嵐の前の……
中央校舎掲示板。そこには生徒会政争の結果が次々と貼られていく。そんな中でもひときわ生徒の目を引いている結果がある。
『暫定生徒会十一番vs暫定生徒会七番……勝利、七番。』
「おいおい、口先だけじゃなかったな……」
「一年生が主体?……勢いがあるわけだな」
「このまま今年は獲るんじゃないか?」
所信表明演説において、目立つマニフェストを掲げた七番生徒会は校内では生徒会政争でのダークホース的存在と注目されている。
しかし、注目というのは、良い意味だけではない。
掲示板を見るメガネをかけた生徒。切れ長のキツネのような目は生徒会政争の結果を注意深く見つめている。赤い組章が指し示す学年は二年生。そして何より……。
「そろそろ潰しておくかな……」
右腕には『会長』と書かれた腕章を巻いていた。
暫定生徒会No.04会長、最上光太郎。彼は次のターゲットを見つけ、ニヤリと笑った。
「潰せぇ!」
ざわめく室内。
暫定生徒会室七番、通称「七番仮室」では、会長の木下、福島、糟屋といった男たちの叫び声が響いていた。虫が出たらしい。
「うるさいな……」
その横では、副会長の石田、会計の大谷、書記の片桐、そして新たに広報となった平野。その他に脇坂、加藤兄妹がテーブルを囲み、今後について話し合っていた。
「あのバカたちは放っておくとして、何か意見はないか?」
今、決めておくべきなのは、生徒会政争の進め方だ。どこを先に相対するかは重要となる。
「私は政治的なことは良く分からないけど……」
そう前置きをして、脇坂が言った。
「他が潰し合うのを待っていたらダメなの?」
「確かにその方が効率的じゃん!」
加藤妹、清奈が同調する。
……こいつはホントにノりやすいな!
詐欺とか大丈夫か……?
隣では加藤兄、海斗が同じような顔をして頭を抱えていた。
……あいつも大変だな。
「効率的ではある。だけど、その時に問題なのは支持率だ」
「「支持率?」」
生徒会対立制度は無論、ただただ対決させていた訳ではない。
月末にアンケート用紙を配り、どの暫定生徒会を支持しているかを集計し、支持率を出している。
この点については大谷が詳しい。
「支持率が高いと、有利になることは多いわ。例えば……」
生徒会から勝ち上がった新生徒会がその権限を受け継ぐのは10月。
それまでに暫定生徒会内の政争が終わっていなかった場合。
その時は、全校生徒による決選投票となる。
「得票数を競う場になったら、もはやただの人気投票。一年生が主体の私たちでは敵わないわね」
「……といっても、今の支持アンケートはお飾りだぜ?」
背後から響く声。会長だ。
「オマエらはまだわかんねぇだろうけど、月末の支持アンケートをマジメに書いているヤツなんていねぇよ?」
椅子に座り、菓子を手に取りながら続ける。
「だって、別にそれで決まる訳じゃねぇじゃん?。誰に入れても一緒。だったら……同じクラスのヤツに、とかな」
パリッ、とせんべいを割る音が室内に響く。
「……だ、だからと言って何もしなくて良いワケじゃねぇぞ!だよな?石田!」
雰囲気を察したのか、慌て出す会長。ここでバトンが強引に渡される。
「……分かってる。良いか? 俺たちは知名度が低い。このまま何もしなければ、所信表明演説で騒いだだけの一発屋だ」
ただの、口先だけの生徒会だ。だから……。
「だから、俺たちは攻めるぞ。……このまま黙っていたって喰われるだけだしな」
全員の意思を、意志を問う。答えはその表情で返ってきた。
「……良い返事、じゃねぇか」
会長がニヤリと笑い、話し合いを再開させるように促した。
「で、どこを攻めるかだが……」
「失礼するよ」
「……え?」
音も無く扉が開き、ハッキリとした声が響く。
人の前に立ち慣れている人の声だ。
「暫定生徒会四番、生徒会会長の最上光太郎さ」
和やかな室内に一転して、緊張が走る。福島のような武闘派たちは既に身構え始めている。
「あぁ、構えなくても良いよ? ……って言っても信じられないかな」
やれやれ、と最上は大袈裟にリアクションを取る。
「……今日はアポを取りに来ただけだから、さ」
彼はその切れ長の目を三日月のようにして笑い、放った。
「明日の放課後、ボクたちと生徒会政争をしよう」
その唐突な宣戦布告は、俺たちにさらなる緊張を与えた。
 




