再会の夜
目を開けると見慣れた天井が視界に広がった。
背中や頭に受けるのも寝慣れたベッドと枕の感触。
どうやら意識を失ったあと、誰かに家に運ばれたらしい。
ライトはまだ朧げで虚ろな意識でゆっくりと現状に至るまでを思い出す。
タジェル祭。
現在住んでいるガーンズリンドで毎年行われている祭だ。
それに参加、順調にタジェルを倒していた。
だが、そんな中で海から巨大な獣、海の主バハムートが現れる。
それを倒すためにデフェットのゲイ・ボルグを使い、ガラディーンで倒した。
ゆっくりと起き上がりながらライトは少し痛む頭を抑えながら記憶を辿る。
(そのあとは……)
バハムートの一撃が放たれる直前に、ギリギリのところでガラディーン・リヒターで倒したはよかった。
しかし、思いのほかその2つのエネルギーがぶつかり合った力は強く、そのままではマーシャルエンチャントを使っていてもバラバラになる可能性があった。
それをすぐに感じたライトはそれを軽減しようと創造で【リフレクター】を創り、展開。
同時に殴り飛ばされる感覚と強い浮遊感を感じて意識を失った。
そこまでは記憶としてはあるが、そこから先はどうにも曖昧になっている。
たしか、ウスィクと話したはずだ。
それは間違いないはずだが、その内容がいまいち思い出せない。
(ダメだ。頭がグチャグチャになってる)
かなり衝撃的な内容だったのは頭に残っているが、それはなんだっただろうか。
そう自問している時だった。部屋の扉が開かれ、ミーツェが入ってきた。
「やはりお目覚めになられてましたか」
「ミーツェ、か……」
「おそらくバハムートを倒した衝撃でしょうが、沖から浜辺まで吹き飛ばされてきたのです。
それをウィンリィ様が受け止めて、今に至ります」
「そう、か……ウィンにはあとでお礼言わないとな」
仲間のありがたさを痛いほど感じ、感慨深げに呟いたところで、ミーツェが真剣な面持ちで口を開いた。
「ライト様、そこで一つ耳に入れていただきたいことが」
そこでライトは自分を受け止める際にあった出来事、ミーツェへと向けられた攻撃について聞いた。
聞き終えた彼は顔をしかめながら確認を取るように、しかし確信を持って彼女へと問いかける。
「顔はあった?」
「いえ、ありませんでした」
「……また、顔なしの暗殺者、か」
さすがにバハムートを引き連れてきたということはないだろう。
もし、そうであれば最初の混乱に乗じるなり、バハムートにすぐに攻撃を撃たせて住民もろともに殺すことができた。
ライトたち同様に偶然に遭遇、利用できると悟り攻撃の引き金となった魔術弾を放ったのだろう。
「幸運、と言っていいのかはわかりませんが……彼らにとってもバハムートの登場は慮外だったのでしょう」
「だろうな。あまりにもずさんで行き当たりばったりの行動だ」
あまりにも雑な行動だが、それ故に狙いが自分だということ、そのためならば周りも気にしないことがはっきりとわかる。
(このままだと、本当に無関係の人を巻き込みかねないな)
現状、なんとか出来そうな者の力を頼る他ない。
「ミーツェ、タジェル祭の後夜祭はやってる?」
「はい。亡くなった者の追悼や復興の決起として予定通り行われています」
ならば彼も来ているはずだ。
多少疲れは残っているが、幸いなことに怪我もなければ動けないということもない。
「俺も今から行くよ」
「わかりました。お供いたします」
◇◇◇
軽く準備を整え、外に出た瞬間冷たい風に吹かれた。
マフラーとマントがあるため多少マシだが、暗い空に冷たい風が少し暖まっていた体に染みる。
視線を少し動かすと浜辺の方に光が集まっているのが見えた。
そこが後夜祭が行われている場所であることはすぐにわかる。
歩き出そうと足を踏み出したのと同時、ミーツェが声をかけてきた。
「ライト様、マフラーを巻き直します。少しじっとしていただけますか?」
「いやいいよ。自分でするから」
「そう仰らず」
ライトの言葉を強引に振り払い、ミーツェは彼の首にマフラーを巻き直す。
彼女にしてはその強引で珍しい、と思ったところで小さく2人に聞こえる程度で口を開いた。
「何者かが我々を見ています」
「数は?」
「4人です。1つに固まっているようです」
「伏兵はいそう?」
「今のところそのような気配はない、ですね」
彼女の報告にライトは眉をひそめる。
すぐに感じたのは違和感だった。
(4人もいてそれを一ヶ所にまとめて置く?)
少なくとも奇襲においては数の優劣よりも速度と不意を付けるか否かが問題のはず。
確実性を出すにしても一斉に攻めるよりも2人を囮に、2人は不意打ち狙いの方がずっと確実なはずだ。
「如何いたしますか?」
「正直、今戦う体力はない。可能であれば戦闘は避けたい」
(しかし、まずい)
戦闘は論外だ。
相手側は当然ながら自分たちの行動を見ているため、不意打ちは無理だ。
しかも数的不利をひっくり返す手はない。
さらに、ここから浜辺まではそこそこの距離がある。
そこまで1人を抱えて動くのはいくらキャッネ族であれも楽ではないだろう。
かと言って家に戻ったところでウィンリィたちが戻って来るのがいつになるかわからない。
ミーツェに呼びに行ってもらう手を考えたが、戦力分散させるだけだ。
確実にどちらかが集中的に攻撃を受けてしまうことになる。
(戦うのは論外、助けを呼ぶのもほぼ不可能、かろうじて行えそうなのは家に籠るぐらい、か)
しかし、いつまで耐えればいい?
フロースフレイムやフラッシュバンの合図を送ったとしてもすぐに来るわけではない。
その間に数の暴力でこられてはどうしようもない。
(……クソ、俺が万全ならまだやりようはあった!)
悔いるが仕方ない。
ここは今打てる最善の手である籠城戦をする他ないだろう。
ライトはそう決め、口を開きかけたところでミーツェが彼を遮るように腕を向けて叫ぶ。
「ライト様! 下がってください」
「ッ!?」
短剣を逆手で構えるミーツェ。
耳を後ろに倒し、尻尾の毛を逆立て警戒を表す。
視線を向けると建物の陰からゆっくりと人影が歩き現れた。
その人物を見てライトは目を見開いた。
「な……ん、で」
そして、そこでようやく思い出した。
気を失っている間にウスィクと話した内容を。
『君の元の世界の友人ーー』
まさか、と思った。
だが、現実がそれを否定した。
「……光ちゃん」
自分をその名で呼ぶ者はたった1人しかいない。
『ーー竹宮奈々華が転移した』
「奈々華?」
ライトたちの前に現れたのは転生する前によく話していた人物、竹宮奈々華その人だった。




