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生徒会政争  作者:
15/29

ビターメモリー

 混濁する意識の中で、とある記憶が目を覚ます。

 忘れもしない話。

 忘れたくても忘れられない話。

 俺が、口を、活力を、希望を、恋を、何もかもを捨てることになった中学二年の秋。

 苦く苦しい、過去の話。




「私が思うに……」


 中学二年の俺は、今よりもはるかに快活だった。ペラペラといつも話し、喋っていないと死ぬのでは? と疑われた程だ。

 運動は苦手。だからこそ、喋る能力で相手を負かすことができる口論や交渉にハマった。そこでは敵無しだった。


 そんなある日、事件は起きた。


「鞄を机の上に置き、荷物を全て出しなさい」


 甲斐(かい)という女子生徒の給食費が盗まれたという。そして始まる持ち物検査。もちろん自分は犯人ではないので、パパっと中身を出して頬をついていた。


「え?コレって……」


 隣で不思議そうに驚く声がした。

 俺の隣の席にいる吉松(よしまつ)という女子生徒の鞄から、その封筒は出てきた。




 調べてみると、その中身が無い。吉松が職員室で尋問されている間、俺は誰に頼まれてもいないのに頭を働かせていた。


 その時、俺は確かに純粋な気持ちで推理を楽しんでいた。だが、あそこまで一生懸命になったということは、やはり少なからず彼女のことを想っていたのだろう。下心が無かったといえば嘘になる。


 そして、俺は事件の解決へと動き出した。


「甲斐さん。あなたは自分で使い込んでしまったんじゃありませんか?」


 中学二年なんて大人なようで、まだまだガキだ。

 表情を隠すこともなく、あからさまに甲斐は動揺した。

 俺はいつもよりも苛烈に責めた。いつものように感情を考えることもせず、ひたすらに責めた。

 そして、真実を話すと誓わせた。

 俺は満足げに立ち去る。

 真相を明らかにすれば、犯人は罪を償い、皆は幸せになる……そう信じていた。

 甲斐だけではない、俺もガキだったのだ。




 昇降口に出たところで、同年代の男子に囲まれた。

 何だ、と声を出す間も無く、校舎からの死角である昇降口横に連れていかれる。

 その後のことはよく覚えていない。

 ただ、気がついた時、俺は地面に寝転がっていた。

 まず感じたのは、草と土、そして、鉄の匂い。

 次に全身に鋭い痛みを感じ、俺は病院に運ばれた。




 ここまでの記憶も確かに辛い。

 だが、俺が本当に絶望したのはその後だ。

 二週間の入院生活から解放され、教室へと入った時に気づいた。

 彼女の、吉松の席が空いていたことに。

 彼女は転校したらしい。

 どうしようもないくらいの後悔。

 そして感じる無力感。

 俺のせいだ……俺のせいで彼女は転校に追いやられたに違いない。


 俺は、口を閉じた。









「…………くん……い……だくん! ……石田くん!」


 ハッと目が覚める。

 温かい。

 よく見ると、俺は大谷のふとももを枕に寝転がっていた。覗き込んできた大谷と目が合う。


「…………良かった……!」


 今にも泣きそうな程だ。

 そんなに心配してくれたのか……。

 改めて今の置かれている状況を考えると、妙に恥ずかしい。

 起き上がろうとしたが、大谷の人差し指が額を押し、俺の動作を止めた。


「……まだ寝ててもいいわよ?」


 穏やかな笑顔。どことなく「彼女」に似ている。

 今では彼女もこうして、笑っていられるのだろうか?

 分からない。俺は……。


「大丈夫」


 問いかけではなく、断言。


「あなたは間違っていない。……大丈夫だから」


 その一言は今の俺にとって、何よりも響いた。


「もう起き上がる?」

「……あと三十秒」

「そう……」


 南校舎には……いや、この世界には俺と大谷しかいないんじゃないか?

 そう思うほどの静寂。


「はい、三十秒。起き上がって」

「……えぇ? 何でそんなにきっかり三十秒? ……まぁ、お前らしいけどさ」


普通、多少の融通は利かせるだろうに。


「ふふ。行きましょう。紗香ちゃんには、先行して状況を説明してもらっているから」

「あぁ……!」


 乱れていた腕章を直し、進み出す。

 大谷には何か礼をしないとな……。


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