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再攻勢

 戦闘はすでに始められ、人の怒号と魔術の砲撃音がかすかに耳に届く。

 それらが向かう先にはゴブリンとオークが多数群がっている。


「始まったみたいだな」


 ライトは動き出したバウラーが率いている部隊を少し離れた場所から見ていた。


 その声は少し震え、表情は硬い。


「ライト……」


 ウィンリィはそんなライトに声をかけ安心させるように肩に手を置く。


「そう硬くなるな。ほら、落ち着いて深呼吸」


 彼女の言う通りに目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 そして、最後に大きく息を吐くと目を開けてこれから向かう洞窟に視線を向けた。


「俺たちも行こう」


「ああ」


 二人は洞窟に向かい走り出した。


◇◇◇


 ライトは走りながら現実逃避のように作戦を思い出していた。


(まず、バウラーたちの部隊がゴブリンとオークを引きつける。

 その間に俺たちは洞窟内に侵入し、可能ならば指揮官と思われるオーガを倒す)


 作戦とは到底言えないかなり大雑把なものだった。


 だが、これが今ある戦力で一番早く尚且つ被害が少ない作戦だろう。


(俺はこんなところじゃ死ねない。死にたくない!)


 浮かぶのはライトたちと別れる前に言ったバウラーの言葉。


『危険と判断したら戻ってきて構わん』


(多分バウラーは俺に逃げてもいいと言っているんだ。

 正直、今すぐに逃げ出したい。でも––––)


 ライトは恐怖に未だ震える全身に鞭を入れるように走り続ける。


(––––こんなところで逃げてたまるか!

 ここで逃げたら俺は弱いままで近い日に死ぬ。そんなのごめんだ)


 ライトは洞窟をある方向を睨みつけ、己を鼓舞するかのように拳を握りしめた。


◇◇◇


 ウィンリィはそんなライトの一歩後ろを走っていた。


(だいぶ落ち着いているけどまだ動きが硬い……)


 ウィンリィから見るとライトの走っている後ろ姿はどこかぎこちない。


(やっぱりまだ……)


 まだライトは実戦の恐怖を克服しきれていない。

 だが、それは当然のことだろう。


 彼女は知り得ないが、ライトは元々は戦いとは無縁の世界にいて生活し、初の大規模戦闘で最初に見たものが人の死だったのだ。


 ウィンリィは彼の過去を知らないが、戦闘に関しては素人であるのはわかる。

 最初の暴走を見て死を見ることにも慣れていないのもわかった。

 そんな者にすぐに戦いに、死に慣れろとは酷なこと。


(でも、ライトは戦闘に出ている。本来なら今すぐに逃げ出したいはずなのに––––)


 だったら、とウィンリィはライトの背を一瞥すると洞窟に視線を向ける。


(私が絶対に死なせない!)


◇◇◇


 それぞれの想いと決意を胸にした二人は洞窟の入り口から数メートルの場所に到着した。


 洞窟の入り口周辺は少し前の魔術や矢の攻撃のせいで矢が突き刺さったままになっていたり、ボロボロになっている。


 その前にはゴブリンとオークが二体ずつが門番のように立っていた。


「どうする?」


 強引に突破できなくはないが、安全策を取るならばそれは避けるべきだろう。


 彼女は少し思索すると洞窟に視線を向けながら小声でライトへと問いかけた。


「魔術で四体同時。殺れるか?」


 ライトは小さく頷くと洞窟の入り口前にいるゴブリンとオークに狙いを定めエアカッターを放つ。


 放たれた空気の刃はゴブリンとオークたちを静かに、そして綺麗に切り刻んだ。


「……よし、行くぞ」


「……分かった」


 二人は周りを警戒しながら洞窟を覗き込む。

 他のゴブリンやオークはバウラーたちの迎撃に向かっているらしく、新たに出てくる様子はない。


 伏兵を伏兵を潜ませている可能性も考えられるが洞窟内ならば戦闘エリアが限られ、もしもの時は洞窟を塞いで封じ込めることもできる。


 そう考えるとここは中に入る方が得策だ。


 しかし、中は他の洞窟と違いかなり深そうで長い道が伸びており、奥の方は太陽の光がほとんど差し込んでいない。


 松明すら置かれていないため、底無しの闇がぽっかりと口を開けているように感じられた。


「明かりがいるな」


「大丈夫。創造(クリエイション)、フロースフレイム」


 ライトが唱えるとふわりと浮かぶ掌サイズの炎が五つ発生した。

 魔術で創られた炎のためか普通の炎よりも数段明るく熱も感じない。


「これで十分か?」


「ああ、突入するぞ」


「了解」


 ウィンリィにライトは緊張で表情を固くさせながら言葉を返した。

 フロースフレイムで洞窟内を照らしながら二人は大きな口を開けた闇に足を踏み出す。


◇◇◇


 二人が洞窟内に入って数十分後。

 ライトは不思議に思い、先頭を歩くウィンリィに問いかけた。


「なぁ、ウィン」


「どうした?ライト」


「洞窟ってこんなに広いのか?」


 数十分間ずっと洞窟内を歩いているのだが、一向に洞窟の終わりが見えない。


 盗賊が作ったにしてはあまりにも横幅が広く、天井にいたってはライトの三倍ほどの高さがある。

 これほどの広さを盗賊たちが作ったとは思いにくい。


 しかし、壁や天井の様子から自然にできたものとも考えにくかった。


「多分、あいつらが住みやすいように広げたんだろう」


「……そうか」


 ライトは洞窟内を見回す。


 洞窟は特に整備はされておらずただ掘っただけ、ということがよく分かる。

 床や壁は凸凹で歩き難く、松明などの光源も一つもない。


 フロースフレイムを使っていてようやく数メートル先が見える程度だ。


 変わらぬ洞窟内の景色に飽き始め、何の気なしに見回していた時だった。


「ん?」


 ウィンリィが疑問の声を漏らしながら立ち止まる。


「どうしたんだ………って、なんだこれ」


 聞いたライトもウィンリィが立ち止まった理由が分かった。


 その先は明らかに今までのものとは少し違った。


 そこはちょっとした広間のようになっており、その壁には幾つかの穴があった。


 穴は合計で七つ。

 そのうちの一つはかなり大きい。おそらくそこが奥に続いているのだろう。


 ライトは少し考えるとウィンリィに提案した。


「一つ一つ見ていくか?」


「……そうだな。もしかしたら伏兵がいるかもしれない」


 二人は確認すると手近な穴を覗き込む。

 そこは相変わらず暗闇が広がっているだけだ。


 頷き合い、すぐに対応できるようにそれぞれ武器を取り出し、構える。


 臨戦態勢のままライトは「何が出てくるか」と身構えながら、ゆっくりとフロートフレイムを動かして穴の中を照らした。


「……なにも、ないな」


 中には小部屋のような空間がぽっかりと空いているだけだ。中にはなにもない。

 二人は慎重に他の穴をフロートフレイムで照らしながら見ていく。


 小部屋の二つ最初と同様になにもなく、他の二つは保管庫らしく、商人や冒険者から奪ったのであろう武器や食料が無造作に置かれていた。


「あっ!これ、ライトのじゃないか?」


 ウィンリィは無造作に置かれた武器の山からシンプルな剣を手に取りライトに渡す。

 ライトは二本の刀を地面に突き刺すとそれを受け取り見回し、一回頷いた。


「ああ、俺のブロンズソードだ。こんなところにあったのか」


 ライトは己の武器と再会でき嬉しそうに呟くとそれをマントの中にまるで鞘にしまうかのように入れた。


 その後、すぐに地面から刀を抜く。


「使わないのか?」


「ん?ああ、念のためだよ。

 俺たちはたった2人で敵のど真ん中にいるんだ。物の力に頼りたいんだよ」


 ライトは苦笑いを浮かべながら言った。


「まぁ、それもそうだな。

 よし、小部屋はあと一つだ。それを見たら奥に進むぞ」


「ああ。そうだな」


 言葉を数言かわすとライトは小部屋から出る。


(だいぶ緊張がほぐれているな。だが、油断しているわけではない)


 ウィンリィもライトの後に続き小部屋から出る。


(これで後はライトの精神を不安定にさせることが起きなければいいんだが……)


 ウィンリィのその願いはあっさりと打ち砕かれることになるとは、その時の彼女は思ってなどいなかった。


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