春の嵐
「それじゃ……行くか」
放課後。
俺は生徒会政争のため、北校舎にある四番仮室へと向かおうとしていた。
窓が震える。
朝のニュースによると、今日は全国各地で雨や風が強くなるらしい。
テロップに書かれていた単語が、なぜだか頭から離れない。
「春の嵐、か……」
風が鳴いている。
北校舎。
その三階にある四番仮室へ行くには、西校舎二階にある渡り廊下を使用するルートが最も近く、速い。
他のルートは一旦中央校舎を通過して進むルート。
そして、南校舎から半時計回りに進むルートなどあるが……わざわざ半時計回りに進む意味なんて無いよな。
そんなことを考えているうちに、目的地に辿り着く。
……始まるわけだ、生徒会政争が。
モードを変え、気合いを入れ直す。……よし!
「……失礼します」
俺はゆっくりとドアを開けた。が、そこにいたのは一般役員たちだけだった。
「会長の最上はまだ来ていませんので、こちらでお待ちください」
「そうですか。では……」
……とんだ拍子抜けだ。石田くんは笑顔を浮かべているが、内心はそう思っているだろう。
しかし、それにしても……。
「……何だろう、この感じ……?」
あのようなタイプの人が遅刻などするだろうか?何かを仕込んでいるような……流石に考えすぎだろうか?
横に目を向ける。
紗香さんは無言で私の右側に立ち、左側の石田くんは何やら考えている様子だ。
やがて、三十分ほど経った頃、突然、彼は立ち上がり叫んだ。
「やられた!」
私の手を取り、彼は扉へと駆けた。
「どういうこと?」
尋ねてくる大谷の手を取り、平野に出発の合図を出し、暫定生徒会四番役員たちの嘲笑を受けながら、俺は駆け出した。
「ハメられたんだよ……!恐らく最上が現在いる場所は……」
一度息を整え、叫ぶ。最悪の展開だ。
「俺たちの本拠……七番仮室だ!」
「待ってても来ないものだから、こちらから来てしまったよ。……それじゃ!会議を始めようか?」
アイツらが向かってから数分後、最上はぬけぬけとそんなことを言って、俺たちの前に現れた。
「まんまとハメられちまったわけか」
まあ、アイツらを責めることは出来ねぇけど。
アイツらに任せっきりにしてしまった俺の責任。
俺がバカだったための結果だ。
「さて、木下大喜。始めよう?」
最上はメガネを一度上に上げ、ニヤリと笑う。
「……しゃーねぇか」
コイツの鼻をへし折ってやりてぇが……俺はバカだからなぁ。ま、やるしかないか。
「待ってください!」
声が響く。
「生徒会対立制度の規定には『上位役職者に対決を挑む場合、先に下位役職者との対決し、勝利する必要がある』……とあります!」
……良くわからん。「魔王様と戦うには、まず俺を倒すことだー!」みたいな感じか?
そして、震えた声で俺の後輩は続ける。
「暫定生徒会七番の書記、片桐優馬です!会長との会議の前に……ぼ、僕との交渉をお願いします……!」
片桐は怯えながらも、堂々と宣言していた。
「急ぐぞ!まだ間に合うはずだ!」
階段を駆け降り、渡り廊下へ向かう。
だが。
「……すいません。ここは通行止めでーす」
渡り廊下には四番生徒会の役員と思われる生徒が道を塞ぐ。
無理矢理通る隙間も無い。数が圧倒的に多いからだ。
「……中央校舎に通じる廊下、あるでしょ?あそこならきっと大丈夫よ」
大谷の助言に従い、向かった先にはまたしても人混み。しかし、雰囲気はこちら側の方がどこか血気盛んだ。
「くそ……」
「悪ィな、七番生徒会代表。案外テメェらって、敵が多いんだぜ?」
人だかりの中から一人の生徒が現れる。
組章は俺たちと同じ緑色。
そして……俺たちと同じように右腕に腕章をしている。各暫定生徒会の情報を集めていた平野が呟く。
「……暫定生徒会六番、生徒会長の伊達龍哉」
窓の外の雨は、より強さを増してきている。




