暗躍
「明日の放課後、ボクたちと生徒会政争をしよう」
乗り込んできた暫定生徒会四番の会長、最上光太郎はそう言ってメガネを上げた。
「ボクたち四番生徒会としても、交渉によって解決したいと思ってるんだ。スポーツで生徒会を決めるなんて変だしね?」
最上先輩はハキハキとした口調で続ける。頭の中では警戒アラームがうるさく鳴っているが、今まで聞いた内容で、罠のようなものは感じられない。
「……私たちとしても嬉しい限りです」
顔に笑みを浮かべる。相手に感情を読まれないためのマスク。
「では、明日。ボクたちの本拠、北校舎の四番仮室へ……」
そう言うと、最上先輩は背を向ける。そして最後にこう呟いた。
「……お茶を用意して待ってるよ」
石田くんは扉をしばらく見つめた後、私たちに尋ねた。
「……どう思う?」
突然の宣戦布告。余裕ぶった態度。怪しい。しかし、それを具体的に説明できない。何というか……。
「……気持ち悪いわね」
「千鶴ちゃん!?」
「ストレートすぎない……?」
安菜さんと清奈さんが盛大に勘違いしているけど、今はスルー。
「何か企んでいる気がするの。……うまく言えないけど」
「別に企んでいようが関係無いんじゃないか?」
そう口に出したのは福島くんだ。
彼は交渉で決着、ということに不満なのか、若干投げやりに言った。
「どうせ、石田が何とかするだろ?」
あ……この言葉はマズい。
彼の性格なら間違いなく……冷静さを失って飛びついてしまう。
止めなきゃ……!そう思ったのと、彼が言葉を放ったのは同じタイミングだった。
「……当然だ!」
意識はしていない。しかし、声は出ていた。
俺は中学時代とは違う。
「期待には必ず答える。……大谷と平野、明日は付いてきてくれ」
「ちょっと待て!僕も連れていけよ!」
片桐が叫ぶ。確かに片桐と一緒に挑んだ方が得策か……。
「分かっ……」
「ダメよ。片桐くんはここに残って」
俺の言葉は大谷に遮られた。
「何でだよ!?」
片桐くんは半ば泣きそうだが、ここは譲れない。
「……言ったでしょ、気持ち悪いって。何かあったときのために残ってて」
当たってほしくないけれど……。
私のこういう勘って当たっちゃうのよね……。
片桐くんがしぶしぶ了承するのを横目に、私は今回の件に不安を感じていた。
何も起こらないことを願うことしかできない。
「……あぁ、明日だ。他の連中にも知らせといてくれ」
最上光太郎はスマートフォンを耳に当て、話をしていた。
「え? ……分かってるよ。抜かりはないさ」
四番仮室内。奥に置かれた大きな椅子に腰掛けながら、彼は続けた。
「今回で、七番生徒会は確実に潰す。解散まで持っていけなくても、迂闊に動けないようにしてやるさ。……じゃあね」
通話を終え、部屋を見渡す。
そこには綺麗に並んだ役員たち。
指示を待つ彼らに対し、最上は大きく手を振り、言葉を放った。
「さぁ、明日のパーティーに備えようか」




