魔鉱石鉱山
ウィンリィたちがそれぞれに行動を始めた頃、ライトとゼナイドは地底湖から伸びていた横穴を歩いていた。
その横穴は二、三人が余裕を持って歩ける程度の広さがある。
さらに、鉱山跡というのは本当なようだ。
その証拠に天井には上の土や岩を支えるための木材が置かれていたり、足場がある程度舗装されていたりと明らかに人の手が加えられていた。
そんな坑道を順調に歩く中、二人の前に別れ道が現れた。
「ん、別れ道だ」
どうやら今まで進んできた方の道は後から掘られたようで、その別れ道の先はかなり広い作りになっていた。
「……こっちの道を進むぞ」
ゼナイドは言うとライトが答えるよりも先にその道を進み始めた。
「あっ、ちょっ!」
慌てて彼もその背中について歩き始める。
彼らその本道とみられる坑道は歩きやすくするためか、かなりしっかりとした道路とまで呼べる道が敷かれていた。
「かなりの広さがあるけど……本当に坑道なのか? トンネルとかじゃないの?」
「……私も、話で聞いた程度だが、移動効率を上げるために魔術で道を固めることはあるらしい」
たしかにしっかりとした足場があるだけでかなり歩きなる。
しかも、地面の凸凹がなくなれば荷車のようなものを使うこともできる。
わざわざトロッコのレールを敷くことを考えれば魔術で簡単に解決できる方が楽ではありそうだ。
「なら、なんでさっきの道はそれをしてなかったんだろ? 全部の道にそうしてた方がいいんじゃ?」
「まだ採掘途中だったん……ん?」
ライトの問いに答えようとしたところでゼナイドは眉をひそめた。
「なぜ採掘をやめたんだ?」
「そりゃ、鉱石が取れなくなったからじゃ」
「いや、それにしては妙だとは思わんか?」
「妙って?」
「上へのレールまで敷いて、なぜ地底湖付近はああも中途半端な出来だったんだ?」
そういえばそうだ。
あの縦穴は明らかに完成にまでは至っていなかったが、上へと何かを運ぶためであろうトロッコのレールはあった。
しかし、地底湖付近だけはまるで途中で放棄したかのように見えた。
(たしか、白銀と黒鉄は魔鉱石が取れていただろう場所って……)
二人はたしかにそういったが、この辺で魔鉱石が取れていたという話は聞いたことがない。
聞かれなかったからパブロットが言わなかったとも思ったが、果たして本当にそうなのだろうか。
(なぁ、白銀、黒鉄。魔鉱石って人が見てそれってわかるのか?)
『ん? わからないわよ? だって人間にはマナが見え……あれ?』
『だとしたら、何であそこまで綺麗になくなっていたんだろ?』
二人揃って首を傾げているらしく「ん〜?」と唸る声が聞こえる。
そんな中でゼナイドが小さく呟く。
「もし、もともと整備されていたものが破壊されたのだとしたら?」
「破壊なんてそん……あっ、あの生物か!」
「ああ、そうだ」
あの巨大な生物ならば整備されていたものを破壊できたとしてもおかしくはない。
「でも、なんでそんなことを?」
ライトの疑問はゼナイドも引っかかっていたことらしく、顎に手を当てて唸る
「ああ、その理由がわからん。
住処を脅かされた、とも思ったが、それならばレールが敷かれた段階で出てくるはずだ」
瞬間、白銀と黒鉄が揃って声をあげた。
『『あー!!!』』
「うぉ!?」
その突然の声にライトは反射的に声を漏らした。
すぐにその口を塞いだが、ゼナイドにはしっかり聞こえていたようで、訝しむような顔を向ける。
「ん? どうかしたか?」
「な、なんでもない!」
ゼナイドは「そうか」と言いすぐに自分の思考へと戻った。
その様子に一息つき、ライトは二人へと言葉を向ける。
(なんだよ。急に)
『わかったのよ!』
『整備されていたものを破壊したのはあの生物で間違いない』
(理由は?)
『『魔鉱石よ(だ)』』
あの生物はおそらくマナを食う生物だ。
ただし、ネスクのような地面から吸収するのではなく、口で咀嚼、つまりは食事でマナを食う。
そして、地下でマナが多く含まれていたものとなれば、何を食っていたのかなど自ずと一つに辿り着く。
(あいつ、魔鉱石を食っていたのか……)
そう考えれば、地底湖にあったであろう魔鉱石が根こそぎなくなっていたのにも理由が付けられる。
『ここは鉱山、しかも道を整備するほどの大きな鉱山だったのよ』
『でも、あの化け物は舗装されていた場所の下に魔鉱石を見つけた』
(それを食うためにあいつは現れて破壊した。
そして、ここを採掘していた者たちは逃げて、そのままになったってことか)
『そういうことよ。人間も量は少ないけれどマナを貯めてる』
『上でアイゼシュピンの繭に包ませた人間がいたろ?
たぶん、あれもマナを貯められるんだ』
(なるほど、魔鉱石を食い尽くしたヤツからしたらいい食料ってことか)
あの生物がもともとどこに住んでいたのかはわからない。
考えられるのはあの地底湖。そこにあった魔鉱石を食い尽くしたため、わずかとはいえ感じとったマナを頼りに上に上がってきた。
大まかな生態としてはその辺りか。
だが、それである答えにも希望があることがわかる。
(採掘してる人たちが逃げられたってことは、出口は他にある、よな?)
『可能性としてはあると思うわよ』
『ああ、君たちはあそこから入ったが、本来はあそこが行き止まりだったようだし』
予測だが、あながち大きく外れているとも思えない。
あの縦穴よりも別の出口を探して出ることを優先したほうがいいかもしれない。
「ゼナイドさん。ちょっと、考えたんだけど––––」
ライトはひとまず、白銀と黒鉄とで話したカメのような生物のこと、別の出口があるかもしれないことを話した。
それを聞いたゼナイドは「なるほど」と興味深そうに言うとはっきりと頷いた。
「何にしても一度あの地底湖へ戻るぞ。もしかすればナナカたちが強行突破してあの場所に来るかもしれん。
はっきりとした目印を残しておきたい」
「うん……ん? 強行突破?」
「ああ、言ってなかったか。ナナカの剣は強力だ。
貴様がガーンズリンドで放ったあの一撃レベルのものを持っている」
ナナカは勇者だ。
そういう特別な力を与えられていたとしても不思議はない。
さらにナナカにはウィンリィたちも付いている。
彼女たちの援護があれば突破することも可能だろう。
「わかった。一度戻ろう。休憩もしたいし」
二人は行動を決めると今まで来た道を戻り始めた。