マシーン
「まず、僕たちから求めることが二つあります」
……あぁ、この感じだ。
「一つは先程の発言の撤回」
遠くから見ているような感覚。僕の意識が体から離れて、全体を俯瞰しているような。
「もう一つは、あなたたち四番生徒会の解散です」
冷たく、無機質な口調で僕は言う。
走り、七番仮室に向かっていた。もう少しで南校舎だ。そこから少し行けば、西校舎の七番仮室はすぐだ。
「前に糟屋くんから聞いたのだけど……」
大谷が語り出す。
片桐は弁が立つが、それ以上に真面目だ。ゆえに少しでも間違いがあれば放っておけない。
「中学生の時、付いたアダ名は……『粗探しマシーン』だって」
真面目ゆえに、相手の発言を注意深く聞く。そして相手にとって痛い所を的確に突く。
「……石田くんとは正反対のタイプ。感情に働きかけて相手を取り込む『劇場型』のあなたに対して……」
大谷は分析結果を開示する。
「片桐くんは感情を殺し、相手を突き放すような責め。例えるなら……間違いを正す『機械型』」
なるほど。だったら……。
「嘘で固められた最上に、片桐は負けないな」
不思議と確信があった。
「さて、それでは最上先輩の意見を正していきましょうか?」
嘘で塗り固められた壁を僕の手で壊す。
「まず、四番生徒会は北校舎で支持率が高い、と言っていましたね?……でも、それって嘘ですよね?」
一息。
この前、石田や会長が話していたから分かる。
「支持率を問うアンケートは月末に行います。四月のアンケートはこれからなんですよ」
最上先輩の舌打ちが聞こえる。
向こうは知らないと思っていたのだろうか?
それともナメられていたのか。
……どちらでも関係無い。
「最上先輩、あなたはさっき、こう言っていましたね?」
人差し指を先輩に向ける。
……人に向かって指を差すのは少し抵抗があるけど、ここはあえて強気で。
「『生徒会に必要なのは信頼』と。あなたの言葉を引用するなら、生徒会に向いていないのは……」
相手の目をハッキリと見る。
動揺。後悔。憎しみ……その他もろもろの感情が混じり合った目。
……僕には関係ない。宣言する。
「あなた方、暫定生徒会四番です……!」
南校舎に辿り着く。
ここにいる暫定生徒会についても、平野が調べていてくれた。
「……ここは、二組の生徒会が互いに睨み合ってる。一つは島津貴大率いる十番生徒会。もう一つは龍造寺鉄雄が率いる十二番生徒会」
ただ、と平野は続けた。
「十二番で注意すべきなのは会長ではなく……」
「あれあれ~?七番生徒会さんじゃありませんか!」
声がかかる。陽気な声。視線で平野に問うと、彼女は頷いた。つまり……。
「十二番生徒会の副会長、兼会計、兼書記。……鍋島奈央でっす! キラリっ☆」
右腕に二つ、左腕に一つ。
合計で三つの腕章を付けた、こいつが要注意人物だ。
……てか、何故にあのテンション?
「……お前も最上に言われて、俺たちを止めに来たのか?」
「あぁ~。確かに頼まれはしたよ~。でもさ……」
ニッと鍋島は笑った。
「負ける勝負なんてしたくないじゃん? 向こうに対して
な~んの義理も無いしね」
考えてみれば、十二番ではこいつ一人しか出てきていない。
隠れているようにも感じないし、本当にそうなのか……?
「争ってる間に背後から十番が来たら、たまったもんじゃないしね~」
オーバーなリアクションでブルブルと震え、怯えているフリ。
それにしても、と彼女は続けた。
「今回の一件でハッキリとしたね。まだ四月にも関わらず、勢力が割れた。……モチロン、今回傍観していた伊勢、大江、松平、島津のようなトコもあるけどさ。……今後が楽しみだよね~?」
それじゃ、と鍋島は去っていく。
たった一つ、要らない置き土産を残して。
「いや~でもホント……今回は中学の時みたいにならなくて良かったね?」
背を向ける前、ニヤリと笑う顔が見えた。
「っ!」
何でだ……?
何であいつが俺の過去を知ってるんだ?
呼吸が荒くなる。ねっとりとした汗をかき、頭がズキズキと痛む。
「……やめてくれ」
頭を抱え、膝をつく。
「石田くん?……石田くん!い……だくん…………」
大谷の呼ぶ声が次第に聞こえなくなる。
衝撃の後、廊下の冷たさを感じた。
倒れた。そう認識した後、意識は深く沈んだ。




