討伐戦会議
あれから30分ほどで全員が集まっていた。
だが、彼らが集まったのはライトが眠っていた場所でも、ゼナイドが休憩で借りていた小部屋でもなく、商会支部の応接室だ。
合計で8人と言うことで少し手狭と感じるが、今はそんなことを気にしている暇はない。
この村の今後を左右する問題がすぐ目の前にあるからだ。
全員にはカメのような生物が外に出てくる可能性があることをライトは話していた。
全て話し終えたところで一度全員の顔を見回して改めて言葉を紡ぐ。
「と、言うわけでどうすればいいかを話し合いたい」
その提案に対して異論が出ることはない。
もちろん、それが出てくることが決まっているわけではないが、可能性が全くないと言えない以上、考える必要があると理解できたからだ。
緊張で場が張り詰めている中、ナナカがおずおずと手を挙げる。
一斉に視線が集まる中、彼女は口を開いた。
「その……こんな時に言うのもなんだけど、あのカメみたいなのに名前付けない?」
「名前?」
「うん。呼びにくいって言うか、話しにくいって言うか。
ほら、話の中心なのに名前がないとわかりにくいって思って」
その提案には一理ある。
たしかに、話の中心にいるにもかかわらず、あれそれこれなどの指示語を使うのは面倒だ。
「じゃ、とりあえずガメズで」
少し唸ったライトが適当に浮かんだ語を並べて出来たものを言った。
さらっと適当に付けられた名前でこの話題は早々に終わることになる。
しかし、唐突に予測外の方向から、これまた予測外の話が出たことで驚いたが、あまりの突拍子のなさに少し肩の力を抜くことができた。
小さく笑みを浮かべたウィンリィが表情を一瞬で真剣なものに変えて呟く。
「とはいえ、どうするか……」
「う〜ん。そうね〜。
倒せなくは、ないわよね〜」
「です。ここにはナナカと彼がいます。
火力的には十分でしょう」
今使える戦力でガメズを倒せるもの、と考えればライトとナナカが持つロストが真っ先に挙げられた。
ガラディーンの力についてはウィンリィたちはよく知っている。
ナナカの剣の力は計り知れないが、ゼナイドたちの自信を見ればほぼ同じだけのものがあると考えていいのだろう。
だが、それゆえに1つの問題点がある。
それを真っ先に指摘したのがデフェットだ。
「ん、ちょっと待て。たしかに火力的には十分過ぎるほどにはある。
しかし、的確に打たなければ周りに被害が出るぞ」
「ええ、地理的に山があるのがまずいです。
山崩れがあると村に被害が出ますし、付近は東の村々へのルートでもありますので、塞がれると物流に支障が出ますね」
「それって魔術でどうにか取り除けないの?」
デフェットと補足するように口を開いたミーツェへとナナカが返した質問。
それはゼナイドが一度首を横に振り否定した。
「被害が読めん現状、不可能に近い。
東副都やガーンズリンドから人を呼ぶにしても準備を考えればかなり遅れるしな」
「避難させるにしても時間がかかる……ちょっとした賭けだな」
「では、これは最終手段としましょう。私も案があるのですが––––」
そのように作戦会議は進み、意見や作戦案は出るがあと1つ足りない。
火力に関しては問題はない。
ライトとナナカ、さらに言うのならばデフェットのゲイ・ボルグもある。
バハムートの時と違い、敵であるガメズが地上にいることを考えれば、どちらも全力で扱える。
次に、というよりも後は周りへの被害をどう抑えるかを考えればいいのだが、それがかなり難しい。
壁に体重を預けたウィンリィが眉間を抑えながら確認するように口を開いた。
「あの洞窟から西は副都、東にはこの村、南は丘と平原を挟んでガーンズリンドで北は山脈……」
東西での戦闘は論外だ。一般人が近い。
副都とは距離は少しあるが、後々のことを考えると近くでの戦闘は避けるべきだ。
戦闘可能なのは北か南。
北は山脈でまともに戦えるとは思えないため、南東の平原辺りで戦うのが妥当だ。
しかし、そこには街道があるため、穴が空いたり、亀裂ができたりなどの被害が出るようなことは可能な限り避けたい。
そう考えていくと自ずと出る答えは絞られる。
「バハムートの時と同様ですね。
速攻で全力の攻撃を一撃で倒す。方法としてはこれしかないでしょう」
「ええ、その従者の言う通りです。ガメズの行動が不明なのが引っかかりますが、それが一番でしょう」
「なら、あとはその場所に誘き寄せられればいいわけね〜?」
ウィスが言った瞬間、場が静まり返った。
変なことを言ったわけではない。至極当然のことを言ったまで。
事実、ライトたちもそれを考えていた。それゆえに言葉を詰まらせたのだ。
「……どうやって、誘き寄せるんだ?」
洞窟を押し広げて無理矢理出てくることもあり得るだろうが、地底湖から上がってきたことを考えると掘り進んで出てくることも考えられる。
そもそも、地上に出てくる可能性が大きい、というだけで確実に出てくると決まったわけではない。
どこから出て、どこへ向かうのかが全く予測できないのが現状。
それらが予測できなければ、その場所に誘き寄せるどころか、ライトたちへと意識を向けさせることも難しくなる。
全員がガメズを誘き寄せる方法に首をかしげる中でナナカが手を挙げた。
視線が集まる中で次はどんな突拍子のない話が飛び出すのかと身構えたのと同時、彼女は口を開いた。
「ガメズって、マナ? を食べるんだよね?
なら、それを使って誘き寄せられないの?」
それを聞いた瞬間、ナナカ以外の全員がハッと目を見開いたり、息を飲んだり、小さく声を漏らしたりと各々に驚いた反応を浮かべた。
「そうか……そうだよ! ガメズはマナを食うんだ」
「しかも、今のヤツは腹が減っている」
「餌であるマナが吊るされれば誘き寄せられますね」
ナナカの意見にライト、ゼナイド、ミーツェがすぐさま頷いた。
完全に失念していた。
周りの被害やどう倒すかばかりに思考が向いてしまっていたおかげで、ガメズの生態が完全に頭から抜け落ちていた。
たしかにそれならばどこから出ようとも誘き寄せることはできる。
「ありがとう。ナナカ」
「え、えへへ〜。あ、でも、そのマナどうやって集めるの?」
「そうね〜。生半可な量じゃ難しいわよ〜?」
ナナカとウィスが続けざまに疑問を口にした。
世界には至る所にマナが満ちている。
そんな中で誘き寄せるにはちょっとやそっとでは難しい。
「ならば、魔術を使うのはどうだ?
魔術を使うときは術者にマナが集中するんだろう?」
「いや、術者はたしかにマナを集めるが、体内で魔力に作り変える。
ヤツは魔力ではなく、マナを食うのであろう?
それで誘き寄せるのは難しい」
ゼナイドの意見をデフェットがきっぱりと否定した。
きっかけとしては十分だが方法がない。
再び議論が煮詰まりかけたところでライトが「あっ」と何かに気がついたかのような声を上げた。
「マナティック・コンデンサ……」
ゴーレスの心臓部に使われていたマナティック・コンデンサならば容易に誘き寄せる餌にできるだろう。
ナナカとゼナイドはそれに聞き覚えがないようで顔を見合わせて首を傾げるが、残りの5人は頷いた。
「なるほど……たしかにマナを貯められるそれなら誘き寄せることができますね」
「でも、どうやってそれを用意するの〜?」
「構造は大体把握してるから、即興で作る」
ライトの言葉を受けて2人は眉をひそめた。
本当にそれができるのか、彼女たちは怪しんでいるのだろう。
それを素直にぶつけてきたのはレーアだった。
「……無茶ですが、本当にできるのですか?」
「俺だけだと正直、怪しい。でも、レーアさんが力を貸してくれるなら、できる」
そう言いながらライトはレーアを見つめた。
彼女の瞳は彼の意見と表情を見定めているのかより一層冷たく、刺々しい。
しかし、ここで逸らせば逃げたと捉えられる。
彼が息を止めるほどの真剣な眼差しに折れたようでレーアは「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「わかりました。少しは信じましょう」
彼女の言葉でライトも小さく息を吐き、安心したように肩の力を抜いた。
その2人を見てゼナイドが問いかける。
「では、その方向で作戦を固めるぞ。異論はないな?」
全員が肯定するように頷いたのを見て彼女は言葉を続けた。
「よし、では役割を分け、準備を始めよう」