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利用する者たち


 突然のことに言葉をなくす2人に挟まれているミーツェは困惑したような顔でライトへと問いかけた。


「ライト様。彼女はお知り合い、でしょうか?」


「あ、ああ……そうだ。とりあえず、武器は下ろしていい」


 ミーツェは返事をして構えを解いたが短剣は逆手に持ったままだ。

 おそらく何か妙なことをすればすぐさまその首を搔き切るだろう。


「光、ちゃんなの? 本当に?」


「ああ、今はライトって名前だけど」


「そう、なんだ……ライト、ちゃん?」


「ちゃん付けは変わらないのか……。やっぱり、奈々華だな」


 ライトが転生する前に接していたナナカそのもののままであったことに安心感を覚えたライトはそう言って微笑んだ。

 それにつられてナナカはこくりと頷いて「光ちゃんこそ」と言葉を返す。


 ミーツェから見て2人はとても仲が良さそうに見えた。

 少なくとも今すぐに剣をぶつけ合うような間柄ではない。


 ライトとその少女は確かにそのような関係なのだろうが、ミーツェの警戒はその後ろにいる3人だ。


(殺気、ではない。警戒とも少し違う。言うとするならば、焦り?)


 焦る? 何に?

 警戒や殺気ならばわかるが、なぜ焦る必要があるのだろう。


「ミーツェ」


 そう考えたところでライトから声をかけられ、ミーツェは半ば意識を向け返事を返す。


「はい」


「ここは大丈夫だから、ウィンとデフェを呼んできてほしい。

 あと、ワイハントさんに話があるから予定を聞いておいて。頼める?」


「はい。わかりました」


 ライトからの指示を受けたミーツェは軽くお辞儀をすると、メイド服のロングスカートの裾を摘み、浜辺へと向かい走り出した。


 その背中を見送り、ライトはナナカへと視線を向ける。


「奈々華、入ってくれ。少し話そう」


「うん。あ、ちょっと待って仲間が居るんだけど……」


 言いながら彼女は視線を自分が出てきた建物の影へと向けた。


 それを合図に3人の女性がゾロゾロと月明かりの下に現れる。


 服装はバラバラだ。

 1人は軽装の騎士甲冑に身を包み、2人は魔術師のように見えるが着ているローブの色が違い、施されているレリーフも違っている。


 ナナカの人となりはライト自身よく知ってはいるが、彼女たちについては全く知らない。


 正直なところ信用などできない。


 そして、その信用出来ないような者を家に上げたくはない。


「悪いけど、3人には外で待ってもらえるか?」


 これで最低でも1対4になることはなくなった。


 考えたくはないが、もし戦闘になったとしても、手札を一枚持った時点でそれに挑める。


 現在のライトの状況ではその一枚で生きるか死ぬかを決めることになる。


「分かった。ごめんね、みんな。ちょっと待ってて」


 ナナカは悪びれた様子で仲間だと伝えたもの者たちにそう告げた。

 その言葉に素直に従ってくれるようで騎士風の女性が一度頷く。


「ありがとう。じゃあ、中に……」


 その展開にひとまず、安堵するとライトはナナカを家へと招き入れた。


◇◇◇


 ナナカの友人と思われる少年。

 その少年に勧められるままに家の中へと入っていくナナカの背中を見つめる3人の女性。


 そのうちの1人、黒ローブを見に纏った女性がいつもと変わらぬ少し間延びした声で問いかける。


「よかったの〜? 行かせて〜?」


 問われた騎士風の女性は少し顔を険しくさせながらそれに答えた。


「仕方ない、とここは考えて待つべきだろう」


 続いて口を開いたのは白ローブの少女。


「そうですね。下手に動けば勇者様の首がとられるかもしれません。

 あの少年、抜け目ないです」


 会話の内容や話している雰囲気からなんとなく勇者と少年が旧知の仲であることは察せられた。

 だが、少年は勇者を人質に取った。


 数に勝る彼女たちがもし剣を取れば彼は友人であったとしても、勇者の首に刃を向けるだろう。


 安全策を取るのであれば、騎士風の女性が言った通り、素直に待つしかない。


「だが、もし何かがあったとしたら突入するぞ」


 3人を入れず、ナナカを人質にしたということは、言い換えれば戦闘になった際、相手にできないと言うこと。


 家の中にも何かしらの対応策がないと見ていいだろう。


 もしの事があれば強行手段に出るのは可能な手ではある。


「でも、驚いたわね〜」


「ああ、そうだな」


「ええ、彼女の友人と言うことはあの少年も、違う世界の人間」


 ナナカは間違いなく外の世界の人間。

 そして、この世界に召喚された後はずっと行動を共にしていた。


 そのため、自分たちが知らない知り合いがいるのはあり得ない。

 王族や貴族であればまだ不自然ではないが、彼は明らかにそのどちらにも該当しない立ち振る舞いをしている。


 結論、ナナカの友人と言うことはその少年は間違いなく、彼女と同じ世界の人間であったと言うことになる。


「……これから、やり難くなりますね」


「そうね〜、まさか、他にも外の世界の住人がいるなんてね〜」


「ああ。だが、計画に変わりはない。この世界を救うのは“ここにいる”私たちだ」


 魔王を倒し、この世界に平和をもたらす。

 おとぎ話に出てくる勇者になるのだ。


 断じて、家柄などなく、よくわからない外の世界から来た者などではない。


(あんなよく分かりもしない化け物などではない)


 騎士風の女性は静かに奥歯を噛み締めた。

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