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オーガ戦

 ウィンリィが部屋から出て少しすると部屋から肉を斬り裂く音が聞こえてきた。


 さらにそれが止んで数十分後、憔悴しきった表情でライトが出てきた。


「……終わったよ。ウィン」


「そうか……」


 ウィンリィはそれ以外には何も言わない。

 言えるわけがない。

 そもそも言葉が見つからない。


 彼の顔は強い疲れを表していたが、その目には未だ強さが溢れている。

 その強さは明らかな憎しみと怒り。


「行こう。早く、奥にいる奴らを」


 ライトはそう言うと両手に持つ刀に力を込め、しっかりとした足取りで洞窟の奥に進み始めた。


「……分かった」


 ウィンリィは洞窟に入る前よりもいっそう強くなった不安感を拭えないままにライトの後に続く。


◇◇◇


 進んだ先はまた広間のような場所だった。

 だが、広さは先ほどの広場と比べ三倍ほどはあるだろう。


 フロース・フレイムでも部屋全体を照らすことはできない。


「……ここが、最深部」


「多分な。ここにオーガがいるはずなんだが」


 ウィンリィはそう呟き広間の探索を始めようとした時だった。


 突然、ブンッと重いもので空気を叩く音が響いた。


「っ!!?」


 その標的となったウィンリィは咄嗟に構えていた剣で受け止める。

 だが、急なことで衝撃を殺しきることができず吹き飛ばされた。


「ウィン!!」


「っ、大丈夫だ。くっそ。どこから来た?

 気を付けろライト!!あいつらは––––」


 ウィンリィが全てを言い切る前に、また重いものが空気を叩く音が響く。


 今度の標的はライトだ。


「ちっ!」


 舌打ちを一つ鳴らすと二本の刀をクロス字に構えてそれを受け止めた。

 その強い衝撃に歯を食いしばり耐えたライトはフロース・フレイムで今受け止めているそれとそれを持つものを照らす。


 刀で受けてめていたものは巨大な斧だ。

 刃は一部欠け、赤黒く汚れているもはや鈍器という方が正しい巨大な斧。


 そして、それを片手で軽々と持っているものはライトとウィンリィが予想した通りの存在だった。


「ウィン。こいつが……」


「ああ、オーガだ」


 ウィンリィがオーガと言ったものは大きかった。


 ライトやウィンリィよりも圧倒的に大きい。大体四メートルほどだろう。

 それもただ太っているのではなく、筋肉質で丸太のような腕、大きなその体を同じく太い足で支えている。


 さらに特徴的だったものは額から生えている二本のツノ。

 肌の色はゴブリンよりもさらに深い緑色。


 ライトはそれを見ると落ち着いてきていた怒りが再び湧き上がった。


(こいつらが、こいつらが。あの人たちをっ!!)


 歯を食いしばり、一度強く巨大な斧を強く押し返したライトは勢いよく後ろに跳び、距離を取る。


 構え直し再び攻撃に移ろうとした時だった。


「ライト!後ろだ!!」


「ッ!?」


 ウィンリィの鋭い声と何かの気配を感じ、ライトが振り向いた先には巨大な斧を高く振り上げている別のオーガの姿があった。


「ちっ!」


 今から振り返っても間に合わないことを悟るとライトは咄嗟に刀を逆手に持ち替え、背中でクロス字に合わせて巨大な斧を受け止めた。


 当然、そんな構え方では満足に踏ん張ることができずに前につんのめりながら倒れる。


 そこに追撃をかけるようにオーガの巨大な斧が振り下ろされたが、転がることでスレスレのところでそれをかわした。


 安全圏に脱したライトは息を整えながらゆっくりと立ち上がる。


「一人一体、やれるか?」


 一連の動作でいつの間にかライトはウィンリィの隣に来ていたらしく、声は真横から聞こえていた。


 それに頷き、すぐさまオーガに向かおうとしたがそれをウィンリィは呼び止めた。


「……ライト」


 しかし、そこから先の言葉が浮かばない。


 ライトの目には強い怒りが浮かんでいた。

 先ほど頷くだけの返事をしたのも痛みではなく、怒りで奥歯を噛み締めていたからだ。


 「気をつけて」とかろうじて言うとライトはまた頷きで答えオーガへと飛びかかる。


 ウィンリィはその後ろ姿を強い不安感を持ちながら見つめた。


(……いや、今はとにかくオーガを倒さないと)


 ウィンリィも意識をオーガへと向ける。


 目はようやく暗闇に慣れてきた。

 これならフロートフレイムの光でも戦うことができるだろう。


◇◇◇


 ライトは右手に持つ白銀でオーガの腹を斬ろうと迫る。


 だが、あまりにも直線的で読みやすい攻撃はオーガの振るう大斧に受け止められた。


 幾度か両手に持つ刀で斬撃を繰り出すが、その全てが大斧で受け止められる。


 刀と大斧がぶつかり合うたびに、金属同士がぶつかり奏でる甲高い音が洞窟に響き渡る。


 このままでは埒があかない。


 そう悟ったライトは後ろに飛び退きながらエアカッターを複数放つ。


 空気の刃はオーガの斧をするりとかわすように左右から回り込みその体を斬り刻む。


 はずだった––––。


 だが、オーガは何事もなかったかのようにそこに立っている。


 放ったはずのエアカッターは霧散しているのかいつまで経ってもオーガを切り刻むことはない。


「ッ!?」


「なんで……?

 オーガに魔術が効かないなんて聞いたこと無いぞ!」


 ウィンリィはもう一体のオーガの斧を受け止めながら目を見開き、驚愕の色を濃く浮かべている。


 そして、それはライトも同じだった。


 村の図書館で軽く読んだがオーガの近接戦闘能力は高い。

 そのため本来なら魔法や弓で攻撃することが有効となっている(今回のような閉所での戦闘の場合は例外だが)。


 確かに攻撃は命中した、手応えもあった。

 だが、オーガは何事もなかったかのように立っている。

 まるで硬い皮膚に阻まれてしまったかのような違和感。


(なんで、攻撃は外れたわけじゃない。魔術が無効されるなんて)


「ちっ!まだだ!!」


 無駄だとわかっていてもエアカッターを放ちながら接近する。

 オーガは放たれる風の刃を何もせず、その全身で受け止め続けている。


 魔術が有効打にならないのであれば後は接近戦で倒すしかない。

 ()やれるかはわからない。


(だが、殺るしかない。せめて、仇を!

 あの人たちの!!)


 ライトの心は憎しみに支配されていた。それゆえか頭は不思議と冷静だった。

 浮かんだ直感に従い一気に走り込み、懐へと潜る。


「こん、のぉぉぉお!!」


 叫び地面を踏みしめると一気にオーガの頭に向かい跳躍。

 当然、真正面からのその攻撃はオーガにも簡単に見えている。


 オーガはその攻撃を受け止めようと斧を構えた。


 刹那、ライトは勝利を確信し口を吊り上げながらそれを叫ぶ。


「エアカッター!!」


 連続でほぼ同じ場所に放たれた複数の空気の刃はオーガの大斧を弾き飛ばした。


(やっぱり!!)


 そう、魔術の無効化はオーガ本体にのみあり、オーガが持つ大斧にはそんな効果はなかった。

 大斧を吹き飛ばされたオーガの体勢は大きく崩れる。


 これでライトの攻撃を阻むものは完全になくなった。


(貰った!!)


 体勢の崩れたオーガの頭めがけて勝利を確信しながら刀を振り下ろそうとしたところでウィンリィの声が飛んだ。


「待て!ライト!!」


「っ!!?」


 ウィンリィが声をあげライトが気づいた時にはすでに遅かった。


 オーガの斧を持っていない左手にはいつの間にか鉄槌が握られていた。

 それは下から空中にいるライトめがけて振り上げられている。


(しまっ!?斧にばかり注目して––––)


 空中にいては攻撃に気がついてもまともな回避行動など取れるはずもない。


 ライトは自ら大きな隙をオーガに見せてしまっていたのだ。


 自分の失敗を悔いたたがそれはあまりにも遅い。


 振り上げられた鉄槌はライトの体を正確に捉え、攻撃が命中したあたりから硬い何かが砕ける音が響いた。

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