逆襲開始!
武田晴輝と長尾美景は幼馴染みらしい。
小さな頃、一緒に剣道を始めた仲だそうだ。
高校入学時、たるんだ練習をしていた部長を追い出し、一年生ながら部長・副部長となった。
しかし、とある事件をきっかけに仲違い。剣道部は文字どおり二つに分かれた。
そして現在。自らの手でこの問題にケリをつけるため、二人は生徒会に立候補する。
「生徒会対立制度にのっとり、『平和的対決』を申し込むよ。種目はモチロン剣道。……逃げはしないよね、晴輝?」
「あぁ、良いぜ。……終わらせてやるよ」
青と赤。二つの防具が近づく。
「……今のうちに行ってください」
青の防具を纏った男子がこちらに近づいてくる。刺繍された名字は「宇佐美」。
「すまない。助かった」
「いえいえ。では、また……」
俺たちは駆け出す。彼らとまた暫定生徒会として礼に行けることを信じて。
一瞬の静寂。そして……。
「ヤァァァ!」
「ハァッ!」
竹刀と竹刀がぶつかる音がした。
東校舎を抜ける。
足がきしむが、そんなことを言っていられない。
走りながら平野が珍しく呟いた。
「……私たちの会議は大丈夫かな……?」
「……以上がこの暫定生徒会の問題点だ」
最上先輩の猛攻。
僕は手も足も、口さえも出すことができなかったのだ。
先輩はまず七番生徒会にある問題点を挙げた。その数だけで圧倒される。
「ボクたちの生徒会は二年生主体。その上、北校舎での支持率は高い。考えてもみなよ?急に出てきて、妄言を吐いて……そんな君たちには生徒会として足りないものがハッキリとしている」
僕が何も言わない……いや、言えないのを見て、先輩はニヤリと笑って発した。
「信頼、だよ。君たちはお遊びで参加したとしか思われない」
その言葉は、ひどく重く、僕にのしかかってきた。
「片桐くんが居れば大丈夫よ」
「……本当?」
平野の問いには大谷が答える。
「……片桐くんの交渉は、石田くんに劣らない実力よ」
大谷が分析して言うならそうなのだろう。
後の課題は……メンタル面。
「彼の気の弱さが問題ね……。誰かがスイッチを押してくれれば……」
「それなら心配ないな」
だって、あそこには他人のスイッチをポンポン押しまくる木下がいるのだから。
「僕は……」
無力。
何も言い返せない。
……いや、良いんだ。どうせ僕に出来るのは時間稼ぎだけ。
続けなきゃ。このまま会議を終わらせてはいけない。
何か喋るんだ。
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
けれど、膝は震え、前を向けない。
そうして文字どおり膝を屈してしまいそうになった時、声が響いた。
「片桐ー!心配いらねぇよ。……思いっきり行ってみろよ」
暖かい。何だよコレ。普段はイラつく声なのに……。
「何でこんなに落ち着くんだよ……」
平手打ちを自分に一発。
前を向く。
相手をよく見るんだ。
そして考えろ。
「あれ?」
脇坂は片桐の変化に気がついた。目の色が変わり、落ち着いて相手を見つめている。しかし、その目はどこか冷たく、脇坂はこう思った。
「何か……片桐くんじゃないみたいだね……」
「見えた……!」
気づいたのだ。
先輩を攻めるための活路に。
息を吸う。いつもより深く。そして吐く。
……冷静になれ。
一言、宣言する。
「……今度はこちらのターンですね」
その機械のような一言に、最上は一瞬、背筋を凍らせた。




