王者の施し
北校舎。現在ここに残っているのは、暫定生徒会No.06だけだ。
「……流石の迫力だな」
その北校舎の主、六番会長を務める伊達龍哉はその姿を見て、そう呟いた。
「……圧倒されるなよ、会長?」
副会長、片倉佑助はその姿を見て、伊達にそう進言した。
彼らの見つめる先にいるのは、一人の男子生徒。
「悪いな。待たせた」
暫定生徒会No.01の会長、伊勢真守。
圧倒的なカリスマ性。堂々とした立ち振舞い。
まさに「王者」の風格だ。
「悪い、って口では言うのに頭は下げないのか?」
後ろからそうツッコんだのは副会長の腕章を着けた細身の男子。風間隼。
「……俺は会長だからな。簡単には頭を下げないんだよ。威厳ってヤツだ」
「お前は単に頭を下げるのがイヤなだけだろ……?」
伊達と片倉は、一瞬顔を見合わせるが、やがて正面を向いた。
「わざわざご苦労様です。……伊勢センパイ」
その言葉に風間がすばやく反応する。
「おい、伊達と言ったか?……『ご苦労様です』は目上から目下への言葉だぞ」
「……細けぇなぁ、風間」
「生徒会を目指すなら当然だ」
そんな風間に、伊達はニヤリと笑って答えた。
「わざと使ったんですよ?」
何を……と言い返そうとする風間の肩に伊勢は手をやり、言葉を封じる。そして、放った。
「ハハハハハ!おもしれぇじゃねぇか!一年!」
彼はその大きな肺を使って息を吸い込む。
「……俺はそんな後輩をツブすのが趣味なんだよ……!」
豪快に伊勢が笑い飛ばす。
「俺もアンタらみたいなセンパイをボコボコにするのが趣味なんですよ」
負けじと伊達も言い返す。
「それでは、交渉を始めましょうか……!」
まずは、話し合い。そして、決裂した場合は平和的対決の種目を決める。
しかし、その片倉の言葉に対し、伊勢は気だるげに答えた。
「あぁ? 交渉なんかしねぇよ」
「「は? (え?)」」
一年生二人が呆気にとられる中、またか……と風間はため息をついた。
七番仮室。草むしりが一段落した役員たちが集まっている。
彼らの正面に立つのは、副会長である石田政志。
「南校舎に居る十番生徒会は、まだ攻めない」
俺は宣言した。
「それよりも今、俺たちがすべきなのは……」
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「……勉強だ」
は? という役員の声を無視しつつ、続けた。
「定期テストが二週間前に迫っている。……赤点なんて出したら恥ずかしいだろ?」
「じゃあ、生徒会活動は休みってことで良いのか?」
片桐が問う。どこか物足りなさそうだ。
「あぁ。だが、もしもの時に集まれるよう、ここで勉強してくれ」
「勉強会だね!」
脇坂がはしゃぐ。
……そんなに楽しいか?
かくして、暫定生徒会七番はテスト対策へと動き出した。
「今、何と?」
片倉は伊勢の言葉に耳を疑った。
「だから言ってるだろ?交渉はしねぇ。日時は三日後。対決競技はお前らが決めろ」
隣では風間が不機嫌そうにしているが、それを無視して彼は続ける。
「俺らは王者を目指す者たちだ。王ってのは施しをする。ハンデを与える。……その上で、叩き潰す」
彼は右の拳で左手の平を殴る。右手を自分たちに、左手を伊達たちに例えるかのように。
「……そうして絶対的な敗北の味を喰らわせる。二度と刃向かえないように、な」
これが、伊勢真守。「王者」を称する男。
「……三日後、サバイバルゲームで対決を……!」
伊達はそう呟いた。
このオーラに呑まれるな……!
自らを鼓舞し、彼はニヤリと挑発する。
「その自信、ぶっ潰しますからね。センパイ?」
伊勢はその言葉を聞いて満足そうに頷いた。




