迷子のお知らせ
「オッドアイ……?」
確か、漫画とかでよく見る、左右の目の色が違うというヤツだったか?
「だから、包帯を?」
「まぁ、そう言うことだ。……家族たちが嫌がるんだよ」
福島の家は神社らしい。待望の長男誕生に喜ぶ祖父母。 しかし、青く輝く左目を見て、彼らは言ったそうだ。
「祟りだ、ってな」
福島は自嘲気味に笑った。小さな頃から言われ続けてきたのだろう。
おそらく何度も何度も。
「だからさ、生徒会としてはイメージダウンに繋がっちまうかもしれないけど……こればっかりは、頼む」
福島が軽く頭を下げる。
……これを理由に何か条件を差し出しそうと思っていたけど、こんなこと言われたらな……。
「……わかったよ。会長にもそう伝えとく」
そう言うことしかできなかった。そんな俺は、まだまだ甘いのだろうか。
「もうここに頼るしかねぇよな……!」
新たな庶務の勧誘のために私と会長は校内で奮闘していた。そんな中で私たちがやって来たのが……。
「放送室……?」
確かにここならば確実に届けることができる。
だけど……。
「生徒会対立制度の規定により、放送による勧誘は禁止されてますよ?」
理由は明らかだ。これでは平等ではない。
「大丈夫だって」
会長は堂々とノックをして中に入る。
「ちょっ、困りますよ!」
制止する放送委員。しかし、会長は止まらない。
「あ~大丈夫、大丈夫。勧誘じゃなくて、迷子の捜索だからさ」
迷子?
何言ってるんですか?
というか、頭イッちゃってるんですか?
……なんて言葉を抑えつつ、フォローする。
「大丈夫です。こんな会長に演説ができると思いますか?」
「オマエ、それフォローじゃなくて、ただの悪口だからな?」
やれやれ、と言った様子で会長はマイクを握った。
「それじゃあ、七番の教室に行こう。会長との顔合わせも必要だし」
「あれ?あなたが会長じゃないの?」
いや、俺は……と言いかけたところで放送がかかった。
「ピン、ポン、パン、ポーン!」
間の抜けた音を口であえて言ったようだ。
てか、この声って……。
「会長?」
「ピン、ポン、パン、ポーン!暫定生徒会七番会長、木下でーす! えーっと、迷子のお知らせを申し上げま~す!」
放送前に鳴らすアノ音を口で言った時点で望み薄を感じていた。
荒れる、これは荒れる、と。
けれど違った。
「生徒の中で……誰かの役に立ちたい、自分を変えたい、退屈したくない、みたいな悩みを抱えている方がおりましたら……暫定生徒会七番まで来てくださ~い!」
この会長は……! 一体どこまで考えてやっているのだろう?もしくは何も考えていないのか……。
だが、今の放送は……。
「……それを求めている人の心に確実に刺さるわね」
「ピーン、ポーン、パーン、ポン!」
放送後の音を口で言った会長はニッ、と笑った。
「あの~今のって……勧誘じゃ?」
「迷子のお知らせよ」
「いや、でもこれは……」
「迷子のお知らせよ」
「……はい」
「ったく……」
無茶するなぁ、マジで。
と言いつつ、顔はニヤけてしまっているのだが。
「え、今のは……?」
不思議がる三人に対し、スピーカーを親指で差しながら告げる。
「あぁ、アレが俺たちの会長だよ」
「……と言うわけで、新しく庶務として加わる三人だ」
合流した俺たちは顔合わせを始めた。自己紹介も終え、庶務の腕章を渡すときに、会長が珍しく真面目な顔で言った。
「……福島。ちょっと良いか?」
そう言うと、会長はさっと包帯を外し、福島のオッドアイを見つめた。
男同士でこんな画は見たくないな、と茶化すこともできない、真剣な会長の目。
何故か加藤妹も動揺しているが……。
「綺麗だよなぁ……綺麗な青。俺は隠すことはねぇと思うけどな」
加藤妹が倒れそうなくらい慌てている。
なるほど。コイツは福島のことが……。
と言うか、会長ってソッチ……?
そんな目を大谷に向けると、彼女は人指し指を立てて、口の前に持ってきた。
その動作がやけに色っぽくて、思わず見とれてしまった。
「オマエは悪くねぇよ。何にも気にすることはねぇ」
そう言った瞬間、福島は崩れ落ちた。泣いている彼に対し、木下は静かに背中を撫でた。
「何だかんだで『会長』なんだよな……」
福島も落ち着いた頃、そう呟いた。
結構小さな声で言ったつもりだったが、大谷には聞こえていたらしい。
「そうよね。……普段あんなでも『会長』なのよね」
そう言って、笑い合う。
……そう言えば二人はどういう関係なのだろうか?
ただの知り合い?
それとも……。
それを聞こうとした時、ドアの向こうから声がした。
「……ちょっ?何で僕が先頭なんだよ!押すなって!」
「良いじゃん、良いじゃ~ん!ほら行ってこいって~」
「頑張ってください!」
「……ファイト」
「えっと、あの……君たち二人は初対面だよね?何でナチュラルに僕を押してんの?」
「よし!せーの、で入ろうぜ?」
「「せーの!」」
「って何で僕だけ!?」
ドアを開けて、男子が一人が入ってきた。
いかにも真面目な感じ。
「冗談だって~。あ!失礼しま~す!」
次に入ってきたのは、一転してお調子者のような男子。
だが、体つきは良い。部活か何かをやっていたのだろうか?
「し、失礼しま~す!」
右手と右足を同時に動かしながら入ってきたのは、髪をお団子で結んだ、元気っ娘といった感じの女子。
「……失礼します」
最後に気配も無く入ってきたのはポニーテールの女子。マフラーを巻いて口元を隠し、ふと、漫画で見たくノ一を連想した。
私はここまで分析して、また面倒くさいのが入ってきた、と思った。
しかしその反面、面白くなりそうだ、と目を輝かせたのは内緒。
そして、それは多分彼も同じなのだろう。
隣で同じように目を輝かせる副会長の姿を見つめながら、そう思った。
「暫定生徒会七番、庶務七人追加……ね」
期待に胸を膨らませながら、私は呟いた。