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交わる者たち

「光ちゃん、大変だったんだね」


「それは、奈々華もだろ」


 ナナカは転生者として生きてきたライト()の生きてきて今に至る経緯、ライトは転移者としての彼女が過ごしてきたことを聞き終えた。


「大丈夫か。奈々華」


「え? あ、うん。どうにか、ね。

 ほら、仲間もいるからなんとかやれてるし、これからもやれると思う。うん」


 少し自信なさげだが、ナナカは頷いた。


 強がりなのは見ればわかるが、そこはあえて突っ込まない。


 彼女の近くにいた3人。

 自分はまだ信用できないが、聞いたところによればあの3人のおかげで今まで生きられていたようだ。


 ナナカは彼女たちを信用しているようだし、頼れる者がいるだけで気分的にかなり楽になるのはライトもよく知っている。


 おそらく転生してすぐの自分のようなことにはならないだろう。


 ライトはそう考え、ふっと表情を和らげた。


「なら、よかった」


「私も、光ちゃんが生きててよかった。

 本当に……本当に……!」


 急に涙を浮かべて泣き始めたナナカへとライトは慌てて言葉をかけながら彼女の隣に駆け寄る。


「あ、おい!? ど、どうした?

 なんかあったか?」


 そのほとんど見ない突然の反応にライトの処理は追いつけていない。


「目の前で……っ、光ちゃんが、轢かれて……、私! 何も!」


 嗚咽混じりに呟かれたため途切れ途切れの言葉だったが、ナナカが何を見たのかをライトは簡単に察せた。


「そうか……お前、アレを見たのか」


 ナナカはコクリと小さく頷いた。

 ライトは彼女にどんな言葉をかければいいのかもわからず、開いた口をきゅっと結んだ。


 彼女が思い悩み、苦しんでいたのは自分のせいだ。


 そんな彼女がなぜ、自分と関わっていたからという理由だけで知らない世界に来て、勇者をすることになるのか。


 あまりにも酷過ぎる。


「ごめん。俺のせいで……」


 ライトの謝罪の言葉に対し、浮かんだ涙を指で拭き取りながら少しの嗚咽を混ぜながら首を横に振り、答える。


「ううん、ううん! 光ちゃんのせいじゃないよ。

 全部その神様の間違いが原因なんでしょ?

 それに、また光ちゃんに会えたから。よかった」


「奈々華……」


 彼女の言葉でライトは再び理解した。

 やはり、自分はあの世界で何も見ていなかった。


 自分という存在をここまで大切にしていて、死をここまで悲しむ者がいるなど、あの世界では全く気がつかなかった。


 たしかに奈々華がこの世界に転移したのはライトのせいだけではない。


 だが、自分に原因があり巻き込んでしまったというのは事実だ。


 そのことに罪悪感を感じるが、正直なところ見知った顔をまた見れた、というのは思いの外、安堵できることだった。


 ふとした時に思い出すことはあれど、もう会うことはないと思っていた。

 切り捨てるとまで言わずとも、心の奥にしまうものだと思っていた。


 少々気恥ずかしいが、昔の自分を知っている者がいるというのはなんとなく「嬉しい」とライトは感じた。


 おそらく、マナリアの村で出会った守人、トラストもそう思っていたのだろう。


 だから、ここで言うべきは謝罪の言葉ではない。


「ありがとう。奈々華」


「ありがとうって……なんで?」


「この世界に来る前の俺を覚えている人が居るのって、こんなに嬉しいんだなって思ってな」


 素直なその感謝の言葉を受け、ナナカは顔を赤くさせ、俯いた。


「ん? どうした?」


 心配そうに声をかけるライトのその声は元の世界で時々聞いた物と同じだ。

 同じはずだが、見せる顔つきや声の質が違う。


 やはり彼は変わった。


(あ、あれ? 光ちゃんってこんなに……かっこよかったっけ?)


「う、ううん。なんでも、なんでもないよ? うん……」


 疑問符を浮かべるが、ライトからは本当に大丈夫なように見えたため、彼女の元から離れる。


「本当に、変わったね。光ちゃん」


 ナナカがそう呟いたのと同時、応接室の扉がノックされた。


「ライト様。皆様をお連れしました」


 部屋の外からそれを伝えてきたのはミーツェの声だ。

 ライトはその扉を開いた。


 ウィンリィとデフェットは外でナナカの仲間である他3人の監視でもしているのだろうか、そこにいたのはミーツェだけだった。


「わかった。2人と外の人たちも呼んで。

 色々と事情を聞こう」


「はい。すぐに……」


◇◇◇


 3人がけの長ソファにライトとウィンリィが座り、デフェットがその後ろに立つ。


 テーブルを挟んで向かい合わせの長ソファにはナナカとその黒いローブ着た者と騎士風の者が座る。

 その後ろには白いローブを着た小柄な少女が立ち、ライトを見下ろしていた。


 ミーツェがそれぞれの前にお茶を出したタイミングで、黒ローブを着ている雰囲気がほんわかしている女性が間延びした声で提案する。


「じゃあ〜、最初に自己紹介、しましょうか〜?」


「えっ、えっと、お願いします」


 今までであったことがない掴み所がない女性にたじろぎながらもライトは答えた。


 その反応を楽しんでいるのか微笑むと名前を口にする。


「ウィス・シーパルで〜す。よろしくね〜」


 それに続くように白オーブの少女が続く。


「レーア・ヴァミル、です」


「私たちは〜、魔術師なの〜」


 ウィスはそう付け加えると、ナナカを挟み隣に座る騎士風の女性へと視線を向けた。


「ゼナイド・ミリスアだ」


「あ、えっと、ナナカです」


 ライトたちもそれぞれ名前を言い終えたところで、ウィスが変わらぬ表情で、しかし申し訳なさそうな声音で言う。


「ごめんなさいね〜、ナナカちゃんがどうしてもあなたに会いたいって〜、知り合いなの〜?」


「ええ、まぁ、はい」


 どこか嬉しそうに「あら〜」と言い、さらに続けようとしたところをゼナイドが咳払いで遮った。


「時間も遅い。単刀直入に聞く」


 どこか棘を感じる物言いに少し身構えるライトへとゼナイドは質問する。


「貴様は、南副都の白い化け物を倒したのか?」


「あ、ああ、倒したよ」


「今日、あの巨大な生物を倒したのも、貴様か?」


「そうだけど……それが?」


 質問の意図が見えず、聞き返すライトへと返されたのは無言だった。

 ウィスもレーアも黙り込んでいる。


(雰囲気が……っ!?)


 突如向けられた殺意とティーカップが割れ、テーブルを踏みしめる音がライトの耳に届くのと同時、ライトの首筋に剣が向けられていた。


 それに対抗するようにゼナイドが座っていた場所の近くの肘掛けには短剣が突き刺さっている。


「それ以上動くのでしたら、次は当てます」


 いつの間に取り出したのか別の短剣を構えながらミーツェは言った。

 猫のような特徴的な耳は後ろに倒され、尻尾は毛が逆立て臨戦態勢をとっている。


 その言葉に答えるのはライトへと剣を向けているゼナイド。


「貴様も動いてみろ。こいつの首が床に落ちるぞ」


 彼女から向けられた明確な殺意に対抗するように、ライトも先ほどまでとは打って変わり、戦闘時の意識に変えて問いかける。


「……なんの真似だ。

 俺とあんたは初対面のはず、恨まれることをした覚えはない」


 それに対して答えたのはゼナイドではなく、レーアだ。


「ええ、そうですね。我々とあなたが初めて出会ったのは今日です。それに間違いはありません。

 ですが、それがあなたの命を狙わない理由にはなりません」


「人に恨まれるっていうのは〜、そんなに難しいことじゃないのよ〜」


 バチバチと彼らの間で火花が散る中、ようやく我を取り戻したナナカが剣を持つゼナイドの腕を掴んだ。


「や、やめてよ! 光ちゃんに、なんで!?」


「彼は我々の行動に邪魔になる。“勇者と同じ力”を持つ彼は」


「です。

 それに彼も外の世界の人間ならば生かす理由もありません」


 ナナカの反応を見るにこれはゼナイドたちの独断、ないしは別の目的があってのことだろう。


 ナナカの話から彼女が転移させられた目的は魔王討伐のはず。

 協力の打診ならばともかく、同じ力を持つから殺すというのは聞き捨てならない。


「なんで同じ力を持つやつが邪魔になる?」


「魔王側に行かれたら脅威となるから、ですよ。わかるでしょう?」


「制御できない力は暴走を生む。それを今許すわけにはいかん。

 脅威になる可能性は全て刈り取る」


「今は問題なくても〜、後々どうなるかなんてわからないものね〜」


 レーア、ゼナイド、ウィスの順で言われた言葉に答えるのはウィンリィ、デフェット、ミーツェだ。


「言いがかりだな」


「ああ、脅威になるかも知れんで全てを切り捨てれば、いずれ全ての対抗手段をなくす」


「今のライト様は力の使いどころを理解できています。

 少なくとも、罪なき者に力を向けることはありません」


 再び訪れた睨み合い。

 だが、この隙は大きなチャンスだ。


「エアカッター!」


「ッ!?」


 ゼナイドが驚きと同時、その剣を振り下ろそうしたが、それはライトの手のひらから伸びた風の剣に弾き飛ばされた。


 空気で作られたその剣を突きつけ、宣言するように告げる。


「もうやめろ。

 本来の目的は俺の命じゃなくて魔王だろ」


「……ック!」


「下がりましょう。これ以上は誰かが死にます」


「そうね〜、ここは素直に下がりましょうか〜。

 彼の言う通り、寄り道だからね〜」


 ゼナイドはレーアとウィスの言う通りに下がることに決めたらしく、舌打ちを堪えながら数歩下がり、踵を返して応接室から出て行った。


「追いますか?」


「いや、いいよ。俺もできれば戦いたくはない」


 レーアはライトのその言葉を聞くとソファから無言で立ち上がり、ゼナイドの後に続くように部屋から出た。


「お茶、美味しかったわよ〜、じゃあ、またね〜」


 ひらひらと手を振りながら別れを告げたウィスが出て行った。

 その扉からナナカへと視線を移してライトは聞く。


「……奈々華はどうするんだ?」


「私は……みんなについていく。怖いけど、助けてもらったこともあるから。

 魔王? を倒すまでは、ね」


「わかった。気をつけて……な」


「うん。あと、その……みんなが迷惑をかけて、ごめんなさい」


 全員に頭を一度下げたナナカは先に出て行った彼女たちに続くように彼らの前から立ち去った。


 止めたくはあった。

 殺されかけはしたが、不利になると分かれば下がり、何かしら目的がある節は見えるが第一目標は魔王討伐であるのはナナカの言葉通りなのだろう。


 そこだけは間違いない。


 ライトは自分が弾き飛ばした剣を見つめながら、友人との気まずい別れ方に拳を握りしめた。


 そうして、再開した2人は再び別れることになった。

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