表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会政争  作者:
5/29

二面勧誘作戦

 中学の時、参謀が主人公の小説で読んだ。

 主君の影のように付き従い、作戦などの助言をする。

 そんな彼らに憧れを抱いた俺は、参謀になりたかった。

 と言っても戦争などは練習の仕様が無い。

 だから調べたのが交渉術。その効果か、俺は言い争いでは無敵だった。


 ……もっとも、そのせいで「理屈っぽい」などと言われ、嫌われていたらしいが。




「とりあえず、人数を集めよう」


 所信表明演説が終わった翌日の暫定生徒会七番。

 まず最初に出た課題はそれだった。


「暫定生徒会では、会長、副会長、書記、会計、広報が各一人ずつ必要よ。その他には庶務もだけど、これは人数を制限されてないの」

「……他のトコに比べて、全然足りないな。申請は通ったんだろ?」

「申請の最低条件は、会長と副会長、それにもう一人の役員だから……」


 これはかなりキツい。交渉がまとまらなかった場合、決着は平和的対決でつける、と規則にある。


「平和的対決。……つまり、スポーツやゲームのような対決ってことだよな?」


 平和的対決。生徒会対立制度に記される、交渉以外の対立方法。

 交渉によって、互いの納得が得られなかった場合、対立する生徒会同士の直接的な対決で決着をつけることになる。といっても、これは学校で決めた制度。実際の戦争のように学生たちを喧嘩させるなど言語道断だ。

 こうして決まったのがスポーツやゲームのような「学生らしい戦争」……平和的対決である。

 俺はこの対決制度には納得がいかないのだが……。


「そうよ。つまり、今の私たちでは圧倒的に不利ね。暫定生徒会の中には部活動と繋がりを持つ所も多いし……」

「繋がり?」


 木下が尋ねる。

 何だかんだで話は聞いているんだよな……。


「例えば、予算の増加をエサにして、部員全員を庶務に登録、とか。もちろん、一度に全員出れる訳じゃないけどね?」

「なるほどなぁ……じゃあ、俺たちもやろうぜ?」

「確かにやりたいけど……」


 残ってる部活なんてあるのか?大所帯はほとんど取られてたはずだ。


「そうねぇ……ここなんてどうかしら?『柔道部』よ」

「お?何か良さげだな!ここをスカウトしようぜ?」

「ホントに大丈夫なのか?真っ先に勧誘の手が来そうだけど?」


 いわゆる武闘派。一番重宝されそうだ。


「基本情報の欄を見てみなさいよ」

「ん?」


 そこに書かれていたのは「人数不足につき休部中」の文字。


「って、休部中じゃ意味ないだろ?」


 誰も誘わないわけだ。活動していなきゃ意味がない。

 そんな俺の突っ込みに焦りもせずに淡々と、大谷は続ける。


「噂によると、一年生が新しく入部したらしいわ。向こうとしても、後ろ楯が欲しいに違いないはずよ」


 調査済みってわけか。確かにチャンスだな。ふっ、と息を吐いて前を向くと、木下がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 ……指示待ちってことか。号令くらい自分でやれよな。


「……じゃあ、俺は柔道部をオトす。二人は街頭演説を頼む。……強引にしないようにな」






「男子柔道部、主将の福島正義(ふくしま まさよし)だ。こっちは……」

「副主将、加藤海斗(かとう かいと)

「そして私が女子柔道部主将、加藤清奈(かとう せな)よ!」


 東西南北の全ての校舎から離れた武道場。さらにその隅にある畳の上で交渉は始まった。

 正直言って、ビジュアルはいかにも……という感じだ。

 福島と名乗った男子は左目に包帯を巻き、加藤と名乗った男子はニット帽をかぶっている。

 何処の不良だよ……?

 ちなみに加藤という女子は髪をツインテールにしている。

 ……絶対部活の時に邪魔だろ。


「えっと、一年生だよね?」


 三人は全員一年生、つまり俺や大谷からすると同級生だ。


「あぁ、だから部活情報欄には休部中になってる。これから直すつもりだったんだが……」


 加藤海斗が応える。

 ……コイツは結構マトモだな。


「いや、好都合だよ。……そのおかげでこうして皆さんと話ができますから」


 モードを変える。小さいながらも、これは交渉だ。しかし、モードを変えた瞬間、あちらの態度が柔らかくなった。


「その話し方って……お前、あの目立った演説してたやつか?」


 海斗の言葉に始まり……。


「マジか? じゃあ、ちょうど良い! 俺たちを生徒会に入れてくれ!」


 福島が乗り……。


「スゴいじゃん! 私たち、この話にノれば一躍スターだよ?」


 清奈がシメる。


 ……何だコレ? 思ってた展開とは違うが……ラッキー、かな?

 どうやら、予想以上にあの演説は話題になっていたらしい。






 南校舎にある一年生教室棟。

 授業も終わり、部活へ急ぐ者や教室で駄弁る者、さまざまな生徒が見える。


「……よっし!ここらでやっとくか?」


 会長が喉を整え始める。体育館の時のようなマイクは無い。自分の本来の声しか届けられないのだ。


「どーもー!暫定生徒会七番の会長、木下でーす!」


 ……ヒドい。何がヒドいって、自己紹介がスベる芸人にしか見えないところが。


「えーっと……何だっけ?大谷!次はどうすればいい?」


 早い……! 助言も何も、まだ自己紹介しかしてないし。というか……。


「……もう次はないんじゃない?」

「あり?」


 辺りからは人の気配が消えていた。






「あの……さ。せっかく仲間になるんだから深いトコも聞きたいんだけど、良いか?」


 庶務の三名補充が決定した。

 ……失敗したな。

 会長たちにはこっちをやらせておけば良かった。チョロすぎるし。

 だが、もはや後の祭り。

 ならば今は、仲間となるコイツらの情報がもっと欲しい。


「じゃあ、まずは……二人は身内?」


 まぁ、まずは小手調べ。

 どことなく雰囲気が似てるし。


「あぁ、正確に言うと『兄妹』だな」

「兄と妹の方のきょうだい、ね?」


 兄である海斗が応え、妹の清奈が補足する。


「へぇ、双子か。じゃあ、さ……」


 さて……ここで早くも一番の疑問をぶつけるか。


「福島、だっけ?……何で包帯してるの?」


 もし理由が、かっこつけたいから……とかだったら、コイツらやっぱ無しだわ。






「やっぱりさ。ドーンって感じで派手に行こうぜ?」

「……何を?」

「おいおい、俺たちの目的を忘れたのか?……勧誘だよ」


 勧誘で何をドーンするのかを聞きたかったのだけど……。

 石田くん、上手くいってるかしら?

 ちなみにこちらは……。


「最悪ね……」


 もはやため息すら出ない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ