除草
五月。
May。
皐月。
新緑の季節である。
草木が新たに芽生え、心地よい風が吹くそんな頃。
天正高校暫定生徒会No.07の面々は校舎裏にいた。
今の彼らにとって、新緑は障害でしかない。
「疲れた……」
立ち上がり、腰を回す。本当は腰を下ろしたいのだが、座ったら最後、歩けなくなりそうな気がして止めた。
「サボってんじゃねぇぞ、石田!」
福島が俺に叫ぶ。……くそ、脳筋め。
仕方がないので再開。再びツラい体勢となる。
放課後。暫定生徒会七番は、草むしりをしていた。
……草むしりで支持率がアップするか?これで生徒は喜ばないだろ?
「皆、ファイト~!」
目を上げると、会長が椅子に座って応援している。
……応援?
ちょっと待て! あいつは草取りしてねぇのか!?
「石田~。手ェ動かせよな~?」
……殴りたい。
「辛気くさいツラしてんな~。……見ろよ!この澄みきった空!まさに五月晴れ!」
「会長。『五月晴れ』の五月は旧暦です。実際は梅雨の合間の晴れのことです。」
「へぇ~。片桐くん物知り~!」
「出た! マシーン片桐!」
「うるさいよ糟屋!」
同じくらいヒーヒー言ってるかと思った片桐と脇坂が予想以上に元気だ。
……楽しそうだなぁ。何? ツラいのって俺だけ?
そう思って横を見ると、もっとツラそうな顔をした女子が一人。
「……大谷? 休んだらどうだ?」
「……大丈夫よ。石田くんこそ大丈夫?」
「大谷。俺はこっちだ。そしてお前が話しかけているのは木だ」
ツラそう、なんてレベルじゃない。本当にヤバいぞ、こいつ……!
他の女子に保健室へ連れていってもらおうと思い、周りを見回す。脇坂は片桐と盛り上がってるし、平野も話しかけづらいくらい集中している。
ふと会長を見ると、親指でクイッと「行け」と指示している。さらにそれを前に持ってきて、親指を上に立てた。
やれやれ……。
大谷の細く白い手を握り、そのまま立ち上がらせて、俺は保健室へと向かった。
入学式の時とは逆だな……なんて、コッソリと思いながら。
南校舎。
その三階にある暫定生徒会十番の本拠、十番仮室。
そこには暫定生徒会十番の役員たちの他に二人……来訪者がいた。
その内の一人、暫定生徒会十二番で副会長と会計と書記を兼任する女子……鍋島奈央がニコリと笑ってシメに入る。
「さてさて! それじゃあ島津さんを含め、十番の皆さん? ……さっきの条件で了承してもらえるかな~?」
その言葉に、十番会長、島津貴大が頷く。
「こちらとしては異論は無い。……むしろそっちはどうなんだ?」
「もっちろん! オッケーですよ~!」
軽快に答える鍋島に目もくれず、島津が続ける。
「君ではなく、会長から話を聞きたい。……個人の本音を言えば、俺がアンタだったらとてもじゃないが納得できない」
え~?と鍋島は口を尖らす。そして水を向けられ、もう一人の来訪者、十二番会長の龍造寺鉄雄が口を開く。
「大丈夫。異論は無いよ。……それじゃ、鍋島」
彼は三つの腕章を持った女子に目を向け、言った。
「後は任せた」
重厚な一言。その重みを感じているのか否か、彼女は敬礼をしつつ、軽く返した。
「大丈夫だよ~鉄ちゃん!」
それに苦笑しつつ、彼は言葉を放った。
そして、それは龍造寺にとって、会長としての最後の一言となった。
「とんだ失態だったわね……」
ベッドの上。頭を抱えつつ、大谷が呟いた。
「いや、でも助かったよ」
「どうして?」
「……あと少しで俺も倒れそうだったから」
いや、本当に。ベストタイミングだった。
「……バカね。それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「もう起き上がれるのか?」
少ししか横になっていないはずだ。また倒れられても困る。
「えぇ。大分良くなったわ。大丈夫よ」
そう言われては止めるわけにもいかず、俺たちは保健室を去った。
……保健室の先生がひたすらに俺を監視してて気まずかったし。……何もしてないのに。
保健室から出ると、やけに中央校舎がざわついていた。
人だかりを追い、掲示板を見る。
そして、そこには……。
「嘘だろ……?」
『暫定生徒会十二番。十番に政策を託し、解散』
南校舎での決着が、話し合いでついてしまったのだ。
龍造寺が率いる十二番が解散。
そんなことがあるのだろうか?
十二番には、鍋島奈央が居る。
それなのに……?
この何とも言えない気持ち悪さ。
それによって、具合の悪さはどこかへ飛んでいった。




