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甲巨獣襲来

 ライトはアイゼシュピンに突き刺した黒鉄を引き抜き、付いた血を払い飛ばした。


 洞窟を小休止を挟みつつ進み三十分。

 広いとは思ったが、ここまで進んでいても底が見えない。


 パブロットの話ではカメに似た生物がいるという話だったが、この洞窟を進む間に見たのはアイゼシュピンだけ。


 数は多いため油断はならないが、そこまで苦労するような存在ではない。


「にしても、アイゼシュピンしかいないな。ここ」


「油断はするなよ。お前の魔術で明るいとはいえ、外よりは視界が悪いんだから」


 ぼやいたライトへと咎めるような言葉を向けたのはウィンリィだ。


「わかってるよ」


 どんな物が出てくるかと身構えていたライトにとっては拍子抜けも良いところだ。


 洞窟の方があまり障害にならないのであればゼナイドたちの方に集中することができるわけではあるが。


 正直それもあまり手応えを感じられていない。

 どうするか。と考えているとデフェットが声をかけてきた。


「主人殿、少しいいか?」


「ん? いいよ。どうかした?」


「マナが妙な溜まり方をしている場所がある」


「妙な溜まり方?」


「ああ、言葉に表すと難しいが……。

 池の真ん中だけ水がない、ようなイメージだ」


 マナは至る所から無差別に発生するのではなく、湧き出す場所というものがある。


 そこから湧いたマナが空気や大地に溶けて広まることで、まるで至る所から湧いてるようになるというだけだ。


 そのため、その発生場所の距離などに応じて多い少ないは普通にあること。


 しかし、その場所はまるで切り取ったかのように、不自然に消えている。


「つまり、マナを食う何かがいる、ということですか?」


 ミーツェの確認の問いにデフェットは頷いて補足するように続けた。


「マナを食うネスクのような生物は世界各地にいる。

 だが、ここまで局地的にマナが消えるほど食らうものを私は知らない」


 ライトもそんな生物を知らない。

 他に知っていそうな者といえばウィスとレーアぐらいだ。


 そう思い、ライトは視線をその二人へと向ける。


「ん〜? 私も知らないわね〜。レーアちゃんは〜?」


 ウィスの視線を受けたレーアは記憶を探るように少しの沈黙を開けて首を横に振った。


「ということは、それがそのパブロットさん? が、言ってたカメみたいな生き物ってことかな?」


「ああ、たぶんな。デフェ、そこまで案内を頼めるか?」


「了解した。こっちだ」


 ライトと交代するようにデフェットが先頭歩き始め、他の者たちがそれに続く。


 ちょうどいい機会だ、とライトはナナカに声をかける。


「大丈夫か? まだ続きそうだけど」


「うん。全然ってわけじゃないけどね」


 照れ笑いのようなものを浮かべてナナカはそう答えた。

 余裕はなさそうだが切迫しているわけでもない。


 彼女は自分のことを変わったと言ったが、それはライトも思っていることだ。


(いや、ただ単純に知ろうとしてなかったってだけか……)


 こんな良い友人がすぐ近くにいたというのに自分は全く気がついていなかった。

 しかし、その存在が当たり前となっていたせいだろうことは今ならわかる。


(……ナナカが元に帰れる方法も、探さないとな)


 ナナカの話を聞く限りでは彼女は死んでこの世界に来たのではなく、転移により呼び出されただけ。


 もしかしたら帰れる方法があるかもしれない。


 新たな目標を胸に秘めてライトはデフェットの後に続き、洞窟内を歩み進めた。


◇◇◇


 デフェットが案内したのは洞窟の中でもドーム状に広がっている場所。

 その奥には底が見えない縦穴が伸びているだけで他に道はない。


「行き止まり、か?」


 ウィンリィが確認するように口を開いた。


「ああ、たぶん」


 答えながらライトは歩を進めようとしたがそれをミーツェが手で止め、指差す。


「何かあります」


「ああ、あの部分だけマナが綺麗になくなっている」


 デフェットが付け加えるように言い、全員がミーツェが指差した方へと視線を向ける。


 視線で確認を取るとライトはフロースフレイムをゆっくりと動かし、その場所を照らした。


「……あれは? 糸の塊?」


 レーアの言う通り、そこにあったのは糸の塊、繭だ。

 だいたい二メートルほどのサイズの繭がその場所に転がっている。


 それも一つ二つなどではなく、十個近く転がっていた。


「あらあら〜、結構あるわね〜」


「……誰か付いて来い。見てみよう」


「なら、俺が行く」


 ゼナイドの提案にすぐに手を挙げたのはライト。


 もし二手に別れたとしてもある程度対応できる彼の存在は彼女にとってもありがたかったのか、ゼナイドは何も言わなかった。


 それを了承と受け取り、ライトはすぐにミーツェへと指示を下す。


「ミーツェ、何かあったらすぐに報告を」


 彼女が頷いたのを見てゼナイドはゆっくりとその繭に近づいていく。

 それの後にライトも続いたが、すぐに本能が訴えてきた。


 逃げろ、と––––。


 その本能をどうにか押さえつけながらライトは恐る恐るその繭に触れる。


 手触りとしてはベタつくのが気になる程度で他は糸と同じ感覚だ。


『それがシルバーナーヴの元になるアイゼシュピンの巣よ』


 白銀はそう言ったが巣、と言われてもどこからどう見ても繭だ。

 クモが張る巣には到底見えない。


(巣? これが?)


『まぁ、人間で言うところの食料庫だよ。寝床にも使うから巣で間違いはないよ』


 アイゼシュピンは基本的に巣に引っかかった、もしくは糸で巻きつけた生物を繭にする。

 繭に包まれた生物は約一週間の時をかけて溶かされる。


 そして、繭に小さな穴を開けてその溶かされた元生物の液体を飲むのだ。


(思った以上にえげつない……)


 あいも変わらずこの世界は妙に生きにくい。

 そう心の中でつぶやくがすぐにそれを見つけて目を見開いた。


 同じくそれを見たゼナイドはライトに問いかける。


「……貴様はこれをどう見る」


「どうって」


 その繭は真ん中が大きくえぐれていた。

 中にいたのはどうやら人間らしいが、腹の部分は何かに食われたかのように雑に無くなっており、肋骨が見えていた。


 それは明らかにアイゼシュピンの生態的な行動ではない。


「たぶん、カメみたいな生物がやったんだとは思うけど……」


 ともかくこのことはウィンリィたちにも共有しておくべきことだろう。

 そう思ったのと同時だった。


「ライト様! 避けて!!」


「ッッ!? 上!!」


 ミーツェの声が耳に届き、それを感じた瞬間、何か重いものが地面に落ちた音と振動が体を揺さぶる。


 地面に落ちたそれは巨大な亀のように見えた。


 巨体に背負った甲羅はかなり平べったく、尻尾はもその巨体とほぼ同じ長さがある。

 甲羅から太い手足を伸ばし、それと同じように伸びる首には鼻先が尖った頭がくっ付いている。


 そしてなによりも圧倒されるのはそのサイズだ。


 全高は五メートル、さらに頭から尻尾までの全長は十メートルほどの長さがある。

 そんな巨体がライトたちと他の者たちの間を遮るように佇み、二手に分かれたライトたちを見ていた。


「……なん、だよ。あれ」


 絞り出されたライトのささやきに答えたのは白銀と黒鉄だ。


『わからない。見たことないわ』


『でも、強いのは確かだろう』


 二人のその声から戸惑いが見える。


 ともかくとして、ここは一度下がり、対策を話し合うべきだろう。


 そう思うが、無理矢理突破するのは難しい。

 なにせその巨体だ。

 上を通っていけば長い尻尾ではたき落とされ、かといって下を通れば踏み潰されかねない。


(ここは尻尾を切り落として、いやここは一度攻撃して通じるかどうかを––––)


 これからの行動を考えたいるとその横をゼナイドが通り過ぎて行った。

 彼女が剣を抜き、向かう先はそのカメのような生物だ。


「まっ、待って!! まだ!」


「動いていない今がチャンスだ。ここで倒す!」


「無茶だ!」


 ライトは叫び、マーシャルエンチャントを唱えて走るが一歩遅い。


 ライトの制止よりも早く、ゼナイドは跳び、剣をその生物の右目に突き刺した。


「ッッッッ!!!!」


 瞬間、つんざくような悲鳴が辺りに響き渡った。

 それに耳を塞ぐが体の芯から震わせるような音にライトは動きを止める。


 目を突き刺したゼナイドもライトと同様に動きを止めていた。

 そんな彼女へとカメのような生物の尻尾が迫る。

 

「ぐ、がぁ……!!」


 その一撃を真正面から受けた彼女が飛ぶ先、その方向には洞窟の縦穴があった。


 あの場所がどこに繋がっているかわからない。深さもわからない。

 だが、あの一撃をまともに受けた彼女が対応できるわけがないことはわかる。


「ウィン! 一度下がって態勢を立て直して!」


 ウィンリィに一方的に言い投げると同時、ライトはゼナイドが落ちていった縦穴に飛び込んだ。

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