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生徒会政争  作者:
16/29

閉幕と黒幕

 北から東、南を経て、四番仮室に辿り着いた時、その光景を見た。


 椅子にもたれ掛かり、天井を眺める七番生徒会の書記、片桐優馬。

 椅子から立ち上がり、その片桐を見つめる四番生徒会の会長、最上光太郎。


 俺はこの時、片桐が負けたと思った。

 しかし、よく見ると違う。

 最上が悔しげに顔を歪めているのに対し、片桐の顔は達成感で満ち溢れていた。


 彼は、交渉に勝利したのだ。






「ふー……」


 一時はどうなるかと思った。だが、あの一撃を機に形成は逆転。無事……とまでは言えないが、勝利は掴み取れた。

 ようやく荷が下りた、と思ってしまうのは自分がまだ未熟者だからだろうか。


「こんなことをいっつもやってるのかよ……石田?」


 頭をフルに使って、口を動かし、目で相手の動きを確認して……。

 喉はカラッカラで、頭も痛い。ハッキリ言って、かなりキツい。……けれど。


「……頼りにされるってのも悪くないかもな」


 駆け寄ってきた糟屋や脇坂の顔を見ながら、僕はボソッ、と呟いた。






「……結局ボクも踊らされていたって訳か」


 最上がふと呟く。

 踊らされていた? ……最上が?


「どういうことだ?」


 最上は俺の無知を嘲笑し、言った。


「今日の一件を仕組んだのはボクじゃない、ってことさ」

「会長! それ以上は!」


 四番の役員たちは慌て始める。

 ……上にいる存在。全てを仕組んだヤツがいる。

 最上は役員の反応に苦笑いする。


「分かってるよ。……じゃあ、ヒントだけ。ボクを屈服させたご褒美だよ」


 一度片桐を見た後、彼は告げた。


「今日の一件で、傍観していた暫定生徒会。……その中のどこかが仕組んだ罠だ」


 そう言って、彼は背を向ける。

 暫定生徒会No.04は解散した。






 東校舎の伊勢、松平。西校舎の大江。南校舎の島津。

 この中に全てを仕組んだヤツがいる。

 ゾクッとすると同時に、僕は少しワクワクしてしまった。今日、この勝利の味を覚えてしまったからだろうか。










 この後、東校舎で行われていた、八番会長、武田晴輝と五番会長、長尾美景の平和的対決も決着した。

 何十分にも及ぶ激戦は、長尾美景に軍配が上がった。

 第一剣道部主体の暫定生徒会八番は解散。そして、この後を追うように勝利したはずの、第二剣道部が集まった暫定生徒会五番も解散した。




 武田晴輝はその少し前に俺たちの七番仮室を訪れて言った。


「第一剣道部が勝手に暴れたことだ。お前らが政権を得たら、第二剣道部の予算に支障が出ないようにしてくれ」




 ほぼ同時期、長尾美景も解散前にこう言い残した。


「第一剣道部も悪気があったわけではないし、予算などで不利にならないように取り計らってくれるか?」




 お互いがお互いを庇い合い、思いやる。仲直りのきっかけさえあれば、彼らは……。

 外の天気は落ち着きを取り戻し、虹がかかっていた。


 「雨降って地固まる」。剣道部の地が固まるのは、恐らく遠くはないだろう。









「へぇ……。最上が敗れた、か」


 男は、将棋盤の北側に置いていた「桂馬」を取り除いた。

 続いて、北側と東側の「金将」を二つ持ち上げる。


「さらに、武田と長尾が共食い……」


 持った二つを盤から下ろす。


「残っているのは、歩兵、桂馬、香車、銀将、飛車、角行……」


 そして……。


「俺たちの王、だな」


 長い髪が片目を隠している男は、玉将を手に取って呟いた。


「おい、何やってんだ?」


 新たな男が部屋に入ってくる。影が大きい男だ。


「あぁ、勢力図の確認を……」


 ガシャァン!


 大音が響く。大きな男が、盤上の駒を全て手で払ったのだ。下に落ちる駒。


「……こうすれば、良いんだろう?」

「相変わらず荒っぽいなぁ……」


 やれやれ、と細めの男は駒を拾い上げながら呟く。


「……七番生徒会、成られたら厄介だな」


 彼の視線の先には、落ちた衝撃でたまたま裏返っていた歩兵。



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