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生徒会政争  作者:
19/29

除草

 五月。

 May。

 皐月。

 新緑の季節である。

 草木が新たに芽生え、心地よい風が吹くそんな頃。

 天正高校暫定生徒会No.07の面々は校舎裏にいた。

 今の彼らにとって、新緑は障害でしかない。




「疲れた……」


 立ち上がり、腰を回す。本当は腰を下ろしたいのだが、座ったら最後、歩けなくなりそうな気がして止めた。


「サボってんじゃねぇぞ、石田!」


 福島が俺に叫ぶ。……くそ、脳筋め。

 仕方がないので再開。再びツラい体勢となる。

 放課後。暫定生徒会七番は、草むしりをしていた。

 ……草むしりで支持率がアップするか?これで生徒は喜ばないだろ?


「皆、ファイト~!」


 目を上げると、会長が椅子に座って応援している。

 ……応援?

 ちょっと待て! あいつは草取りしてねぇのか!?


「石田~。手ェ動かせよな~?」


 ……殴りたい。


「辛気くさいツラしてんな~。……見ろよ!この澄みきった空!まさに五月晴れ!」

「会長。『五月晴れ』の五月は旧暦です。実際は梅雨の合間の晴れのことです。」

「へぇ~。片桐くん物知り~!」

「出た! マシーン片桐!」

「うるさいよ糟屋!」


 同じくらいヒーヒー言ってるかと思った片桐と脇坂が予想以上に元気だ。

 ……楽しそうだなぁ。何? ツラいのって俺だけ?


 そう思って横を見ると、もっとツラそうな顔をした女子が一人。


「……大谷? 休んだらどうだ?」

「……大丈夫よ。石田くんこそ大丈夫?」

「大谷。俺はこっちだ。そしてお前が話しかけているのは木だ」


 ツラそう、なんてレベルじゃない。本当にヤバいぞ、こいつ……!

 他の女子に保健室へ連れていってもらおうと思い、周りを見回す。脇坂は片桐と盛り上がってるし、平野も話しかけづらいくらい集中している。


 ふと会長を見ると、親指でクイッと「行け」と指示している。さらにそれを前に持ってきて、親指を上に立てた。

 やれやれ……。

 大谷の細く白い手を握り、そのまま立ち上がらせて、俺は保健室へと向かった。

 入学式の時とは逆だな……なんて、コッソリと思いながら。






 南校舎。

 その三階にある暫定生徒会十番の本拠、十番仮室。

 そこには暫定生徒会十番の役員たちの他に二人……来訪者がいた。

 その内の一人、暫定生徒会十二番で副会長と会計と書記を兼任する女子……鍋島奈央がニコリと笑ってシメに入る。


「さてさて! それじゃあ島津さんを含め、十番の皆さん? ……さっきの条件で了承してもらえるかな~?」


 その言葉に、十番会長、島津貴大が頷く。


「こちらとしては異論は無い。……むしろそっちはどうなんだ?」

「もっちろん! オッケーですよ~!」


 軽快に答える鍋島に目もくれず、島津が続ける。


「君ではなく、会長から話を聞きたい。……個人の本音を言えば、俺がアンタだったらとてもじゃないが納得できない」


 え~?と鍋島は口を尖らす。そして水を向けられ、もう一人の来訪者、十二番会長の龍造寺鉄雄が口を開く。


「大丈夫。異論は無いよ。……それじゃ、鍋島」


 彼は三つの腕章を持った女子に目を向け、言った。


「後は任せた」


 重厚な一言。その重みを感じているのか否か、彼女は敬礼をしつつ、軽く返した。


「大丈夫だよ~(てっ)ちゃん!」


 それに苦笑しつつ、彼は言葉を放った。

 そして、それは龍造寺にとって、会長としての最後の一言となった。






「とんだ失態だったわね……」


 ベッドの上。頭を抱えつつ、大谷が呟いた。


「いや、でも助かったよ」

「どうして?」

「……あと少しで俺も倒れそうだったから」


 いや、本当に。ベストタイミングだった。


「……バカね。それじゃ、そろそろ行きましょうか」

「もう起き上がれるのか?」


 少ししか横になっていないはずだ。また倒れられても困る。


「えぇ。大分良くなったわ。大丈夫よ」


 そう言われては止めるわけにもいかず、俺たちは保健室を去った。

 ……保健室の先生がひたすらに俺を監視してて気まずかったし。……何もしてないのに。


 保健室から出ると、やけに中央校舎がざわついていた。

 人だかりを追い、掲示板を見る。

 そして、そこには……。


「嘘だろ……?」


『暫定生徒会十二番。十番に政策を託し、解散』


 南校舎での決着が、話し合いでついてしまったのだ。

 龍造寺が率いる十二番が解散。

 そんなことがあるのだろうか?

 十二番には、鍋島奈央が居る。

 それなのに……?

 この何とも言えない気持ち悪さ。

 それによって、具合の悪さはどこかへ飛んでいった。



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