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生徒会政争  作者:
3/29

感傷と腕章

 俺は教室に立っていた。だが、それは春から通っている高校の教室では無い。記憶の中に残る、中学の時の教室だ。つまり、現実ではない。


「……またか」


 あの日以来、何度も見た夢。思い出したくないことなのに、何度も夢に出てくる出来事。苦く苦しい過去の話。


 教室内、あの日の俺は堂々と何かを話している。

 景色が歪み、場面が切り替わる。

 昇降口横。校舎からの死角になる暗い場所。

 クラスメイトの男子に囲まれた俺は何度も殴られている。


 再び、教室へ。

 空いた席を見て、ただただ呆然としている俺。

 胸に溢れる無力感。


 振り返ると、その時いなくなった女子生徒が何かを喋っている。それを聞き取ろうと近づく……。


「っ!?」


 夢はいつもそこで醒める。

 心身が不安定な時によく見る夢。

 身体中は汗で濡れ、頭がズキズキと痛む。


 あの時の女子は今の俺に何と言うのだろうか?






「決まったの?」


 教室に入ると、大谷にそんなことを言われた。彼女に問いかけられる内容は1つ。加入の是非だ。


「……いや、悪い。まだだ」

「何をそんなに悩んでいるのよ?」


 大谷はため息をつく。あまり喋らない二人の会話だからか、周りからの視線が多く、うざったい。しかし、だからといって人目を避けるのもどうかと思う。

 故に、俺はそのまま教室内で本題に入った。


「……なぁ、お前は俺のどこを見て誘ったんだ?」


 何となく興味が湧いた。彼女が持っているらしい分析能力。そもそも、それは一体何だ?


「あぁ、会長から聞いたのね。能力、なんて漫画っぽいものじゃないわよ? ただ人より少しデータの収集と記憶が優れているだけ」

「お前、スゴいこと言ってるっていう自覚ある?」


 ……充分漫画っぽいよ。だが、そんなツッコミに耳を貸さずに彼女は続ける。


「あなたは能力はあるのに(くすぶ)ってる感じがしたの。だから、背中を押してみただけ。迷惑だった?」


 ……燻ってる、ねぇ。

 弱冠当たっている。

 本当は自分の力でどこまで行けるかを試したい。だが、中学の時のことがそれを遮る。

 ……俺は、もう一度挑戦しても良いのだろうか?


「……ねぇ?」


 大谷が顔を近づけてくる。長い黒髪が揺れ、シャンプーか何かの香りを感じた。


「……おい? 何をして……」


 声をあげようとしたが、出来なかった。彼女の顔を見てしまったからだ。滅多に表情を変えない彼女が、慈愛に満ちた目をこちらに向けていた。


「昔、何があったかは……分からないけど、あなたの行動は間違っていなかったと思う」


 鼻頭に息がかかる。頭の中がぐるぐる回る。そして、彼女が言った言葉を噛みしめていた。

 「間違っていなかった」……か。

 その言葉に心が少し軽くなった。

 結局の所、俺は誰かに肯定されかったのかもしれない。不安で仕方なかったのだろう。


「……お前、やっぱりエスパーじゃないか?」

「だから、そんな漫画っぽい能力なんか持ってないって……」


 少し怒ったような態度を見せた後、彼女はニコリと笑った。






 所信表明演説。

 生徒会政争の始まりを意味する儀式だ。

 各暫定生徒会のマニフェストや意気込みを語るステージ。

 ここで支持する生徒会を決める生徒も多い。


 体育館ステージ裏。各暫定生徒会が集まり、話し合っている。


「大谷、何組集まった?」

「私たちも入れて……12組」


 私の言葉に会長が苦い顔をする。


「多いな。いつもは5組あるかないかだぜ?……っと、石田はどうした?」

「……分かりません」


 彼は来ないのだろうか?

 私は彼の悩みを解消できたのだろうか?

 今思うと、後悔ばかりが浮かぶ。

 もっと良い言葉があったのではないか?

 無責任ではないか?


「……何だ、来たじゃねぇか」

「えっ?」


 振り返ると、そこに彼がいた。息を切らし、手を伸ばす。


「腕章、俺にくれ」

「おいおい。決心はついたのか?」


 その言葉に彼の目が変わる。あぁ、この目だ。この目を私は見たかった。『もう一度』見たかった。


「あぁ、俺がアンタをホントの生徒会長にしてやる」


 腕章を付けながら彼は答える。

 右腕に光る「副会長」の文字。


「へへっ。頼りにしてるぜ?」


 「生徒会長」の文字をなびかせながら、会長が前に出る。

 私は……。

 右腕に手をやり、「会計」の刺繍をなぞる。


「……それじゃあ、始めましょうか」


 私たちの生徒会に向けて。


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