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生徒会政争  作者:
8/29

決着~vs暫定生徒会十一番~

 西校舎、七番仮室。暫定生徒会十一番との交渉は佳境に差し掛かっていた。






「良いですねぇ!サッカーにしましょうか?」


 石田くんが笑いながら話す。

 対する十一番会長は悔しげにうつ向いている。

 この状況は……?


「ちょっと!石田のヤツ、どうしちゃったの?そんなにサッカー大好きなの?」

「あー、大丈夫だって! アイツは交渉の時にバカになるっていう性質があるからな!」

「年中バカな会長には言われたくないですけどねぇ……!」


 ……聞こえていたらしい。少しボリュームを落として話し始める。


「……石田は小細工を見破ったんだよ」

「兄貴、わかったの?」


 加藤くんが語り始める。


「あっちの有利な対決方法は……本当はサッカーじゃない」






「いやー。正直言って、まんまと騙されるトコでした。やっぱ先輩は一味違いますね!」


 実際、俺はサッカーを却下するつもりだった。

 だけど、その時にふと思い出したのだ。


「十一番会長、その手の動きってボールの握りですよね?」






「十一番が狙った対決方法は野球だったってこと?」

「そう。サッカーは囮だ」


 つまり、こう言うことだ。

 まず、最初に「サッカー」を対決方法へ挙げる。

 しかし、人数の問題上、私たちは断ると予測できる。

 ならば次にこう言えば良い。「じゃあ、野球だったらちょうど良いんじゃないか?」と。

 そこまでやったら、後は思いのままだ。


「考えたものね……」






「それでは、お互いに納得がいった所で会議を終了しましょうか」


 手を差し出す。こちらの意図に向こうも気づき、こちらの手を掴む。

 握手。交渉成立である。


 勝利、というにはまだ早い。

 しかし、相手の土俵で闘うことは回避できた。交渉役としてはまずまずの結果だろう。


「ちっくしょう……!どうせ木下のトコだからテキトーにやってると思ってたのによぉ……」

「残念だったなぁ、鈴木。俺はバカだけどな、俺の仲間は優秀なんだぜ?」


 それってどうなんだろうな……。誇れるのか?


「くそ!終わらねぇぞ……最後まで足掻く!三日後、6対6のサッカー対決、覚悟しとけよ?」

「三日後な。おっし、任せとけ!」


 そんな声を聞きながら、俺は別のことを考えていた。握手の時に気付いた、ガチガチに固くなったマメの跡。握り返す手の力強さ。

 先輩にはまだまだ勝てないと確信した。


「油断、なんて出来るわけ無いな」


 こちらは胸を借りる立場、未熟な立場。このことを胸に刻まないと……。


「……いつか足元を掬われる」


 開いていた手のひらをグッと握る。

 歓喜に湧く室内を見ながら、その責任の重さを改めて実感する。頭がズキリと痛み、重力が増えたかのような錯覚を得た。






 三日後。サッカー対決。

 特筆すべき所は何もない、退屈な試合だ。

 ちなみにスタメンは、会長、福島、加藤兄、加藤妹、糟屋、平野の六人。……うん。どうでもいいな。


「と言うか、自分で参加してないからつまらないんでしょ?」

「……子供か」


 大谷と片桐の両方から責められる……的を突いてるから何も言えないんだよな……。


「で、でも!私もちょっと石田くんの気持ちわかるよ!何かこう……ゴメン」

「脇坂。どうせフォローするなら最後まで貫いてくれ。……余計悲しくなるだろ?」


 いや、そもそもそこまで出たかったってワケでも無いし。運動は苦手だし。けれど、ただ見ているだけというのが嫌なのだ。


「あ、そうだ。……片桐?」

「……何だよ」


 そう言う片桐も少し不満そうだ。……子供か。


「お前に『書記』を任せたいんだが」

「へぇ……って、え、書記!?」


 黙って試合を見ていた片桐が騒ぎだす。……あ、今のタイミングじゃなかったか?


「いや、僕で良いのか?」

「……あぁ、頼む」


 むしろお前みたいな真面目なヤツにしか出来ないんだよ。……なんて言葉は言わない。いや、言えない。どうにも俺が言うと、嘘っぽくなるらしい。


「「おぉぉぉ!!」」


 歓声が上がる。相手のシュートが決まり、点が入った。


「……石田、これで負けたら僕たちはどうなる?」

「解散、だな」


 フィールドの真ん中で話し合っているのが見える。スコアは同点。残り時間はロスタイム三分。


「……冷静に考えてさ、サッカーで生徒会を決めるってどうなんだ?」

「……俺に言うなよ」


 生徒会対立制度の弊害だな。多分、学生らしい対決が思い付かなかったんだろう。


「行くぞぉ!」


 福島が叫び、ボールを蹴り上げる。キーパーを含めた全員が、パスによって前線へ上がり、チャンスをうかがう。


「パスくれ!」


 糟屋の声に応じて、加藤兄がパスを出そうとする。だが……。


「え?アレってキツいんじゃないの?」


 脇坂が不安そうに声を上げる。

 糟屋の声に反応したのは味方だけではない。パスコースを封じ込める相手チーム。


「これは……。死ぬ気で一点もぎ取れよ!」


 別の競技で仕切り直し、なんてことになったら一大事だ。

 加藤兄は焦らず、落ち着いたまま、糟屋とは違った所にパスを出した。瞬間、そこからボールは軌道を変え、糟屋へと飛んでいった。


「ダイレクトぉ!」


 糟屋の一蹴りはゴールネットを揺らす。それと共に鳴り響くホイッスル。

 俺たちの勝利だ。


「「よっしゃぁぁぁ!」」


 フィールド内で叫ぶ糟屋たちを横目に、考える。


「今のゴールは……」


 遠目からは分かりにくかったが、平野のファインプレーだ。

 加藤兄からのパスを、さらに糟屋にパス。

 中継としてマークを避けたのだ。

 と、ここであることにひらめいた。


「適任がいた……!」


 今回、改めて感じた情報の重要性。情報収集役『広報』が必要だと思っていたが……。


「平野に任せてみようかな」


 彼女なら隠密活動が得意そうだ。なんかほら、見た目もくの一っぽいし。

 布陣は固まった。暫定生徒会七番、始動だ……!



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