決着~vs暫定生徒会十一番~
西校舎、七番仮室。暫定生徒会十一番との交渉は佳境に差し掛かっていた。
「良いですねぇ!サッカーにしましょうか?」
石田くんが笑いながら話す。
対する十一番会長は悔しげにうつ向いている。
この状況は……?
「ちょっと!石田のヤツ、どうしちゃったの?そんなにサッカー大好きなの?」
「あー、大丈夫だって! アイツは交渉の時にバカになるっていう性質があるからな!」
「年中バカな会長には言われたくないですけどねぇ……!」
……聞こえていたらしい。少しボリュームを落として話し始める。
「……石田は小細工を見破ったんだよ」
「兄貴、わかったの?」
加藤くんが語り始める。
「あっちの有利な対決方法は……本当はサッカーじゃない」
「いやー。正直言って、まんまと騙されるトコでした。やっぱ先輩は一味違いますね!」
実際、俺はサッカーを却下するつもりだった。
だけど、その時にふと思い出したのだ。
「十一番会長、その手の動きってボールの握りですよね?」
「十一番が狙った対決方法は野球だったってこと?」
「そう。サッカーは囮だ」
つまり、こう言うことだ。
まず、最初に「サッカー」を対決方法へ挙げる。
しかし、人数の問題上、私たちは断ると予測できる。
ならば次にこう言えば良い。「じゃあ、野球だったらちょうど良いんじゃないか?」と。
そこまでやったら、後は思いのままだ。
「考えたものね……」
「それでは、お互いに納得がいった所で会議を終了しましょうか」
手を差し出す。こちらの意図に向こうも気づき、こちらの手を掴む。
握手。交渉成立である。
勝利、というにはまだ早い。
しかし、相手の土俵で闘うことは回避できた。交渉役としてはまずまずの結果だろう。
「ちっくしょう……!どうせ木下のトコだからテキトーにやってると思ってたのによぉ……」
「残念だったなぁ、鈴木。俺はバカだけどな、俺の仲間は優秀なんだぜ?」
それってどうなんだろうな……。誇れるのか?
「くそ!終わらねぇぞ……最後まで足掻く!三日後、6対6のサッカー対決、覚悟しとけよ?」
「三日後な。おっし、任せとけ!」
そんな声を聞きながら、俺は別のことを考えていた。握手の時に気付いた、ガチガチに固くなったマメの跡。握り返す手の力強さ。
先輩にはまだまだ勝てないと確信した。
「油断、なんて出来るわけ無いな」
こちらは胸を借りる立場、未熟な立場。このことを胸に刻まないと……。
「……いつか足元を掬われる」
開いていた手のひらをグッと握る。
歓喜に湧く室内を見ながら、その責任の重さを改めて実感する。頭がズキリと痛み、重力が増えたかのような錯覚を得た。
三日後。サッカー対決。
特筆すべき所は何もない、退屈な試合だ。
ちなみにスタメンは、会長、福島、加藤兄、加藤妹、糟屋、平野の六人。……うん。どうでもいいな。
「と言うか、自分で参加してないからつまらないんでしょ?」
「……子供か」
大谷と片桐の両方から責められる……的を突いてるから何も言えないんだよな……。
「で、でも!私もちょっと石田くんの気持ちわかるよ!何かこう……ゴメン」
「脇坂。どうせフォローするなら最後まで貫いてくれ。……余計悲しくなるだろ?」
いや、そもそもそこまで出たかったってワケでも無いし。運動は苦手だし。けれど、ただ見ているだけというのが嫌なのだ。
「あ、そうだ。……片桐?」
「……何だよ」
そう言う片桐も少し不満そうだ。……子供か。
「お前に『書記』を任せたいんだが」
「へぇ……って、え、書記!?」
黙って試合を見ていた片桐が騒ぎだす。……あ、今のタイミングじゃなかったか?
「いや、僕で良いのか?」
「……あぁ、頼む」
むしろお前みたいな真面目なヤツにしか出来ないんだよ。……なんて言葉は言わない。いや、言えない。どうにも俺が言うと、嘘っぽくなるらしい。
「「おぉぉぉ!!」」
歓声が上がる。相手のシュートが決まり、点が入った。
「……石田、これで負けたら僕たちはどうなる?」
「解散、だな」
フィールドの真ん中で話し合っているのが見える。スコアは同点。残り時間はロスタイム三分。
「……冷静に考えてさ、サッカーで生徒会を決めるってどうなんだ?」
「……俺に言うなよ」
生徒会対立制度の弊害だな。多分、学生らしい対決が思い付かなかったんだろう。
「行くぞぉ!」
福島が叫び、ボールを蹴り上げる。キーパーを含めた全員が、パスによって前線へ上がり、チャンスをうかがう。
「パスくれ!」
糟屋の声に応じて、加藤兄がパスを出そうとする。だが……。
「え?アレってキツいんじゃないの?」
脇坂が不安そうに声を上げる。
糟屋の声に反応したのは味方だけではない。パスコースを封じ込める相手チーム。
「これは……。死ぬ気で一点もぎ取れよ!」
別の競技で仕切り直し、なんてことになったら一大事だ。
加藤兄は焦らず、落ち着いたまま、糟屋とは違った所にパスを出した。瞬間、そこからボールは軌道を変え、糟屋へと飛んでいった。
「ダイレクトぉ!」
糟屋の一蹴りはゴールネットを揺らす。それと共に鳴り響くホイッスル。
俺たちの勝利だ。
「「よっしゃぁぁぁ!」」
フィールド内で叫ぶ糟屋たちを横目に、考える。
「今のゴールは……」
遠目からは分かりにくかったが、平野のファインプレーだ。
加藤兄からのパスを、さらに糟屋にパス。
中継としてマークを避けたのだ。
と、ここであることにひらめいた。
「適任がいた……!」
今回、改めて感じた情報の重要性。情報収集役『広報』が必要だと思っていたが……。
「平野に任せてみようかな」
彼女なら隠密活動が得意そうだ。なんかほら、見た目もくの一っぽいし。
布陣は固まった。暫定生徒会七番、始動だ……!