言葉をかけながら未だ飽きずに口論を繰り広げるライトとナナカ。それをなだめようとしている者たちの元へとレーアを引き連れながら向かった。


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