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生徒会政争  作者:
22/29

前日譚:踏み出す~脇坂と平野~

 入学式から少し経ち、クラス内でグループが出来上がってきた頃……彼女は一人で窓の外を眺めていた。

 春の風で揺れるポニーテールとマフラー。

 さらにその少女の顔が端整なことから、それは完成された美術品のようで。

 多くの人が触れるのをためらっていた。


 ただ一人を除いて。






平野(ひらの)ちゃん!一緒におべんと食べよう?」

「……脇坂(わきさか)、さん?」


 私はこの美術品のような娘のことが気になっていた。


 私……脇坂安菜(わきさか あんな)は中学の頃、軽いイジメにあっていた。

 けれど……そのことについて、私は嫌だと思ったけれども、自業自得だ、とも思っていた。

 いかんせん、私はドジをよく踏む。それもあり得ないようなテンプレートなドジを。

 周りから見れば、わざとやっているようにしか見えないらしい。キャラ作りのためだ、と。


 ならば、それは私のせいだ。

 けれど、彼女……平野紗香(ひらの さやか)は違う。


 彼女はタイミングを掴めなかっただけだ。

 そして気づいた頃には、型にはめられていた。

 「喋ることの無い、綺麗な美術品」という(イメージ)

 一度はめられた型から逃れることは、難しい。


 少なくとも、一人では。




「脇坂ちゃんって髪サラッサラだよね~。シャンプー何使ってるの?」

「別に、普通のだよ……」


 何でもない会話。

 明日になってしまえば、彼女は忘れてしまっているかもしれない。

 本当は、彼女は嫌がっているのかもしれない。

 それでも、私は話しかけた。

 時たま見せる笑顔だけが、私の不安を解消してくれた。






 転機。いや、天が与えた機会……天機と言うべきだろうか。

 ……もっとも、そんな言葉は無いんだけれどね。

 一つの校内放送が、私と彼女の未来を大きく変えたのだ。


『ピン、ポン、パン、ポーン!暫定生徒会七番会長、木下でーす!えーっと、迷子のお知らせを申し上げま~す!』


 その校内放送は……放課後、唐突に流れた。


『生徒の中で……誰かの役に立ちたい、自分を変えたい、退屈したくない、みたいな悩みを抱えている方がおりましたら……暫定生徒会七番まで来てくださ~い!』


 別段、喋りが上手いと言うわけではなかったと思う。

 けれども、その一言一言は私の胸に刺さる。


『ピーン、ポーン、パーン、ポン!』




「今の……何なんだったんだろうね?」


 と、彼女を見る。


 彼女は泣いていた。


「どうしたの!?」


 彼女は、私が驚いていることに対してむしろ驚いていた。

 そして、彼女は私に言った。


「……脇坂さんこそ、どうしたの?」


 手を顔にやる。温かい液体が流れていた。

 私も泣いていたのだ。


 何がなんだが分からない。

 分からないけど私たちは泣いた。






 そして、平野ちゃんは語ってくれた。

 喋ることが苦手なこと。

 マフラーには理由があること。

 本当はもっと話したいこと。

 そして……。


「……こんな自分を……変えたいな、って」


 気づくと、私も語っていた。

 よくドジを踏むこと。

 そのせいで迷惑をかけてきたこと。

 そして、最後にボソッと呟いた。


「私も誰かの役に立ちたいよ……」


 言い尽くした私たちは相手の顔を見つめ直した。

 ……美術品、なんかじゃないよね。平野ちゃんはただの女子高生だ。

 やがて、平野ちゃんと目が合い、急に気恥ずかしくなった私たちは、誤魔化すように笑った。




 どちらから言い出したのかは覚えていない。

 私たちは教室に向かっていた。

 扉の前には二人の男子。正反対な印象だが、仲は良さそうで……どこか私たちを連想させた。

 ……あ、この人たちもかな……!

 あの放送のメッセージが届いた者同士。

 これから仲間となる人たち。

 横を見ると、平野ちゃんも笑っていた。


「楽しみだね?」

「うん……!」


ここから始まる、新たな自分。




「よし!せーの、で入ろうぜ?」

「「せーの!」」

 真面目そうな男子にドアを開けてもらって……。


 扉の向こうへ、一歩踏み出す。





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