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神のお告げ

 ライトが閉じていた目を開くと、視界に白い景色が広がった。


 少し驚いたが、これを見るのは三度目。

 死んですぐと転生してしばらく経った頃、そして今。


「やぁ、少年。君の視点では久々、かな?」


 予想した者を呼ぼうとしたところでライトへと声がかけられた。


 その声の方へと視線を移すと青い騎士甲冑を全身に纏った男性がいた。


「やっぱりお前か」


「一応神様なんだけど、それをお前呼びか……“他の神には”するんじゃないよ?」


 ウスィクは良いも悪いもライトの思う神様らしい。


 こちらに用があっていくら呼んでも反応せず、かと思えば、勝手に呼び出し話すだけ話して放り投げる。


 ウスィクもそれに沿っている神様のように思える。

 ここに呼び出した、と言うことはなにがしかの話があるからに他ならない。


「それで、何か用が?」


「んー、もう少し雑談をしたかったんだけど……」


「神様を楽しませるような話なんてないよ」


「それは君の主観さ。

 存外、人の話というのは面白いものだよ。特に失敗談なんて腹を抱えて笑えるよ」


 あっはっはっと一切隠す気も無さげにウスィクはそれを思い出しているのか笑い出した。


「神様の癖に性格悪っ……」


「性格の良い神様なんているわけないだろ?

 神殿なんかで女神抱く最高神とか、嫉妬で怪物に変えたり、無理難題押し付ける神もいるんだぞ?」


 この話はこのまま続けてはいけないような気がする。


 ライトは話を切り替えるように咳払いを一つして、口を開いた。


「本当に何の用なんだ?

 理由もなく雑談したいから呼んだわけではないんだろ?」


 その問いにウスィクは言い淀んだ。

 何かしら言いにくいのか、ためらうように呻いている。


「あー、うーん。単刀直入に言わせてもらうよ?」


 そんな覚悟を問うような聞き方をされてしまえばライトも自ずと肩に力が入る。

 緊張の面持ちを浮かべ、その言葉を聞き逃すまいと耳をすませた。


「君の元の世界の友人、竹宮奈々華が今君がいる世界に転移した」


「……は?」


 だが、ウスィクから放たれたその言葉はライトの予想を大幅に上回るものだった。


 あまりにも突拍子がなく、彼の口から出てくるとは思わなかった名前が出たことにライトは疑問しか浮かばなかった。


「ど、どういうことだ!あいつは!あいつは関係ない!」


 疑問の次は憤りが浮かんだ。

 それをすぐさまウスィクへとぶつけた。


「すまない。これは私の責任だ」


 ウスィクが言うにはこの世界はある点を境に複数の世界に分岐しているらしい。

 いわゆる平行世界、パラレルワールドの考え方だ。


 本来ならば“どのような手段を用いても”その世界以外には繋がりを持つことはない。

 これはリンゴが重力に従って下に落ちるような絶対の法則だ。


 しかし、ライトが転生したことでその法則は崩れた。

 脆く、細い道が世界同士で繋がってしまったのだ。


 ライトが転生した世界の転移魔術は別の場所から別の場所へと移動するためのもの。


 だが、世界の歪みがうまい具合に噛み合ってしまい、場所と場所ではなく、世界と世界を繋いでしまった。


 結果、本来ならば不可能な世界間の移動が一時的に可能になってしまい、そこを通って奈々華はライトが転生した世界へと転移してしまった。


「まさか、転生させたことで繋がりが生まれるとは……予想外だったよ」


「お前!お前は!!神様なんだろ!?

 なら、なんとかしろよ!」


 明確な怒りを表し、ライトはウスィクへと詰め寄り叫んだ。

 それはどこか縋るような声だったが冷酷に、或いは、神らしく無慈悲に言葉を返す。


「無茶を言わないでくれ……神“は”万能じゃない。

 世界間の移動含め、世界への介入なんてそもそものタブーだ」


 そもそも、神が“直接”世界に対して何かしらの介入をするのはタブー化されている。


 転移もイレギュラーな行為ではあるが、その世界に住む者が行ったことであるため、それに神が介入することはできない。


 転生、というのは例外的な処置で本来ならありえない。


 まだ理性は残っているようでライトは大きく息を吐いて、ウスィクへと質問する。


「あいつは、生きているのか?」


「ああ、詳しい場所は教えられないが、生きているよ」


「……なら、良い。生きているなら」


「その点は安心してくれ。

 君が気にしているようなことはないよ」


 ライトはそれに対しては何も言わなかった。

 喜ぶどころか安堵することすらなかった。


 それについてウスィクは追求する気はないらしく言葉を続ける。


「今回、君を呼び出したのはそれを伝えるためだ。すまないね」


「別に良いさ……。

 なら、話はそれで終わりか?」


「ああ、そうだよ」


 ウスィクがそう答えた瞬間、ライトの意識が遠のき始めた。

 うすら靄がかかっていくようにゆっくりと意識が落ちていく。


 おそらく次に目が覚める頃には元の世界へと戻っていることだろう。


 奈々華についてどうするかは次に目を覚ましてから考えよう。


 ライトはそう思いながらその意識が落ちるのを加速させるように目を閉じた。


◇◇◇


 ライトがすっと姿を消した瞬間、ウスィクの背中から声がかけられる。


 声をかけたのは彼の監視係であるガブリエルだ。


「あなたも、鬼畜な神ですね」


「はて?なんのことやら……?

 私は彼に教えた。彼がそのあとどう動くかは彼自身のことさ」


「あなたは今の彼女がどのような状態かを一切話していません」


「話したよ?生きている……とね?」


 ヘラヘラと揶揄うかのように、そしてその反応を楽しむかのようにウスィクへとガブリエルは言葉を返す。


「彼女が今置かれている状況、ですよ」


「聞かれなかったからね〜」


「そんな態度ではいつか足をすくわれますよ?」


「ふむ。肝には命じておくよ」


 ウスィクはガブリエルの忠告にそう答えると続けて答える。


「私は全てを変える。そのためならなんでも利用するさ……。

 人間であれ、天使であれ、神であれ……」


 彼は振り向くとその手をガブリエルへと差し出し、兜の下で微笑みながら––––


「君は、どうなんだい?」


 ––––神のように、そう告げた。

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