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生徒会政争  作者:
23/29

泣きっ面に蜂

 学生の本分は学習である。

 まして、その学生の上に立つものならば尚更である。

 暫定生徒会七番は、この二週間をテスト勉強に力を注ぐことにしたのだ。




 昼休み。午前中で使い切ったエネルギーを補給するために、多くの生徒が廊下を走り、購買や食堂へと突撃している。

 そんな中、俺は歩いていた。


「そんなに急がなくても大丈夫だろ……」


 走る人たちを眺めながら、ポツリと呟く。

 目当てのパンなど無く、余っているものを買うというスタイルなので、必死になっている人たちを横目にゆったりと歩いていた。

 ……何となく優越感に浸れるなぁ。

 そんな風にいつも通り購買に辿り着いた。さて……今日は何が残っているかな?


「あれ?」


 何もない。


「ごめんなさいねぇ。何か今日はみんなが多く買っていっちゃって……」


 ……優越感に浸っていた自分を殴りたい。

 何も残っていない購買を後にしながら、俺は数分前の自分を呪っていた。


「あれ?君は……」

「どうしたの? (てっ)ちゃん……って、あ!」

「……うわ」


 泣きっ面に蜂、というヤツだろうか。この場合は、空きっ腹に会いたくない人、か。

 そこにいたのは、元・暫定生徒会十二番会長……龍造寺鉄雄(りゅうぞうじ てつお)と、そこで副会長と会計と書記を兼任していた女子……鍋島奈央(なべしま なお)だった。


「お久しぶり~☆」


 相も変わらず高いテンション。会ってしまった不運を、呪うしかなかった。






「片桐くんは昼休みだってのに……ベンキョー、ですかぁ?」

「……うるさいよ、糟屋。良いだろ、別に」


 僕は教室でノートを読みつつ、片手で昼食を摂っていた。隣ではすでに食べ終わった糟屋が、紙パックのジュースをズーズーと音をたてて、飲んでいる。


「んなもん、放課後にやれば良いじゃねぇか。今は仮室で勉強会やってるだろ?」

「……あそこだと、教えてばっかで自分のことが出来ないんだよ」


 脇坂や糟屋、福島なんかも聞いてくるので大変だ。石田も勉強は出来るのだが……いかんせん、あいつは勉強の説明が苦手だ。天才肌、というヤツなのだろう。

 ……おかげで脇坂と話せるから良いけど。


「ともあれ、僕だってずば抜けて頭が良い訳じゃないからなぁ……」


勉強しなければ。みっともない点数なんか取れない。


「おー、おー、真面目なこった。……張り切りすぎんなよ?」


 そう言って、糟屋は背を向ける。さりげない気遣い。

 ……こういうことが軽く出来るのがスゴいよなぁ。

 と、そこでハッと我に帰る。


「……いや、お前はもっと張り切れよ!」


 お前、授業中は寝てばっかじゃねぇか。






 中庭。


「半分どう?」


 龍造寺はそう言って、自分のパンを割った。泣きっ面に蜂なんかじゃない、地獄で仏とはまさにこの事じゃないか? と、受け取ってから、軽い後悔の念に襲われる。

 ……借りをつくってしまった!?


「それにしたって、奇遇だね~?」


 鍋島が話しかけてくる。……別にこいつに心を許している訳じゃないんだが。


「……どうして解散なんかしたんだよ」


 そんな言葉しか出なかった。そもそも関わりなど皆無なのだ。話題なんてそれしか無い。


「僕たちにも色々あるってことだよ。奈央はどうだい?」

「う~ん。やっぱり~鉄ちゃんの下で働いている方が楽しかったな~って感じ?」


 ……何か違和感があるような……?

 そんな風に感じた疑問も、二人の会話を聞いているうちにどこかへ行った。


「ずいぶんと仲が良いんだな?」


 龍造寺は二年で、鍋島は一年だったはずだ。生徒会以外で、何か接点があるのだろうか?


「あぁ。家が近いんだよ」

「家族ぐるみのお付き合い、だもんね☆」


 鍋島は相変わらずウザいが、龍造寺についてはその人柄に好感を持った。少し話しただけで、彼の性格の良さが伝わってきた。

 ……自分が生徒会に関わっていなかったら、この人を支持しただろうな。


「そろそろ行こうか、奈央」

「お? そだね~それじゃあ……」


 と、彼女は笑顔を見せた。しかし、それはあの時……俺の過去を告げたときのような、人に対して、何とも言いがたい不安を与えるような笑顔。

 愛嬌と悪意が混じりあった笑顔。


「またね☆」


 彼女は背を向ける。


 ……その時の俺は、その意味を社交辞令的な、ただの挨拶だと思っていた。

 そして、俺は後に気づく。


 その言葉は、宣戦布告の挨拶であった、と。









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