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和やかな食卓?

 デフェットとミーツェが少し早めの昼食の準備をしながら信頼を深めていたちょうどその頃。


 ライトはリビングにあった椅子に座っていた。

 円テーブルを挟んだ目の前の椅子にはウィンリィが座っている。


 そんな彼女は横目でキッチンの方を見ながら、ミーツェたちに悟られないようにするためか小声で声をかけた。


「……なぁ、お前、何したんだ?」


「何もしてない、と思う」


「ここ、なんかあるんじゃないか?」


「何かって……まさか」


「だってよく考えてみろよ。

 いくら使ってないからって出会って数日の、見ず知らずの、根無し草の、若い男に家渡すか?」


 庭もあるし家具も揃っている。広さも十分なほどある。


 商店街や港、住宅街から少し離れたところにあるという欠点はあるが逆にいうならそこしか欠点がない。


 たしかにそんなものを易々と手放すとは考えにくい。


 何かしら裏がある。そう考えるのになんら不自然はない。


 だが、おそらくパブロットはそんなものを渡してはいないとライトは思っていた。


「あの人は先行投資って言ってた……。

 そんな人が信頼を損なうようなことをするとは思えない」


「それは、そうかもしれんが……

 流石に上手くいきすぎててなんか悪いことでも起こりそうに思えてくるな」


 ここまで恵まれてると揺り戻しで何か悪いことが起こりそうな気がする。

 それはライトも思っていた。


 良いことも悪いことも等しく長く続くない。

 良いことがあれば悪いことが起き、その逆もまたある。


 それぞれが少し後に起こるかもしれない悪いことに頭を抱えていると、ミーツェとデフェットがそれぞれリビングへと入ってきた。


「食事ができました」


「二人とも食事にしよう」


 食事の香りに誘われるようにライトとウィンリィは二人の方を向いた。


 そのまま無言で見つめられたデフェットとミーツェは首を傾げる。


「どうかしたか?」


「どうかいたしましたか?」


「「いや……なんでも」」


 ひとまず浮かんだことを頭の隅に追いやり、ミーツェが作った食事の味を楽しむ事にした。


◇◇◇


 ミーツェとデフェットが作ったものは魚のムニエル、葉物野菜のサラダとパン、イモのスープ。


 それぞれがメインのムニエルを食べたところで声を漏らす。


「美味い。ウィンとデフェが作ったやつとは大違いだ」


「美味しい。ライトとデフェの作ったやつとは大違いだ」


「美味しい。二人が作ったものとは大違いだ」


 ライト、ウィンリィ、デフェットのそれぞれの口からそれが漏れた後、しばらくの沈黙が訪れた。


 そして、その三人が同時にその事に気がつき、首をかしげる。


「「「ん?」」」


 それぞれがそれぞれの顔をジト目で見る中、ミーツェが小さく笑みを浮かべた。


「ふふっ、ありがとうございます。

 にしても、本当によろしかったのですか?」


 ライトは彼女たちが言った言葉について追及しようとしたが、ひとまず置いて聞き返す。


「なにが?」


「私が……従者が食卓を共にする事です」


 通常、従者とその主人が食卓を共にすることはない。

 時々共に食事を取ることもあるがそちらの方が異例だ。


 だが、ライトはあっさりと共に食事を取るように言った。

 そして、それにウィンリィも何か言うどころかさも当然のようにその誘いに同調していた。


「良いんだよ。わざわざ別れて食べる必要性なんてないし。こっちの方が楽しいだろ?」


 御大層な理由などない。


 同じものでもなんとなく一人で食べるよりもずっと楽しく、美味しいと感じるから。


 もしかしたらそれは転生前は一人で食事をとることが多かったライトの独特の感覚なのかもしれない。


 それ以外の特別な理由などない。


「そうですか」


「嫌だった、かな?」


「いえ、不思議な感覚ではありますが。嫌ではありません」


「なら、良かった」


 ライトが安心したようにムニエルを口に運んだところでデフェットが横目でミーツェを見ながら微笑んだ。


「変わっているだろう?」


「ええ、かなり」


 それに答えながらミーツェも微笑んだ。


 変わっている。

 そう言われて少しムッとしたが、ミーツェとデフェットが楽しそうに会話をしているのを見てライトは安心していた。


 会話を交わす二人の間に不自然さはない。

 料理をしている間にでも親睦を深めていたのだろう。


 ならば彼女たちについて心配することはない。


(あとはウィンのこと、か……)


 彼女の過去に踏み込むと決めた。

 例え、それのせいで仲違いをすることになっても、聞きたい。


 それはウィンリィのあの顔を見たくないと思ったから。

 あの悲しげな顔をもう見たくない。そう思ったから。


「どうかしたか? ライト」


「え?」


「いや、なんか少しボーッとしてるみたいだったからさ」


 ウィンリィはいつものように自分に話しかけている。かけてくれている。

 もはや慣れてしまった距離、調子、声音で接している。


 今のこの関係、距離感が心地良いし楽だ。


 踏み込まなければこの関係が良くも悪くも変わることはない。

 だが、それでもと決めた。


 パブロットに相談したとはいえ最終的に決めたのは自分。

 だからこそ動かなかったことで後悔はしたくない。


(夜にでも、話そう……俺のことも、気持ちも)


 今はまだこの最後になるかもしれないこの時を楽しもう。

 そう決めたライトは首を横に振り、答える。


「いや、なんでもない。美味しいなって思っただけだよ」


「そんなに褒められても何も出せませんよ」


 軽く返したミーツェは何か思い付いたのか続けてライトに言葉を向けた。


「夕食の食材を買いたいのですが、デフェットを借りてもよろしいでしょうか?」


「ああ、良いよ」


「ちなみに今日の夕食は何にする予定なんだ?」


 ウィンリィの問いにミーツェは答えようとしたが喉まで出かけていたであろう言葉を飲み込む。


 そして、微笑みながら内緒とでも言うように人差し指を立て唇に付けた。


「その時までのお楽しみ、ということで……その方が驚きもありましょう?」


「……それもそうだな。なら楽しみに待っていることにするよ」


「ええ、そうしていただけると幸いです。

 今日はめでたい日ですし、少し豪勢なものをご用意しましょう」


 和やかなムードで進む会話。しかし、ライトの心情はその雰囲気と同じではなかった。


「ああ、本当に楽しみだよ」


 だが、それを表に出さないようにライトは微笑んだ。

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