8話 武器ゲット
341号室という部屋へと入る。
と、同時に鍵を閉めて全員が被り物をはがす。暑い。
中は薄暗い。
明かりを得るために電気をつけようとしたが、カーテンがあったのでそれを開ける。
暗かった部屋は太陽に照らされて光が差す。
部屋はあまり大きくない。いや、部屋自体は大きいかもしれない。
二段ベッドが一つありその向かいに普通のベッドが一つ。
これらで部屋の大多数が埋まっている。
壁際には服をしまっておくクローゼットがある。
中を開けてみるが私服は大してない。あまり洗濯はしないのか臭いのですぐに閉める。
ベッドの間にはテーブルがある。これがあるせいで窓までの道はかなり狭い。
テーブルの上には初めて見る形状の銃と、普通の剣が二本鞘に収まっている。
俺が使ってる銃は大体70cmほどの細長い物で無駄な装飾が一切ない味気ないものだ。
ここにある銃は装飾がないところまでは大体同じだが俺のより僅かに短い。
代わりに銃の下部分に奇妙な湾曲をしたものがついている。
決定的に違うのは魔石をはめる場所が三つある。俺のには一つしかない。
その近くにボタンのようなものもある。
使い方はいまいち分からないけど三つつけられるってことは連続での戦闘において隙を作りにくくしてくれるはずだ。
他にも指輪の形をした様々な色の魔石がいくつかある。
銃専用の魔石が入ってると思われる手に収まるサイズの袋が一つ銃の近くに置かれている。
その内の一つにイエニが目をとめる。
目は輝いている。子供か。
「これ、風と水の混合魔石よっ」
どこか興奮気味のイエニは指輪になっている魔石を手にとって騒いでいる。
こらこら。隣の部屋に響いたらどうするつもりだ。女だって一発でばれれば、フォローできないぞ。
「なあなあ、アクティス。混合魔石ってなんだっけ?」
イエニが持つ魔石は緑と青が半々。
混ざり合ったわけではなく、それぞれが独立している。
あれが、混合なのか?
普通のと何が違うのだろうか。
「……君は学校で何を聞いていたんだ」
どうやら、習っていたようだ。
だけど、俺は実戦以外はほとんどの授業を寝ていた。
ようはあまり机に張り付いて学ぶことはしていない。
アクティスの代わりにイエニが興奮冷めやらぬ状態で説明してくれる。
鼻息が荒いぞ、イエニ。
「混合魔石は二つの魔法を扱うことができる魔石のことよ。自然で生まれることも稀にあるけど多くは人工的に二つの魔石をあわせて作るものなんだけど、魔力の波長が相当似てるもの同士でないと組み合わせができないからほとんど出回ってないのよ」
珍しいってことか。
「それってスゲェ奴じゃんっ!」
「だから、嬉しいのよ! 遅いわよ!」
つまり、スリエンスは高い科学技術によって作った又は俺達が捕まえた男が偶然にも数少ない混合魔石持ちだったと言うわけか。
でも最低の兵士でさえここまで持っておけるのだからやっぱりいっぱい出回っている可能性が高い。
「混合魔石は二つの魔石分の力を持っているからチャージも二つ分できるしな。小さいがかなり優秀なものだ」
アクティスの補足説明に俺はへぇと感嘆する。
この二人っていつの間に勉強してたんだろな。
よく学校抜け出して遊びに行ってた俺とは色々違うみたいだ。
優等生なんだよなぁ、この二人。
どちらかというと落ちこぼれの俺。
「チャージって、何?」
「……おまえ、ほんと馬鹿だな」
うっさい。もう、分かってるんだからいちいちつっ込まないでくれ。
開き直った俺に対してアクティスが簡単に説明してくれる。
「魔石はただ、持ってるだけじゃ魔法が使えないだろうが。魔石事態に魔力を溜めておき、自分の魔力と合わせて初めて使えるんだろうが」
ほう、なるほどね。
アクティスはテーブルの上の物を掴む。
「グレムが銃で、おれとイエニが剣でいいか?」
イエニは別にいらわないわよ、と受け取りを渋る。
魔石で既に満足なようだ。
「そういうわけにもいかないだろ。この基地では一人一つ武器を持っていたのだからな」
アクティスが押し付けると、イエニが嫌そうな声をあげる。
「むぅ、邪魔なだけなのよ。剣とか使って戦うなんてあたしには不向きよ。なんたってか弱いからね」
「ぶふっ!?」
ぷぷ、この中で1、2を争う奴がか弱いって? 俺から言わせて貰うならこの中じゃ一番俺が温厚だ。
後の二人はどっちも危険。制御の利かない馬みたいなものだ。
「なんで、笑ったのかしらぁ?」
声が震えている。にこにこ笑顔を携えたまま手の骨を鳴らして迫ってくる。
やべ、怖いときのイエニだ。悪かった、話せば分かるから拳を下ろしましょう、イエニさん。
「こんな場所で痴話喧嘩をするな。あとにしろ」
「誰が痴話だ!」
アクティスが珍しく仲裁に入り銃を渡してくる。
イエニも「じゃ、じゃあ、喧嘩したほうがいいのかしら。痴話だし……」とか夢見ごこちな感じで頬に手を当てて体をくねらせている。
見なかったことにしよう。
銃をいじってみる。いくつか使い方が分からない場所があるがそれ以外は俺のと変わりはなさそうだ。
基本は魔石を嵌めて、トリガーを引くだけだ。
銃はこの白色の魔石から魔力を吸収して弾を作り敵に撃つことができる。
俺が持っている白魔石も使用可能のようだ。
この白魔石は通常使い捨てとされることが多い。
なぜなら属性魔石――火、土、水、風など――に比べて魔力のチャージにも時間がかかるからだ。
街とかの街灯はこれを元に作られている。
白魔石の何色にも染まらぬ魔力は様々なエネルギーに変換しやすいそうだ。
「ん?」
銃に必要と思わしき、袋に入った魔石をがさごそしていると火、土、水、風の色がついた魔石が発見される。
圧倒的に多いのはやはり白だが、属性魔石も各2個ずつくらいはある。
おかしい。
属性魔石は魔力が高く、銃に装填すると既定の量を超えてしまいオーバーヒート。
最悪壊れる。だから、普通使わないんだけど。
銃の持ち主は魔法も使えたのかな?
「……属性魔石まで入っていたのか」
「うおっ!?」
び、びっくりした。
突然耳元で声がしたと思ったら、アクティスの渋めの声が耳を襲う。
振り向けば強面がいるのだから、もう二重で心臓が止まるかと思ったぜ。
「顔を近づけるなよ。びびっただろ」
「いや、数回声をかけたのだがどうも心ここにあらずみたいな感じだったからな。それにしても属性魔石か……一人の兵士がこれほど魔石を持てるなんてどうやらスリエンスは魔石も相当保有しているようだな」
俺達の国も結構魔石にはゆとりがあるが、それでもこの量は異常だ。
イエニだって一つしか魔石を持っていないんだから。
それに、白魔石が便利といってもやはり属性魔石のほうが生活では使われることが多い。
火とか使うなら火魔石を使ったほうが白魔石よりも効果は高いしすぐに使えるのだ。
ここまで戦場に持ち込めるということは、生活よりも戦争を重視しているのか、単に一杯持ってるのかのどちらかだ。
「ね、ね。属性魔石ちょうだいよ。あんたどうせ魔法使えないでしょ」
イエニが両手を出してにこっと笑う。
喋らなければ相変わらず可愛い、無邪気な笑顔だ。
それにしても、心外だ。
確かに本当のことだけど。
あまりにも率直な言葉でちょっと涙が出そうになったよ。
俺は魔法の才能は欠片もない。兵士学校で魔法の授業を受けなくなったのはそれが発覚したからだ。
必要ないものを受けても意味がないからな。
魔法が苦手なアクティスでもちっちゃい火を出す程度の魔法は使える。
魔法を使うには対応した属性の魔石と、魔石に補給された魔力を引き出す才能があれば可能だ。
俺にはそれがない。
アクティスが言うには、魔石の魔力が失われた瞬間にその魔石はただの石ころとなる。
チャージできるらしいが結構時間かかる。
よく考えて使わないとすぐに使用不可になるという恐ろしいのが魔法だ。
その分便利でもあるし強力でもあるんだけどね。
色々文句垂れても俺が属性魔石を持っててもどうせ宝の持ち腐れだ。
使える奴に持たしておいたほうがいいに決まってる。
魔法は、多くても十回程度で魔石の魔力が切れてしまう。
強力な魔法なら減りはもっと早い。
苦やしい思いを胸に抱きながら袋から属性魔石を取り出しイエニの手に置こうとしたら、待ったが入る。
「もしかしたら……」
アクティスが顎に手をやり思案する。
「スリエンスは属性魔石により魔法銃の運用を可能にしているのかもしれない」
……!
なるほど。その考えはなかった。
そうなると白魔石と一緒に乱雑に袋に入っているのも頷ける。
イエニも盲点だったと目を開いている。
残念そうにしている。
「んじゃ、これは俺のな」
握った魔石を見せびらかすようにして袋へと戻す。
イエニは情けない顔でしまわれていく魔石達を見つめていた。
ははは、俺を馬鹿にした罪さっ。
「いつ戦闘になるか分からないから試し撃ちしてもらいたいところなんだが……」
「任せろ!」
俺は即座に火魔石を取り出して丸い隙間にはめる。
トリガーを引いてみるが、何も反応しない。ボタンを押してみるか。
ボタンを押すと赤く光る。お、なんか銃が心なしか光ってるような気がする。
魔石と銃のはまる部分の大きさはピッタリではないが、落ちない。
銃と魔石の間での魔力のやりとりが糸のようなものらしく、それで繋がっているのだそうだ。
あまり知識については自慢できるものはないけどさすがに自分の使う武器なら多少は知っている。
「待て、馬鹿!」
アクティスが待ったをかけてくるが、かんけぇねえ!
思いっきりベッドに向かってトリガーを引くと、ずだだだだと銃弾が無数に飛び出した。
赤い閃光を放ちながらベッドを苛める魔力弾。
そして、引火。
おおう、すげぇ。
しばし呆然とトリガーを引きっぱなし。
「か、火事よ!」
イエニが慌てて魔法を唱えて発動する。
水魔法で火はすぐに消火される。
おっととと、止めないと。
トリガーから手を離すと銃弾の嵐は止む。
おお! これ連射機能があるのかっ!
やべ、なんかすっげえ感動だ!
銃が剣に劣るのは主に狙いがつけにくいのと威力の低さがあげられる。
銃は相手の素顔にぶつけないかぎり、さしたるダメージにならない。
スリエンスの奴は顔を覆う兵士服に身を包んでいるから効果がないのだ。
だが、衝撃はあるので何度も身体にぶつければ殺すことだって可能なんだが、そこで単発式という欠点がある。
何発か当てなくちゃいけないのに、五秒に一回くらいでしか撃てないから俺達の国では銃は雑魚扱いされていたのだ。
これはうまく使えば普通に実戦で活用できる。
やったっ! なんか嬉しい!
「馬鹿かっ!」
ごすと、垂直に隕石が落ちてくる。
なんていう威力だ頭蓋骨がめきって。
「何すんだ、俺の脳細胞が死滅したら全世界に多大な影響がでるぞっ!」
「んな、未来の話はどうでもいい。現在進行形でおれらに迷惑がかかってんだよ! なんでいきなり銃をぶっ放す! 実はお前おれらの敵か!?」
「何を言ってるのさ。俺が敵? ふ、笑えない冗談だぜ」
俺が敵ならとっくにばれてるさ。
潜入とかぜってぇ無理だもん。
「まるで敵に見つけてくださいとばかりに銃を発砲しやがったのはどこのどいつだ」
「……あー、はいはい、理解しました」
ちょっと、面白そうな銃とかにテンションあがってた。
ここは敵陣地だったもんな。自分の家じゃないんだからいきなり発砲すればまずいことになっちまう。
ばれる可能性が高いんだから余計な行動はするな、ってことね。
アクティスのお小言タイム。
俺はぐったりとベッドに体を預ける。
あーだこーだ、お前は俺のなんなんだよ。
少しの時間が経ったがこの部屋に誰かが押し掛けてくることはない。
アクティスは安心したように息を吐く。
「だが、まあ、幸いにもばれてはいないみたいだからいいか。それにグレムの戦闘力が飛躍的に向上する可能性も出たしな」
「そうね。得たものは中々大きいわよね。いつもは邪魔でしかないグレムの援護射撃がちょっとはましになることを祈るわよ」
「そんな風に見てたの!? 俺の戦い!」
二人はずっと俺が銃を使ってたのを苛立ち隠して見守ってたのか。
心遣いが苦しいよ。
いっそはっきり言ってほしかった。
「紆余曲折はあったが、武器も整ったな」
アクティスが鞘に収めた剣を腰にぶら下げる。イエニもアクティス同様に剣を身につけるが剣が大きく見える。
俺はいつもどおり背負う。
「そうだな。いよっしゃー! 爆破するぞー!」
俺たちは駆け出し部屋から出る。って、まてまて。
どこに行くんだっけ?
固まった俺を見て、アクティスがあっと珍しく間抜けな声を出す。
「地図を取りに来たんだったな」
全員で部屋へとリターン。そして駆け出してマジックキャノンがあるとされる場所へと向かった。