四月の支持率
ゴールデンウィークが明けた五月。
中央校舎には一枚の紙が張り出された。
そこに書かれていたのはグラフ。四月下旬時点での暫定生徒会の支持率だ。
俺たちは七番仮室に集まっていた。
顔を付き合わせて見ているのは、一枚の紙。それを見つめる役員の顔はどこか浮かない。
「……あれだけ頑張ったのにね」
皆を代弁するように、脇坂が呟く。
No.01伊勢…………26.2%
No.03大江…………25.9%
No.06伊達…………03.6%
No.07木下…………10.8%
No.09松平…………07.1%
No.10島津…………10.4%
No.12龍造寺…………10.6%
無効票…………05.4%
あれだけの大立ち回りを披露しても、結果は芳しくなかった。確かに一番の伊勢、三番の大江には敵わないだろうと思っていたが、これだけ違うとは……。
「やりきれないのは、傍観組とも大差がないと言うことだな」
そう言うのは加藤兄、海斗。
十番の島津、十二番の龍造寺と僅差。
「地力の違いというか……ここに来て改めて、僕たちは不利なんだって気づかされたよな……」
片桐は唖然としている。今回、交渉で頑張っていただけに、納得いかないのだろう。
「な~に言ってんだ! 一年生主体の暫定生徒会が、ここまでやってのけたんだぜ?大したモンじゃねぇか!」
一閃。
会長は、その空気を断ち切るかのように言った。そして、ニッと笑って続けた。
「オマエらだって分かってんだろ?……まだまだこれからだ、ってさ」
空気が変わった。木下の一声が空気を変えた。
「それじゃ、今後について話していくぞ」
仕切り出す。会長に流れを変えてもらったんだ。ここからは俺の仕事だ。
「俺は、今月中にどこかと相対したいと思っている」
石田くんの放った一言に、室内がピリッとした雰囲気に包まれる。
「何かあるか?」
「じゃあ、僕が一つ……」
石田くんに応じたのは片桐くんだ。
「攻めるとしたら、どこを攻めるんだ?」
片桐は続けた。
「……正直言って、スキが無いと思うんだ。僕たちより支持率が低い、伊達にしたってサバイバルゲーム部を引き連れているんだろ?……僕たちとの相性は最悪だ」
「……伊達の参謀も侮れないらしいよ」
同調したのは、各暫定生徒会を調べていた平野。その後ろ楯に確信を得たのか、さらに片桐は続けた。
「かといって、未知の松平に勝負を挑むのも……リスクがあるんじゃないか?」
「……なるほど」
片桐の言い分はもっともだ。
「と言っても、動かないわけにはいかないだろ?」
「あのさ?」
と、加藤妹、清奈が恐る恐るといった感じで手を挙げた。
「みんな、ナチュラルに南校舎の二組を候補から外してるけど……何で?」
あー……っと、皆が下を向いた。てか、こいつホントに何も分かっていなかったのか。
「……そこからか」
「え!?ゴメンゴメン!……というか分かってないのって私だけ?」
シーン、とそんな効果音が聞こえるくらいの静寂。
「そ、そんなこと無いよ!私だって……ゴメン。分かってた」
「フォローするなら最後までやってよ!?」
脇坂のだめ押しによって、清奈は半ば泣きそうだ。
「どっちかに絞れるのを待ってんだろ?」
話が逸れそうな所を、糟屋が戻す。
南校舎にいる島津と龍造寺の両組はこの結果を受けて、恐らく本格的に勝負し合うだろう。
ならば、それを待てば良い。
「……ただ、向こうの動向は予想できないわよね」
大谷が言う「向こう」はただ一人の女子生徒を指しているのだろう。
鍋島奈央。副会長と会計と書記、三つの腕章を持つ女子。
彼女は心理戦が得意なようだ。調べ尽くした情報を使い、相手を揺さぶる。
そして、彼も……。
この前の対面時、過去を持ち出され、揺さぶられた。
私が「あのこと」を早く告げていれば……。
「大谷?」
彼に話しかけられ、慌てて思考を止めた。
「で、結局どうするんだ?」
福島が聞く。
……お前、さっきまで寝てたよな? 何を偉そうに……!
「やれやれ!」
と、声が響く。声の方へ振り向くと、会長が椅子の上に立っていた。
「オマエら全然ダメだな~?……やっぱこの会長サマがいないことには始まらねぇか?」
「よし!もう少しちゃんと話し合うか」
「待って待って?ごめんなさい。話を聞いて?」
チョコン、と椅子から降りて座る。
「で、何ですか?」
大谷が冷たく問う。怖ぇよ……。
「んっんん!」
咳払いをした後、会長は高らかに言った。
「ボランティアだよ……!」
静寂。そして……。
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
会長以外の役員全ての息が、ピッタリと合った。




