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生徒会政争  作者:
24/29

沈黙スタディ

 石田が龍造寺と鍋島に相対した日の放課後……。

 暫定生徒会七番・仮生徒会室……通称、七番仮室では、定期テスト対策の勉強会を開かれていた。最初は集まり、別々に勉強していたものの、成績下位層が上位層に教えを請うたことで、自然に勉強会となってしまったのだ。

 しかし、その時はいつもと様子が違った。


(……どうしてこうなった!?)

 珍しく静かな七番仮室。二人しかいない七番仮室で、庶務・加藤海斗(かとう かいと)は心中で声をあげた。






 回想に入ろう。

 その日……今日は、何も代わり映えの無い日だった。

 いつものように授業を受け、放課後は仮室で勉強をする。

 いつものようにメンバーに挨拶をし、席に着いた。

 と、そこで違和に気づく。室内には四人しかいなかったのだ。


「おい。石田と大谷はどうした?」

「あぁ。あいつらなら遅れてくるよ」


 そう答えたのは、参考書を開いている片桐だ。彼は目は向けないまま話続ける。


「何かクラスで決めなきゃいけないことがあるんだってさ。HRの時間に決まりきらなかったから、延長」


「生徒会政争」から逃れるためにクラス委員に立候補した人も多い。どこのクラスでもそれは同じなのだろう。現に俺たちのクラスも手間取っていた。


「それで? そっちの二人は何をしたんだ?」


 糟屋が俺に問う。彼は教科書をつまらなそうにペラペラとめくっており、どうやらこういう風に話せるタイミングを待っていたようだ。

 というか……。


「……何で、何かしたこと限定なんだよ?」

「じゃあ、違うのか?」


 当然だ。高らかに言う。


「……補習だ」

「……してるじゃねぇか」


 片桐がツッコむ。何だかんだで話を聞いていたようだ。


「じゃあ……会長も同じ理由かな?」

「……ありそう」


 脇坂と平野も会話に交ざってくる。結局、室内に居る五人全員で話をしてしまったのだ。




 と、しばらくしてから糟屋の一言が俺の運命を変えた。


「ジャンケンして負けたヤツがジュースのパシり、な?」






「お前ら、絶対仕込んだだろぉ!?」


 そう言いながらも律儀にメモを取り、買いに行くことになったのは、片桐だった。……ちなみに、全員で「チョキ」を出す、と俺たちはバッチリ仕組んでいた。

 そして……。


「うわ、やべぇ!? このプリント提出するのを忘れてた!」


 そう言って、糟屋が慌てて出ていったかと思えば……。


「あ。やっぱり片桐くんに頼んだヤツじゃないのが飲みたくなった! 変えてもらってくる~!」


 と、脇坂が走り出す。……パシりの意味、無いだろ。

 そして、後に残ったのが……俺と、平野だった。






 回想を止め、現実に目を向けよう。

 ……ハッキリ言って、気まずい。

 直接的に何かを話したことがない。俺は福島や清奈(せな)とばかり話すし、向こうも脇坂とよく一緒にいる。

 ……俺から話しかけた方が良いのか……?

 喋るのはあまり得意ではない。だが、長い付き合いになる仲だ。ある程度は関わっておいた方が良い。幸い、今はお互い勉強中。話題となるネタはいくらでも転がっている。

 行くか……!


「平野。……好きな食べ物って何だ?」


 ……何を聞いているんだ俺は!?

 テンパるにも程がある。「この問題分かるか?」とかで良かったのに……。

 だが、後悔したところでもう遅い。このまま話を続けるしかない。彼女は首をかしげつつも、答えた。


「……アイス、かな?」

「おぉ。……アイスか。いや、俺も好きだぞ、アイスは」

「……へぇ」

「……」

「……」


 やっちまったか……?

 再び起こる沈黙に、俺は肩をがっくりと落とした。

 ……まぁ。別に無理して会話をする必要も無いしな。

 諦めよう、とノートを開く。すると、そこで室内に声が響いた。俺ではない。とすると、その声の主は……。


「……オススメの店とか、ある?」


 平野だった。彼女は少し赤くなりながらも、話してくれた。その様子が小動物のようで可愛らしかった。


「俺は……残念ながらあまり詳しくない。だから、逆に教えてくれないか?」

「……えっとね……?」


 長い長い充電を経て、ようやく会話が弾み出す。めったに喋らない彼女が俺と会話をしている。頬を真っ赤に染めながら、一生懸命に口を回しながら。

 ……こんな顔もするんだな。


「平野は、笑うと可愛いな」

「……え?」


 ……俺、今何て言った?

 頭で考えていただけだったのに、どうやら口も動いていたようで。

「あ……いや?」

「……」


 再び、シーンとなる室内。そこに救世主たちが帰ってくる。


「いや~まさかあんなに怒られるとは……」

「自業自得じゃないか。……にしても、お釣りが出てこないのには驚いたなぁ……」

「片桐くん、ツイてないよね……」


 二人の会話も終わりが来たようだ。正直に言って、ホッとする気持ちと残念に思う気持ちが、半々になっていた。

 平野の方を見る。すると彼女は視線に気づいたのか、こちらへと近づいてきた。

 顔を俺の耳に寄せ、口を動かす。耳元にかかる吐息がどこか心地よい。


「……今度みんなで行こうね?」

「……あぁ!」


 顔を見合わせ、どちらからともなく笑う俺たちを、片桐たちはキョトンとした顔で見ていた。


 こうして、俺は平野紗香という存在を再認識したのだった。






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