東校舎の赤と青
「七番生徒会、とにもかくにもココは通行止めだ」
六番生徒会長、伊達龍哉はそう言うと、後ろにいる役員に指示を出す。
「構えろ……!」
一声によって、一斉に、全ての役員がエアガンを構える。その部活に大谷は思い当たったようだ。
「サバイバルゲーム部……」
思わず舌打ちが出る。この廊下を通るには、全ての役員と相対し、倒せ。そういうことだ。……不可能だ。
「遠回りだが、東校舎に向かうぞ!」
駆け出す。
しかし六番生徒会はそれを止めなかった。ただ、通りすぎる時に伊達はこう呟いた。
「ハハハ、何もかも思い通りだな、最上センパイ?」
自分でも弁は立つ方だと思う。
しかし交渉は苦手だ。
交渉は、言葉を使って相手の首を徐々に絞めるような感じがする。
相手の元気がだんだん無くなっていく様子を見るのが嫌で、いつも譲ってばかりだったのだが……。
「……今日は譲れない」
まさか先輩に楯突くことになるとは。僕、片桐優馬の人生で初かもしれない。
最上先輩は最初は狼狽えたものの、今ではペースを取り戻している。
これはつまりナメられているのか?
「片桐くん、だっけ?それじゃ、話し合おうか」
「は、はい!」
ナメるならナメれば良い。僕の力を思い知らせてやる!
走るとすぐに息が切れる。
俺はこんなに運動不足だったか?
それでも女子二人の手前、バテるワケにはいかない。
「……東校舎は四校舎の中で、最も多い五つの暫定生徒会が集まっている」
移動中、平野はそう言った。急に広報へ任命したのにも関わらず、彼女は各暫定生徒会のことをよく調べていた。
「ただ、その内の一つ、今川良樹率いる暫定生徒会二番は解散したみたい」
「どうしてだ?」
「……暫定生徒会一番との生徒会政争に敗れたから。そこの会長、伊勢真守はかなりの人物らしいよ」
「伊勢、か……」
所信表明演説の時、後ろ姿だけなら見た。威圧感は確かに背中からでも伝わってきていた。
「そこら辺が味方につくかどうかだな……」
「ま、少なくとも俺らは味方につかないけどな?」
ハッと気付き前を向く。
そこには竹刀を持ち、赤色の刺繍で統一した防具を着けた集団が立っていた。
その内の一人が前に出て、面を外す。
そしてその右腕には腕章。
「第一剣道部主将兼暫定生徒会八番会長、武田晴輝だ。……残念だが俺らは七番とは手を結ばない」
武田はそう言うと、敵対の印とばかりに俺に向かって竹刀を振ってきた。
「ボクから攻めさせて貰うよ」
そう前置きすると、最上先輩はキツネのように鋭い目をさらに鋭くする。
「君たちのマニフェストは目立ちたがっただけの空虚なモノに過ぎず、君たちが描く理想の学校像も『絵に描いた餅』となることは必至だ」
唖然とする僕に見向きもせずに、最上先輩は木下会長に指をさし、告げた。
「君たちのような暫定生徒会は解散するべきだ!」
早くも喉が乾燥している。おかしいな。さっきまでは大丈夫だったのに……。
「あれ?」
痛くない。
手を抜いた?
寸止めをした?
そんなことが頭によぎるが、そんなはずが無い。
あれは完全に当てるつもりだった。
と、知らない影が割り込んでいるのに気づいた。影は声を発した。
「晴輝ィ?アンタ生身のヤツに手を出すほどクサッちゃったの?」
「……ちっ。うるせぇのが来た」
顔に目をやる。
面以外の防具を身に付け、頭には手拭いをまいている。
女子だ。防具に青色で刺繍された文字は「長尾」。
彼女も後ろに青い集団を従えている。
こちらにも当然のように右腕には腕章があった。
「第二剣道部主将、プラス暫定生徒会五番会長、長尾美景!七番生徒会に加勢を宣言し、八番生徒会に平和的対立を申し込むよ!」
思わぬ敵対と、思わぬ加勢。校舎をグルグルと回っているからか、頭までこんがらがってきていた。




