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生徒会政争  作者:
2/29

俺のマニフェスト

 生徒総会。

 生徒会が前年度の予算の収支を報告したり、今年度の予定を説明するという重要な行事である。

 しかし、生徒たちに真剣さなど無い。

 居眠りをするものがほとんどだ。一般生徒たちからしたら、難しい言葉ばかりが並んだ説明など分からない。

 できる人に任せておこうと言う考えだ。


「……それでは何か質問や意見のある人はいませんか?」


 司会担当の役員が進行通りのセリフを言う。


「無いようなので次に移りましょう」


 30秒も経たないうちに次のセリフを口にする。

 だが。


「それでいいのか、生徒会?」


 男子生徒がステージに近づいてくる。


「それが学校の核を担う生徒会の仕事か?」


 やがてその男子は壇上へと上がり、マイクを奪う。

 キィィィン!

 マイク特有の乱れた音。居眠りしていた生徒も目を覚ます。


「俺はこの腐った生徒会には堪えきれない……俺はここに新たな生徒会を立ち上げる!」


 無音。

 壇上の役員も生徒たちも、誰も何も喋らない一瞬の後……。


「「ワァァァァァ!」」


 轟音。歓声が湧いた。


 この事件に教職員は慌てたものの、理事長はこれを容認。さらにそれが制度化されることになった。いわく、「生徒の自主性と交渉能力を高める」ための制度。

 これが「生徒会対立制度」通称「生徒会政争」の始まりである。






「と、言うわけ。……コレ、さっきの入学式でも言ってたけれど?」

「いや、眠ってたし……」


 入学式での喚声はコレか。生徒会対立制度。暫定生徒会。ワクワクしだしそうになる自分を抑える。その様子を見ていた大谷は少し微笑み、話を進める。


「石田くんは……そうね。副会長とかどう?」

「ちょっと待ってくれるか? ……俺はやるなんて言ってないぞ?」


 俺は目立ちたくない。ただただ何もせず、何事もなく卒業したい。高校ではそうすると決めたのだ。もう、二度と繰り返さないために。


「でも石田くん、そういうの好きでしょ?」

「え?」


 何で彼女はこんなにはっきりと言えるんだ?俺とどこかで会ったことでも……?


「相変わらずスゲぇな、大谷の分析。見ろよ、あの顔。図星みたいだぜ?」


 分析、ねぇ……だとするとスゴい能力だ。事実、俺は好き……いや、好き「だった」。


 ふと、ニヤニヤしながら喋る先輩に目をやる。第一印象を一言で表すなら「頭悪そう」だ。大谷の知り合いか?いや、ここにいるということは……。


「おっと、自己紹介してなかったな。俺がここの暫定生徒会長、木下大喜(きのした たいき)だ! いやー。まさか大谷がこんなに早く見つけてくるとはなー!」


 腕にある腕章を掲げながら話す。

 こんなのが生徒会、すなわち学校の頂点を目指すのか? ……って俺は何を期待してたんだ? どんな人物だろうと関係ないだろ。


「とにかく!……俺は生徒会なんてやりたくない」

「俺さー……ちょっと考えてることがあるんだよね……」


 唐突に木下が喋りだす。その目は、俺の方を向いていながらも見ていない。


「この制度なんだけどさ。確かに最初はスゲェ革新的だったらしいんだよ。実力とか野望とかがあるヤツがウジャウジャいて、皆が生徒会の動向に関心を持ってて……」


 でも、と木下は続けた。彼は手や体を動かしながら、訴える。


「今、大半のヤツが『めんどくせぇ』って思ってんだぜ? だから、力のあるヤツが好き勝手やってる。この制度、意味無いっつーわけだ」


 不思議な感覚。特別喋りが上手いわけでもない。だが、自然と耳を傾けていた。


「だから、俺はこの制度を無くす。……マニフェストだっけ? コレが俺の、俺たちのマニフェスト」


 ほらよ、と投げられたのは腕章。書かれている役職は……。


「副会長。こういう伝統行事ってさ、無くすのムズいんだろ?俺はバカだからさ……支えてくれよ」


 木下はニッと歯を見せて笑った。




 帰り道。一人、今日のことを考えていた。あの時、俺は断りきれずに「少し考えさせてくれ」と言った。

 それに対する返答は「明日の所信表明演説で待ってる」だった。


「……支えてくれよ、か」


 俺は誰かの力になれるのだろうか?

 その問いに、夕焼けは答えてくれない。


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