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生徒会政争  作者:
20/29

平手

 龍造寺鉄雄は決して無能では無かった。むしろ人望は厚く、彼こそ会長にするべきだ、と言う者もいた。

 しかし、彼が率いた暫定生徒会十二番は、解散した。

 彼は自ら退いたのだ。

 その理由は、友人にも役員にも明かしていないという。

 暫定生徒会十二番の参謀、鍋島奈央を除いては。






「チャンスと考えるか……いや、罠かもしれない……」


 石田くんはさっきからブツブツと何かを呟いている。もちろん、その理由は分かっている。

 南校舎、島津貴大率いる十番に相対を挑むかどうかだ。






 俺はかなり迷っていた。

 そもそも、暫定生徒会同士で相対をするのは、ライバルを減らすだけが理由ではない。

 どこかの暫定生徒会が敗れ、解散した場合……その生徒会の支持者は新たに支持する所を探す。

 他の所に入れたくないために無記入……なんて例は稀だ。

 勝利によって新たな支持者を得る。このことも相対をする理由だ。


 つまり……。


「十番に勝利することは……南校舎の支持率をほぼ全て手に入れたも同然、ということだ」


 得だ。

 草むしりをするよりも効率的だ。

 ……だが、得すぎる!

 参謀、鍋島奈央。

 彼女が居ながら、どうして解散をした?

 彼女は十二番生徒会を真の意味で指揮していた。

 龍造寺は象徴でしかなかったはずだ。

 だったら、どうして?

 俺は彼女を過大評価していただけなのか?

 自らの失態を認めたくないために、彼女を高めていたのか?

 ……分からない。


 あの一件以来、決断が怖くなった。

 俺の決断が、七番生徒会の進路を決めてしまう。

 苦しい。

 胸が締め付けられる。

 その時、手にあたたかいモノを感じた。






「……落ち着いて」


 私は、気がつくと彼の手を握っていた。

 放っておけなかった。

 黙って見ていられなかった。

 私がどんなに彼を気遣っても、彼はそれに苦しむ。

 私がどんなに彼を想っていても……私の想いは、おそらく彼の重しになる。

 それでも私は、黙っていられなかった。






 彼女はどうして……どうしてこんなにも優しいんだ……?

 俺はいつになったら、彼女に恩を返せるんだ?

 俺はどんなことをしたら、彼女に恩を返せるんだ?


「……ありがとう」


 久しぶりにこの言葉を口にした気がする。

 照れくさくて、普段は滅多に言わない言葉。

 その事に気づいたのか、彼女はクスリと笑った。

 ……ホントに似てるな、あの娘と。

 中学時代、隣の席でいつも眺めていた女子、吉松。

 ……前に進むと決めたのに、また後ろを振り返っている。

 こんなんじゃダメだ。気合いを……!


「大谷……俺を叩いてくれ」


 決意の現れ、のつもりだった。






「大変な場面に出くわしてしまった……」


 脇坂が葉で指を切ったというので、必然的に僕が保健室へと連れていくことになった。けれど先に行った二人はいない。

 そして処置をした後の帰り道。僕らは見てしまった。


「大谷……俺を叩いてくれ」


 真剣な顔でそんなことを頼む石田を。


「片桐くん?」


 脇坂が不思議そうな顔で僕に問いかけてくる。


「……男子ってああいうのが好きなの? マゾなの?」


 脇坂!?何てコトを聞いてくるんだよ……!


「いや……全員ってワケでは無いんじゃないか?」


 石田はどうやら……そうらしいが。

 へぇ~、と言って彼女はまた二人を見始めた。






「……分かったわ」


 彼の中でも何か思うところがあるのだろう。

 ……一瞬引いちゃったけど。


「じゃあ……行くわよ……」


 バチィン!


 私なりの全力を込めた平手。それは彼の心まで届いたようで。


「……手加減しないのかよ」


 彼は吹っ切れたような笑顔を浮かべていた。






「ねぇ、片桐くん?」


 再び、脇坂の問い。


「片桐くんも……ああいうのが好きなの?」


 ホントに何てコトを聞いてくるんだよ……!


「いや……僕は別に……」


 好きじゃないに決まってるだろ、と言いかけて止めた。

 はっきり言って、僕は脇坂に好意を抱いている。

 ……話している内容は違えども、面と向かって「好きじゃない」とか言うのは何だかキツい。

 そんな僕の葛藤は、彼女にどう映るのだろうか……?


「……大丈夫!任せといて!」


 ……最悪な形で反映されていた。


「いや、待て!ちょっ……」


 パシィン!


 僕の中で、何かの扉が開いた気がした。



「戻ろう……!」


 考えはまとまった。腕章に手を当て、ピッと整える。「副会長」の刺繍はいきいきと輝いていた。


 生徒会政争は中盤戦へと突入する。


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