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生徒会政争  作者:
29/29

3組合同サミット

 天正高校における生徒会を決める方法……「生徒会対立制度」。通称、「生徒会政争」は暫定生徒会と呼ばれる組織たちが、交渉などによって勝利を獲得し、真の生徒会を決めるというものだ。


 終盤に差し掛かった現在、残っているのは4組。


 東校舎を活動拠点とし、大人物……伊勢真守(いせ まもる)を会長とする暫定生徒会一番。


 西校舎に根を張り、二人の副会長がバランスよく会長の大江真結美(おおえ まゆみ)を支える、暫定生徒会三番。


 南校舎を陣取る、会長の島津貴大(しまづ たかひろ)を中心としたチームワークの暫定生徒会十番。


 そして……今期生徒会政争のダークホース。副会長の石田政志(いしだ まさし)を筆頭とした1年生役員が、会長の木下大喜(きのした たいき)を導く、暫定生徒会七番。


 真の生徒会……学校の頂点が、もうすぐ決まる。






 さて、東西南北の校舎には、暫定生徒会が散らばって活動をしている。その中で、天正高校にある中央校舎は「公的区域」とされ、何人も選挙活動をしてはいけない。

 故に、そこは公平な場所の象徴となっている。


 そんな中央校舎の会議室。円形になったテーブルの北側に座った俺は副会長の腕章を整えた。


「石田くん。……来ないわね?」

「……いや。もうすぐ来るさ」


 右横に座った、会計の大谷と会話を交わす。俺から見て左には会長である木下が座っているが、突っ伏して寝ている。起こすべきか……?


「なんか怪しいんだよな……。ホントに来るのか?」


 訝しげに呟くのは木下のさらに左。書記の片桐だ。

 そう。ここに居るのは、俺たち七番生徒会の政治系役員だ。


 と。そこでドアが開く。有名な顔ぶれに対し、表面上はニヤリと不適な笑みを浮かべながら、内心はかなりホッとしていた。

 第一段階はクリアだ。俺はモードを変えて、声を放つ。


「ようこそ。有意義な会議となることを心から望みますよ。……暫定生徒会三番と十番の皆様方」


 そこにいたのは四人の男女。

 女子を真ん中にし、それを支えるように二人の男子が立っている。こちらが暫定生徒会三番。

 そして、屈強な男子が一人。こちらが暫定生徒会十番だ。


 四人を見ていると、左側から声が飛んだ。会長は未だに寝ている。つまり、声の主は片桐だ。彼は不思議そうに疑問を発した。


「えっと。十番は会長だけですか?」

「ああ、すまない。後から一人遅れてくる。話は進めてくれて構わないぞ」


 腕を組み、俺たちから見ての右。西側の椅子にどっかりと座るのが、十番の会長である島津貴大だ。丸刈りの頭には斜めに剃りこみが入っており、どこか気圧されそうになる。


「……何で俺たちだけじゃねぇんだよ。俺たちはそこの丸坊主の『ついで』か?」


 と。わざと聞こえるように舌を鳴らしたのは、逆立った髪をもつ男子。体格がよく、武道か何かをやっているような印象を受けた。

 そこで気づく。彼が情報にあった副会長の一人だ。弓道部部長、吉川陽次(きっかわ ようじ)

 と、なると。あちらの細身の男子がもう一人の副会長。将棋部部長、小早川史矢(こばやかわ ふみや)。男にしては長い髪が右目にかかっている。


 この暫定生徒会の特徴は、2つの部活からの後ろ楯があるという点だ。

 吉川は弓道部。小早川は将棋部。

 それぞれの部員が、暫定生徒会三番を支持するために支持率は伊勢が率いる一番に次いで高い。


「うるさいぞ、吉川。どうせ話し合いになれば寝てしまうくせに」

「だから、今喋ってんだよ。眠くなる前によ」

「ちょっ、ちょっと~。みんな見てる前でケンカしないでよ。も~!」


 説明が遅れてしまったが、二人を取りなす小さな体の女子。彼女こそが最重要役職……会長を務める大江真結美。

 文と武に優れた二人の副会長も彼女には頭が上がらないという。

 半信半疑な情報だったが……目の前の光景が真実だと言っている。




 ともあれ、だいたいは揃ったようだ。

 コホン、と咳払いをした後に、俺は役者たちに呼びかける。


「さあ、皆さん! この3組合同サミットによって、今後の行く末を決めましょうか……?」


 一息。間を空けて、強調。意識をこちらに向けさせる。手のひらをバッと横に振る。

 自分を大きく見せろ。ナメられたら負けだ。主導権を相手に与えるな。


「強大な伊勢に押し切られる前に私たちが団結し、彼らを倒し……生徒会政争を進めましょう!」


 この会議を主催したのは俺たち七番だ。

 伊勢の猛攻は自分たちだけで止められるものではない。残念だが、これは事実だ。彼らの影響力は半端なモノではない。


 しかし、敵の敵は味方、という。それを思っているのは俺たちだけではないはずだ。

 ならば、一時休戦し、対抗策を練ろう……そういう趣旨の会議だ。


「……馴れ合いは嫌いだ」


 島津は、静かにそんなことを呟く。

 そんな彼に挙手をしながら語りかけるのは、小早川。


「けれど、君はここに来ている。ということは……僕たちと同じ考えってことなんだよね、島津?」

「……いちいち心を読んだように説明するな」

「そうだよな! コイツのそういうトコはかなりムカつくよな? 分かるぜ?」

「お前はどっちの味方なんだよ……吉川!」




 前途多難だ。こんなんで会議が成立するのだろうか?

 モードに入っているために笑顔が張り付いているが、限界が来るかもしれない。


「……ホントに大丈夫なのかしら?」

「下手をすれば主導権を奪われて、当て馬にされる。それだけは避けなければ……」


 そんな決意は最後の参加者によって打ち砕かれそうになる。


「遅れてすみませんね~。メンゴ、メンゴです……っと」

「……遅いぞ。三役」

「その事務的な呼び方は止めてくださいよ~」


 場に似合わない、ゆるく、チャラチャラとした挨拶に聞き覚えがある。

 お団子状の髪を揺らしながら。

 笑顔を浮かべて、揺さぶりをかけるテンション高めの小悪魔。

 腕に付けられたのは3つの腕章。ソレが示すのは、暫定生徒会十番における書記と会計と広報。


「どーも、どーも。鍋島奈央、再登場ですよ~。キラリっ☆」


 元・暫定生徒会十二番、副会長、兼書記、兼会計を務めていた女子……鍋島奈央がそこにいた。


 この会議において、また嵐が起こる……そんな予感がしていた。





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