第三章 本物の敵を探せ
悠紀たちがドラゴンを倒した翌日の夜。
別の村で、またドラゴンが出現したとの知らせが耳に入った。
「なんだって? ぼくたちは確かにドラゴンを倒したのに」悠紀がいった。
「ちょっと偵察に行ってみましょうか」とニックが提案する。
「昨日の今日ですから、悠紀さんも疲れているでしょう。いまドラゴンと戦うのは危険です。ドラゴンに見つからないよう、遠くから見に行きましょう」
「そうだな」と悠紀は賛成した。
そこで、悠紀、美紀子、ニックの三人は、ドラゴンが現われたという村に行ってみた。
「実は策があるんです」とニックがいう。
「策ってどんな?」と悠紀が尋ねる。
「私がここで『魔力感知』の魔法をかけてみます。もし近くに魔術師がいたとしたら、その人が『召喚魔法』を使ってドラゴンを召喚しているのかもしれません」とニックが応える。
悠紀がいう。「なるほど、『召喚魔法』か、考えてもみなかった。じゃあ、ニック、お願いします」
ニックが「魔力感知」の呪文を唱える。
「わかりました。あの崖の上に魔術師がいます。きっと『召喚魔法』を使っているのでしょう」
悠紀たちはドラゴンに気づかれないようにして、そっと崖の方へ向かう。
魔術師は精神を集中しているせいか、悠紀たちが近づくのにぎりぎりまで気がつかない。
「おい、ドラゴンを召喚しているのはおまえだな」悠紀が小さな声で呼びかける。
魔術師は、はっと振り向き、「どうしてそれがわかった」という。
「『魔力感知』の魔法で調べさせてもらったよ。おまえの名前はなんという」
「私はブラッドだ。秘密を知られたからには、生きて返すわけにはいかない」と魔術師が名乗る。
ニックが「魔法防御」の呪文を唱える。
しかし、ブラッドの放った炎の矢は、ニックの体を突き抜けてしまう。
「ぐっ」ニックが倒れ込む。
「ニック、だいじょうぶか」悠紀がかけよる。ニックは息もたえだえだ。
悠紀が虹色の砂時計を使う。
時間が逆戻りする。
「魔法防御」の呪文を唱えるニック。
「美紀子、『魔力強化』の呪文でニックをサポートしてくれ」と悠紀がいう。
「わかったわ」美紀子はニックに向かって「魔力強化」の呪文を唱える。
再び、ブラッドがニックに向けて炎の矢を放つ。
今度は「魔法防御」の力で矢をはねかえすことができた。
「ふーう、よかった」悠紀は安堵する。
「悠紀さん、美紀子さん、ありがとうございました」ニックが礼をいう。
「いや、そんなことより、あの魔術師を倒す方法はないのか」
するとブラッドが何やら呪文を唱える。
「なにをしているんだ」悠紀が叫ぶ。
「ドラゴンを召喚しているのさ」ブラッドが薄笑いを浮かべながら応える。
悠紀たちの前に、ドラゴンが現われる。
今度のドラゴンは、首がひとつだった。
「水の壁!」とっさにニックが呪文を唱える。
ドラゴンの吐き出す炎が、悠紀たちを襲う。しかし、ニックが出現させた「水の壁
」にはばまれ、悠紀たちはやけどをせずに済んだ。
「あぶないところだった」悠紀が安堵する。
「こうなったらこちらもドラゴンを召喚しましょう」とニックがいう。
「えっ? ニック、きみは召喚魔法も使えるのかい」と悠紀が尋ねる。
「ドラゴンは無理かもしれませんが、小ドラゴン――タイニードラゴン――なら召喚できるかもしれません」とニックが応える。
「じゃあ、やってみてくれ」
「はい、わかりました」ニックが精神集中を始める。
すると、体長五メートルぐらいのタイニードラゴンが現われる。
「ドラゴンどうし戦わせましょう。すこしでも時間をかせぎ、ブラッドを倒しましょう」とニックがいう。
「そうだな」と悠紀も賛成する。
お互いのドラゴンが首にかみつき、攻撃をしている。猛烈な砂煙があがる。
「ぼくは剣でドラゴンと戦う。美紀子、ニック、きみたちでブラッドを倒す方法を考えてくれ」と悠紀がいい、「やあーっ」というかけ声と共に、ドラゴンのほうへ向かっていく。
美紀子が「『光の矢』を使ってみるわ」といい、呪文を唱え始める。
空中から光の矢が現われ、ブラッドのほうに向かって飛んでいく。
しかし、ブラッドも「魔法防御」の呪文を唱えており、光の矢は撥ねかえされてしまう。
「このままではらちがあきません。『沈黙』の呪文を使ってブラッドが魔法を唱えられないようにしましょう」とニックがいう。
「『沈黙』の呪文には高い精神レベルが必要なのでは?」と美紀子が尋ねる。
「はい、できるだけやってみます」とニックが応え、「沈黙」の呪文をブラッドに対して
唱え始める。
ニックの「沈黙」が発動し、ブラッドは魔法を唱えることができないように見える。
ニックが「光の矢」の呪文を唱えて、ブラッドに向けて矢を放つ。
ブラッドは「魔力反転」の呪文を唱える。「光の矢」がニックめがけて戻ってくる。
「な、なに? 沈黙の呪文は効かなかったのか」とニックが驚く。
ブラッドは「は、は、沈黙の呪文が効いたふりをしていただけだよ。お気の毒にな」という。
光の矢がニックに刺さる直前――美紀子が「虹色の砂時計」で時間を逆転させる。
ニックは岩陰に移動して、光の矢の直撃を避ける。
「虹色の砂時計」が音をたてて割れる。
「どうしたのかしら」美紀子が驚く。
ドラゴンとの戦いから抜け出してきた悠紀が、「砂時計を使ったのか」と尋ねる。
美紀子がそうだと応えると、砂時計は一定回数使うと壊れてなくなってしまうことを悠紀が説明する。
「そうだったの……」と美紀子が力なくつぶやく。
「それで、ブラッドのほうはどうだ」と悠紀が訊く。
「とても強い魔術師で、私たちの力では倒せそうにないわ」と美紀子が首を横に振る。
「そんな弱気になるな。なにか方法があるはず」悠紀がいう。
ニックが悠紀に「その『伝説の剣』を貸していただけませんか」という。
「もちろんいいが、どうするんだ」
「『伝説の剣』に魔力をかけて、私が剣もろともブラッドに突撃します」
「そんなことをしたらニックの身が危ないんじゃないのか」と悠紀が尋ねる。
「しかし、今考えられるのはこの方法しかありません。美紀子さん、『魔力強化』の呪文を私にかけてください」
「わかったわ」美紀子が呪文を唱える。
ニックは伝説の剣を受け取り、呪文を唱え始める。
そして剣もろともブラッドに体当たりする。
突然爆発が起こる。「きゃあっ!」美紀子が思わず身をすくめる。悠紀は美紀子をかばうようにおおいかぶさる。
白煙が消えて、あたりが見えるようになると、ニックとブラッドが共に倒れているのが
わかる。
「ニック、ニック、しっかりしろ」
悠紀はニックを抱き上げる。
しかしニックの目は二度と開くことがなかった。
「ニックー」――悠紀の叫ぶ声が空にひびく。
気がつくと、朝だった。
悠紀は、腕時計で日付を確認した。
砂時計を買った日の、翌日だ。
あわてて「夢シート」を探す。しかしシートは忽然と消えていた。
悠紀はひとりごちた。「ドラゴンとの戦い、あれは全部夢だったのか……」
そして午前十時。悠紀は美紀子にメールする。
「美紀子、昨夜ドラゴンと戦う夢を見なかったかい?」
美紀子から返信が来る。「いいえ、全然見なかったわ。どうして?」
悠紀は虹色の砂時計を買ったこと、夢の中でドラゴンと戦ったことを書いて送った。
美紀子は半信半疑で、「そんなことってあるのかしら」と応えた。
しかし、肝心の虹色の砂時計がない以上、証明することはできなかった。
「そうだ、虹色の砂時計を買った雑貨店に行ってみよう」悠紀は思いついた。
「あのー、昨日このお店で『虹色の砂時計』を買った者なんですが……」
店員が応える。「ああ、あれは最後のひとつだったんです。よい夢が楽しめましたか」
「じゃあ、夢で見たことは本当だったんですね」
「さあ、お客さま、お客さまがどのような夢をみたのかまでは、こちらではわかりかねます」と店員が困惑した顔でいう。
「それはそうですよね……」と悠紀が応える。
「でも、リアルな夢だったなあ。もしかして異世界というものがこの世の中と並行して存在して、なんらかの力によって異世界と行き来できるのかなあ。また冒険してみたいな。
そうだ、冒険に備えて、剣の稽古をしておこう」悠紀は夏休みの剣道部の練習にでかける日取りを確認した。「今度はもっと強くなるぞ」そういって悠紀は青空を見上げた。
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