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タジェル祭・光明

「主人殿!」


 海岸に戻ってきたライトを声とともに出迎えたのはデフェット。

 あの攻撃を近くで見たらしく、焦ったような表情を浮かべていた。


 ひとまず、デフェットと直接目を合わせられたことに安心し、それに返す。


「ミーツェから話は聞いてる。今は?」


「静かにはなっている。だが、次にどう動くかは予想ができん」


 バハムートは再び近くのタジェルを呑み込むことに意識を持っていかれているため、攻撃が向かってくることはない。


「周りにいた者たちの話を聞いていたが、対抗する手だッ!?」


 デフェットが言い切る前に地面がズシンと揺れた。


 目を見開き、その方向へと顔を向ける。


 どうやらバハムートはタジェルを呑み終えたらしく、ゆっくりと動き出した。


 向かう先はライトたちのいるガーンズリンド。


 誰かが放った一撃はたしかにバハムートの逆鱗に触れてしまったようだ。


 ゆっくりとした動作だが、確実にここに辿り着くだろう。

 被害のことを考えるなら、沖にいる今、倒さなければならない。


(どうする……この状況)


 頭を回す。思考する。


 ガラディーンを使うのは確定事項として、それをどう使えばいい?


 ガラディーン・リヒターで倒す。


(ダメだ)


 ライトは首を振った。


 ここは海が近い。放った衝撃でどのような被害が出るかもわからない。

 しかも、最後の足掻きでさっきのような攻撃を出されればお終いだ。


 では、接近してゼロ距離で叩き込む。


(どうやって近付けばいい!)


 浜辺からバハムートまではかなりの距離がある。

 ハイジャンプでも届かないだろう。


 すぐに浮かんだのは“水の上を走る”案。


 しかし、距離を詰めるには、身体強化をしても短くない時間がかかるのは確実。

 そんな時間をかけていては、攻撃する前にバハムートが一撃を放つだろう。


 そもそも、それでは攻撃に回す力がなくなる。


 次に浮かんだのは船で近づく案。


 だが、すぐに否定する。

 攻撃するための力は温存できるだろうが、近づくまでの時間はさらにかかる。

 しかも、他の者まで巻き込んでしまう。


(クソ!時間が足りない!)


 何をやるにしても時間が足りない。


 ならば、時間を稼ぐ方法。


 そんなものなどない、と答えがすぐに出る。

 あんな化け物を相手に時間を稼ぐなどできるわけがない。


(速攻で近づいて、一撃で倒しきれる強力な攻撃だ……)


 しかし、ライトにはそんな上手い案など浮かばない。


 焦りで顔を渋くさせ、奥歯を噛み締めている時だった。


「ライト!」


 自分を呼ぶ声にハッとしてその方向を向く。


 やはりミーツェの言葉を振り切ったのかウィンリィが来ていた。その後ろにはどこか申し訳なさそうな顔を浮かべたミーツェもいる。


 嬉しいような、逃げて欲しかったような複雑な心境を覚えたライトだが、それをすぐに隅に追いやりミーツェに問いかける。


「ウィン、ミーツェ。避難は?」


「ワイハント様が落ち着かせました。あとはそのまま商会の者たちに任せています」


「そういうこった。今は戦える奴がどんどん戻ってくる。

 まぁ、あんなデカブツ相手に戦えるかは怪しいけど」


「いや、知識を集められるだけマシだ」


 そう言いライトは先ほどまで考えていた案、その問題点を口にした。


 それを聞いた三人は顔を渋くさせ、確認するように呟く。


「速攻で近づいて」


「一撃で倒しきれる」


「強力な攻撃、か……」


 ミーツェ、デフェット、ウィンリィの順だ。


 今ある戦力、打てる手で出せる最善の結果を考える。


「最悪の場合は街の被害を無視してでも倒すことになりますね」


「うん。でも、それは最後の最後、本当に手がない時だ」


「だが、手をこまねいていれば主人殿が死ぬ。

 そうなっては今度こそ、何も手が打てなくなる」


 全てを守るにはあと一つピースが足りない。


 何か一つを取れば何か一つを切り捨てなければならない。


(こういう時にあともう一つ、戦えるロストがあれば……)


 創造をもっと自由に扱えていれば、とライトが悔いる中で白銀と黒鉄が冷静に言葉をかける。


『無い物ねだりはやめなさい』


『そう、今はできることは全力で考えることだ』


(二人には何か案が?)


『ないわね。あんたも気づいている通り、あと一つピースがない』


『ああ、ここからリヒターを放って倒す。

 それが最善策だよ』


 ライトの問いに二人は即答した。

 その声は少し冷たいがおそらく気のせいではないだろう。


(やはり手はそれしかないのか)


 ここには自分だけではない。シリアルキラーの時とは違う。


 最初から頼っている。


 一人ではない、一人で立ち向かっているのではない。

 ならば、何かあるはずだ。


(何か……!)


 そこでウィンリィがすっと手を挙げた。


 三人が顔を向けたところで彼女は口を開く。


「一つ案が浮かんだ」


「本当か!」


 食い気味に言ったライトに不安になったのか、ウィンリィは視線を少しそらし、言い繕うように言葉を作る。


「い、いや!でも、本当にそれができるかはわからんぞ?」


「ウィン殿、とにかく言ってみてくれ。今は時間が惜しい」


 少しの間を置いてウィンリィはその浮かんだ案を口にした。


 彼女が全てを言い終えたが、彼らは押し黙る。


「い、いけそうか?」


「……俺は、たぶんいける。怖いけど」


「私は……やったことがないから、わからん。だが、試してみよう」


「そうですね、パブロット商会に物自体はありますから、手配出来るかも知れません……」


 不安げなウィンリィへとライト、デフェット、ミーツェがそれぞれの意見を口にした。


 それに一瞬だが、安心したように息を吐くとすぐに真剣なものへと戻し、最終確認を取る。


「本当にいいのか?それで」


「やるしかない」


「同じく。それに、他の案もない」


「はい。無茶ではありますが、最善ではあります」


 その問いに無理と答える者はいない。

 全員がウィンリィに頷き、肯定を表している。


「よし!なら、始めよう!!」


 わずかに見えた光明。それへと彼らは足を向けた。

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