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生徒会政争  作者:
6/29

迷子のお知らせ

「オッドアイ……?」


 確か、漫画とかでよく見る、左右の目の色が違うというヤツだったか?


「だから、包帯を?」

「まぁ、そう言うことだ。……家族たちが嫌がるんだよ」


 福島の家は神社らしい。待望の長男誕生に喜ぶ祖父母。 しかし、青く輝く左目を見て、彼らは言ったそうだ。


「祟りだ、ってな」


 福島は自嘲気味に笑った。小さな頃から言われ続けてきたのだろう。

 おそらく何度も何度も。


「だからさ、生徒会としてはイメージダウンに繋がっちまうかもしれないけど……こればっかりは、頼む」


 福島が軽く頭を下げる。

 ……これを理由に何か条件を差し出しそうと思っていたけど、こんなこと言われたらな……。


「……わかったよ。会長にもそう伝えとく」


そう言うことしかできなかった。そんな俺は、まだまだ甘いのだろうか。






「もうここに頼るしかねぇよな……!」


 新たな庶務の勧誘のために私と会長は校内で奮闘していた。そんな中で私たちがやって来たのが……。


「放送室……?」


 確かにここならば確実に届けることができる。

 だけど……。


「生徒会対立制度の規定により、放送による勧誘は禁止されてますよ?」


 理由は明らかだ。これでは平等ではない。


「大丈夫だって」


 会長は堂々とノックをして中に入る。


「ちょっ、困りますよ!」


 制止する放送委員。しかし、会長は止まらない。


「あ~大丈夫、大丈夫。勧誘じゃなくて、迷子の捜索だからさ」


 迷子?

 何言ってるんですか?

 というか、頭イッちゃってるんですか?

 ……なんて言葉を抑えつつ、フォローする。


「大丈夫です。こんな会長に演説ができると思いますか?」

「オマエ、それフォローじゃなくて、ただの悪口だからな?」


 やれやれ、と言った様子で会長はマイクを握った。




「それじゃあ、七番の教室に行こう。会長との顔合わせも必要だし」

「あれ?あなたが会長じゃないの?」


 いや、俺は……と言いかけたところで放送がかかった。


「ピン、ポン、パン、ポーン!」


 間の抜けた音を口であえて言ったようだ。

 てか、この声って……。


「会長?」




「ピン、ポン、パン、ポーン!暫定生徒会七番会長、木下でーす! えーっと、迷子のお知らせを申し上げま~す!」


 放送前に鳴らすアノ音を口で言った時点で望み薄を感じていた。

 荒れる、これは荒れる、と。

 けれど違った。


「生徒の中で……誰かの役に立ちたい、自分を変えたい、退屈したくない、みたいな悩みを抱えている方がおりましたら……暫定生徒会七番まで来てくださ~い!」


 この会長は……! 一体どこまで考えてやっているのだろう?もしくは何も考えていないのか……。

 だが、今の放送は……。


「……それを求めている人の心に確実に刺さるわね」


「ピーン、ポーン、パーン、ポン!」


 放送後の音を口で言った会長はニッ、と笑った。


「あの~今のって……勧誘じゃ?」

「迷子のお知らせよ」

「いや、でもこれは……」

「迷子のお知らせよ」

「……はい」




「ったく……」


 無茶するなぁ、マジで。

 と言いつつ、顔はニヤけてしまっているのだが。


「え、今のは……?」


 不思議がる三人に対し、スピーカーを親指で差しながら告げる。


「あぁ、アレが俺たちの会長だよ」






「……と言うわけで、新しく庶務として加わる三人だ」


 合流した俺たちは顔合わせを始めた。自己紹介も終え、庶務の腕章を渡すときに、会長が珍しく真面目な顔で言った。


「……福島。ちょっと良いか?」


 そう言うと、会長はさっと包帯を外し、福島のオッドアイを見つめた。

 男同士でこんな画は見たくないな、と茶化すこともできない、真剣な会長の目。

 何故か加藤妹も動揺しているが……。


「綺麗だよなぁ……綺麗な青。俺は隠すことはねぇと思うけどな」


 加藤妹が倒れそうなくらい慌てている。

 なるほど。コイツは福島のことが……。

 と言うか、会長ってソッチ……?

 そんな目を大谷に向けると、彼女は人指し指を立てて、口の前に持ってきた。

 その動作がやけに色っぽくて、思わず見とれてしまった。


「オマエは悪くねぇよ。何にも気にすることはねぇ」


 そう言った瞬間、福島は崩れ落ちた。泣いている彼に対し、木下は静かに背中を撫でた。


「何だかんだで『会長』なんだよな……」


 福島も落ち着いた頃、そう呟いた。

 結構小さな声で言ったつもりだったが、大谷には聞こえていたらしい。


「そうよね。……普段あんなでも『会長』なのよね」


 そう言って、笑い合う。

 ……そう言えば二人はどういう関係なのだろうか?

 ただの知り合い?

 それとも……。

 それを聞こうとした時、ドアの向こうから声がした。






「……ちょっ?何で僕が先頭なんだよ!押すなって!」

「良いじゃん、良いじゃ~ん!ほら行ってこいって~」

「頑張ってください!」

「……ファイト」

「えっと、あの……君たち二人は初対面だよね?何でナチュラルに僕を押してんの?」

「よし!せーの、で入ろうぜ?」

「「せーの!」」






「って何で僕だけ!?」


 ドアを開けて、男子が一人が入ってきた。

 いかにも真面目な感じ。


「冗談だって~。あ!失礼しま~す!」


 次に入ってきたのは、一転してお調子者のような男子。

 だが、体つきは良い。部活か何かをやっていたのだろうか?


「し、失礼しま~す!」


 右手と右足を同時に動かしながら入ってきたのは、髪をお団子で結んだ、元気っ娘といった感じの女子。


「……失礼します」


 最後に気配も無く入ってきたのはポニーテールの女子。マフラーを巻いて口元を隠し、ふと、漫画で見たくノ一を連想した。


 私はここまで分析して、また面倒くさいのが入ってきた、と思った。

 しかしその反面、面白くなりそうだ、と目を輝かせたのは内緒。

 そして、それは多分彼も同じなのだろう。

 隣で同じように目を輝かせる副会長の姿を見つめながら、そう思った。


「暫定生徒会七番、庶務七人追加……ね」


 期待に胸を膨らませながら、私は呟いた。


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